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不同意性交等罪

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強姦罪(ごうかんざい)とは、性暴力、すなわち抵抗困難な状態になった個人の性的自由を侵害する行為(強姦)を処罰する犯罪類型。性犯罪の中で最も重い犯罪とされている。

強姦罪一般

強姦罪の歴史

諸外国の処罰例

日本法における強姦罪

定義

日本の刑法においては、女性の性的自由を侵害する行為のうち、暴行脅迫を用いて被害者の抵抗を著しく困難な状態に追い込み、かつ姦淫(かんいん)を行うことが強姦罪を構成するとされている(刑法177条)。

暴行・脅迫を用いなくても、心神喪失・抗拒不能の女性を姦淫した場合は、準強姦罪を構成する(刑法178条)。

主体

定義上、強姦の被害者は常に女性であるが、強姦罪に問われるのは必ずしも男性に限らない。例えば女性が男性と共謀して被害者を押さえつけたり(共同正犯)、女性が別の女性を強姦するよう男性に依頼した場合(教唆犯)等がありうる。なぜなら、強姦罪は真正身分犯(構成的身分犯)である(最判昭和40年3月30日刑集19巻2号125頁)ので、強姦の直接的実行者である正犯にはならないが、その一方、刑法65条1項により、男性でなくとも(身分がなくとも)共犯にはなるからである。

客体

日本では強姦罪の客体は女性に限定されている。男性の性的自由を侵害しても、強姦罪は適用されない。どんな場合であれ(要するに男色で犯した場合でも)、強制わいせつ罪が適用される。これは相手の男性が13歳未満であっても同様である。

客体が13歳未満の女子の場合

13歳未満の女子を姦淫する、またはさせる場合は、脅迫・暴行がなく、同意があったとしても強姦罪を構成する(刑法177条後段)。行為の意味を理解できず、有効な同意ができないと考えられるからである。ただし、相手が13歳以上だと思い込んで同意の上で性交した場合は、故意がなく責任が阻却されるため強姦罪は成立しない。

実行行為

暴行・脅迫

強姦の手段としての暴行又は脅迫の存在が必要である。 判例によれば、強姦罪の暴行・脅迫については、相手方の反抗を著しく困難にする程度のものであれば足りるとして、強盗罪の場合のような、相手方の反抗を不能にする程度までの暴行・脅迫でなくともよいとする(最判昭24年5月10日刑集3巻6号711頁)。現在の判例・解釈の主流は、この判決を基本にしたものがほとんどとなっている。

準強姦罪

準強姦罪(刑法178条2項)の場合は、女性の心神喪失・抗拒不能に乗じ、又は暴行・脅迫によらずに女性を心神喪失・抗拒不能にする行為が必要である。

心神喪失とは、精神的な障害によって正常な判断力を失った状態をいい、抗拒不能とは、心理的・物理的に抵抗ができない状態をいう。睡眠・飲酒酩酊のほか、著しい精神障害や、知的障害にある女性に対して姦淫を行うことも準強姦罪に該当する(福岡高判昭和41年8月31日高集19・5・575)。医師が、性的知識のない少女に対し、薬を入れるのだと誤信させて姦淫に及ぶのも準強姦罪となる(大審院大正15年6月25日判決刑集5巻285頁)。

なお、犯人が暴行や脅迫を用いて被害女性を気絶(心神喪失)させ、姦淫に及んだ場合は、準強姦罪ではなく強姦罪となる。ただし、準強姦罪と強姦罪の区分は大きな意味ではなく、強姦罪と準強姦罪は同一の法定刑となっている。

姦淫

姦淫とは性交をいい、男性器の女性器に対する一部挿入で既遂に達し、射精の有無は問わない。

強姦致死傷罪

結果的加重犯

強姦罪を犯し、それによって被害者を死亡・負傷させた場合は、強姦致死傷罪(刑法181条2項)が成立し、無期又は5年以上の懲役に処せられる。 強姦は未遂でも、同様に強姦致死傷罪が成立する。

処女を強姦し、処女膜を破裂させた場合は強姦致傷罪に当たる。(最決昭和34年10月28日刑集13巻11号3051項)また、姦淫行為自体や、強姦の手段である暴行・脅迫によって傷つけられた場合のほか、強姦されそうになった女性が逃走を図り、その途中で体力不足などのために倒れたり、足を踏み外して怪我をした場合などもこの強姦致傷罪が成立するとされている(最決昭和46年9月22日刑集25巻6号769頁等)。結果的加重犯の項目も参照のこと。

なお、強姦致傷罪には同時傷害の特例の適用はないとした下級審の判決がある(仙台高判昭和33年3月13日高刑11巻4号137頁)。

殺意がある場合

殺意をもって女子を強姦し、死亡させた場合、どの条文が適用されるかについて争いがある。まず、181条2項に殺意がある場合を含むと考えるか否かに分かれる。

181条2項は結果的加重犯である点を重視し、殺意がある場合を含まないという説は更に、強姦致死罪と殺人罪観念的競合となるという説と、強姦罪と殺人罪の観念的競合となるという説に分かれる。判例は前者の説を採っている(大判大正4年12月11日刑録21輯2088頁)。

一方、181条2項には殺意がある場合を含むという説は更に、強姦致死罪の単純一罪であるという説と、刑のバランスを考えて(強姦致死罪には死刑が規定されていないため、単純な殺人よりも、殺意をもって強姦し死亡させた場合のほうが法定刑が軽くなってしまう)、強姦致死罪と殺人罪の観念的競合となるという説に分かれる。

未遂等・強盗強姦罪

姦淫行為の開始、あるいはその手段としての暴行・脅迫が開始した時点で強姦罪の実行の着手があったといえ、姦淫が既遂とならなくても、強姦未遂罪(刑法177条、179条)が成立する。

また、強姦の故意が認められない場合や、男子に対する姦淫でも、強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪(刑法176条・178条1項)が成立し得る。

強盗犯人が口封じなどの目的で強姦に及ぶケースがあることから、強盗強姦罪(刑法241条)が別に定められている。

親告罪

強姦罪は、親告罪であるから、被害者(又はその法定代理人等)の告訴がなければ公訴を提起することができない(刑法180条1項)。

しかし、後述のように、告訴したとしても、その後の事情聴取や法廷の場で証言しなくてはならないという苦痛(セカンドレイプ)から、被害者が訴えずに泣き寝入りをしてしまうケースの多い犯罪でもあるとも言われる。

ただし、2人以上の者が現場で共同して強姦・準強姦を行った場合は、平成16年(2004年)の刑法改定で集団強姦罪・集団準強姦が成立することとなり罰則が強化されたが(刑法178条の2)、この場合は告訴がなくても処罰の対象となる(罰則強化以前も、2人以上の者が強姦した場合は親告罪の対象から外されていた(改定前刑法180条2項))。

また、被害者が受けた精神的ショックや犯人との関係により、短期間では告訴するか否かの意思決定をすることが難しいことも多いため、平成12年法律第74号の改定により、強姦罪等については6か月の告訴期間が廃止された(刑事訴訟法235条1項)。

法定刑

  • 強姦罪・準強姦罪
3年以上20年以下の有期懲役(刑法177条、178条2項)
  • 集団強姦罪・集団準強姦罪
4年以上20年以下の有期懲役(刑法178条の2)
  • 強姦致死傷罪・準強姦致死傷罪
無期又は5年以上20年以下の有期懲役(刑法181条2項)
  • 集団強姦致死傷罪・準強姦致死傷罪
無期又は6年以上20年以下の有期懲役(刑法181条3項)
  • 強盗強姦罪
無期又は7年以上20年以下の有期懲役(刑法241条前段)
  • 強盗強姦致死罪
死刑又は無期懲役(刑法241条後段)

罪数に関する判例

  • 強盗犯人が女子を強姦し、よって負傷させた場合、強盗強姦罪単純一罪である(大判昭和8年6月29日刑集12巻1269頁)。
  • 強姦犯人が強姦後に強盗の故意を生じて金品を強取した場合、強姦罪と強盗罪併合罪となる(最判昭和24年12月24日刑集3巻12号2114頁)。
  • 強盗犯人が女子を強姦し、故意に殺害したときは、強盗殺人罪強盗強姦罪観念的競合となるとしている(大判大正10年5月13日刑集14巻514頁)が、争いがある。詳しくは強盗強姦罪を参照。

裁判実務

判例によれば、強姦罪の暴行・脅迫については「相手方の抗拒を著しく困難ならしめる程度のものであれば足りる」として、強盗罪にいう暴行・脅迫のような「相手方の抗拒を不能ならしめる程度」までの強度でなくともよいとする(最判昭24年5月10日刑集3巻6号711頁)。現在の判例・解釈の主流は、この判決を基本にしたものがほとんどとなっている。

近年、被害者側の痛みを理解する判例へと少しずつ動く傾向がみられるが、いまなお被害女性の貞操観念を重視する裁判官も存在し、法廷におけるジェンダー・バイアスは減少していないという指摘もある。

裁判実務における問題点

  • 被疑者・被告人となった男性が合意(いわゆる和姦)を主張する場合、被害者および検察側が暴行・脅迫の事実や、被害者が抵抗した事実の立証を強いられる困難に関する論議は尽きていない。
  • 強盗罪の大部分が、見ず知らずの相手に対して行われる犯罪であり、通常、見ず知らずの相手に金銭を無償で提供する事は考えにくいから、強盗罪に関して、被害者側の意思がどうであったかや、それを加害者側が知っていたかの事実認定が困難なケースは多くない。それに対して、強姦罪の大部分は、知り合いの間で発生していることから、性行為に至る経緯を詳細に調査しないと、合意の有無を判断することは難しい。また、単純に、性行為が行われる状況では、通常、目撃者が少ないといった問題もある。
  • たとえとしてよく言われる例に、強盗被害者は「強盗された側が悪い」と言われないにもかかわらず、強姦被害者が法廷や取り調べの場で、加害者につけいる隙をつくったか否かを詮索されたり、被害者が異性との交友関係、性体験の有無について詮索されるのはおかしい、という指摘があり、実際、裁判実務上でも、このような例は後を絶たない。
  • 最近は求刑を上回る判決が出されているが、十数人を強姦しても無期懲役が出る場合がある。関西で発生した鹿島建設営業社員による170名もの強盗強姦が無期懲役であるのは多数の被害者やその家族の心情の憤慨さ考慮すると問題である。また、鹿島建設社員は業務上の知識を生かし勤務中に行った強盗強姦犯行であり、雇用者の管理責任を追及すべきであるが、現行法では雇用者の責任を追及できないところに問題がある。

政府・与党のプロジェクトチームは2003年9月25日に会合を開き、

  1. 強姦罪の法定刑を「2年以上の懲役」から「3年以上の懲役」に引き上げる(2年と3年の差は、執行猶予との関係で意味を持つことを期待してのものである。刑法25条参照。)
  2. 集団強姦罪を新設し、4年以上の懲役とする

などを盛り込んだ改定案の検討に着手した。これは、自民党太田誠一元総務庁長官が、与党3党の女性議員らに呼びかけて立ち上げたもの。 同9月30日の参議院本会議において小泉純一郎首相は、強姦罪の罰則強化と集団強姦罪の創設について理解を示しながらも、具体的方策については触れなかった。 その後、2004年(平成16年)12月の刑法改定で法定刑が引き上げられ、集団強姦等(第178条の2)の規定が設けられた。

強姦の定義の見直し

民間団体のなかには強姦を、

  1. 女性に対する支配・征服・所有が性行為という形をとった暴力
  2. 女性が望まないすべての性行為
  3. 女性への暴力を容認し助長している、この社会全体の問題

と定義する団体(たとえば、これは東京・強姦救援センター)もある。これはおおむね米国などの概念に準拠しているとみられる。

  • 東京・強姦救援センター : 強姦とは(外部リンク)

夫婦間、DVとの関連

夫婦間における強姦について「婚姻が破綻して夫婦たる実質を失い名ばかりの夫婦にすぎない場合にはもとより夫婦間に所論の関係(いわゆる通常の夫婦関係での性交)はなく、夫が暴行又は脅迫をもって妻を姦淫したときは強姦罪が成立する」と認定した1986年の鳥取地裁判決(鳥取地決昭61.12.17)がある。しかしこのケースでは、強姦認定の条件として、

  1. 妻が夫と別居していて、婚姻は破綻していた
  2. 別居していた夫が、友人とともに妻を輪姦した

というきわめて特殊なケースで例外といえ、女性の性的自己決定権を尊重した結果出されたのではなかった。一般的な女性の性的自由の侵害について、この判例を適用するのは無理との声は多い。(女性の性的自己決定権を尊重するとしたら、ほとんどすべての男性が逮捕されてしまうからだ。)

また、夫婦間ではなく、父による娘の強姦(いわゆる近親姦)・性的虐待を含めドメスティックバイオレンス(DV)の視点からトータルに捉えるべきだとする意見もある。強姦事件のうち七割以上が家族を含む親しい間柄によると推定されているからである。

男→女以外のレイプ

刑法の強姦罪の対象になるのは男性が女性に対して行うレイプのみであるが、それ以外のパターンも存在しうる。

女性が男性を強姦するという概念が日本の刑法に存在しないのは、特に女性は貞操を守るべきとの古来からの貞操観念によるといわれる。 また男性に対する性的侵害時には男性器が勃起しなければ性的結合は不可能であるため、この場合強制わいせつ罪等で処罰すれば足りると考えられていることもある。

しかし、男性側の性交の意思以外でもって生殖器が勃起する可能性もあるため、男性にのみ強姦罪を適用することに妥当性がないとする有識者から批判もあがっている。例を挙げるならば、貞操観念の強い男性が全裸の女性から無理矢理性交を迫られ、本能的に勃起はしたものの、性交を拒み抵抗し続けたといった場合や、単純刺激(泌尿器科では生殖器の検査として日常的に行われており、性的刺激の有無に関らず生殖器は無意識的に勃起する)、薬物の使用、既に生殖器が別の原因で勃起していた場合(たとえば、被害男性が別の女性と性交しようとしていた、自慰を行っていた、持続勃起症など)なども考えられ、本能的な生殖器の反応と性交の意思は必ずしも一致するわけではない。

また、少年への虐待事件は多数発生しており、成人女性が加害者で姦淫に至ることもあるが、この場合少年の心的外傷は大きく、少女における性被害と変わるところはない。また、男性が男性を、あるいは道具を用いて女性が女性を犯すなど、同性間のレイプも起りうるが、現在のところこういった被害への理解は日本ではほとんどなされていない。

このような現状の中で、男女平等の観点から、強姦罪は男女共に適用し、同性間の性的虐待にも適用するように改正するのが望ましいとする声がある一方、被害に遭うのは女性が主である、女性が加害者になる事件は極僅かであるなどの点から消極的な考えも多く、実際には反映されていない。しかし、これは極論すると『一方の性のほうの被害状況が主であれば、もう一方の性の被害は無視してもいい』ということになりかねず、活発な議論が求められる。

国際的批判

近年、国連規約人権委員会女子差別撤廃委員会女子差別撤廃条約に基づく)などの国際機関において、日本における法と法の運用の不備を指摘されている。

関連項目

参考文献

外部リンク