野生のネコ科動物の中でも、近年特にウンピョウが商取引の対象として人気を博し、盛んに繁殖が行われるようになっていることが、英オックスフォード大学野生生物保護調査ユニットの調査によってわかった。ウンピョウはペット市場の他、ネコ科動物目当ての旅行者が訪れる観光施設など、利益目的でさまざまな方面に販売されているという。
今回の調査を手がけたニール・ドゥクルーズ氏、デヴィッド・マクドナルド氏が、ワシントン条約(CITES:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)に基づいた輸出入記録を調べたところ、ウンピョウの生体の商取引は、1975年から2013年にかけて42パーセント増加していることが判明した。
ウンピョウは東南アジアに生息し、その名前は雲のような模様がついた独特の毛皮に由来する。大型のネコ科動物の中では非常に小さい部類に入り、体重は23キロ程度、体長は1メートル弱にしかならない。彼らはユキヒョウとも、アフリカやインドにすむ「普通の」ヒョウとも、まったく異なる分類群に属している。
近年のウンピョウ人気には、トラの数の減少が大きく影響している。骨や脚といったトラの体の部位は、伝統的な漢方薬に使われ、また邪気を払う力があるとも言われており、その生息数は現在、3200頭に満たないと推測される。(参考記事:「消えゆく王者 トラに未来はあるか」)
野生のウンピョウの数は1万頭前後であり、1000頭以上の大きさを持つ個体群は1つもなく、分布地域はインドネシアから、ヒマラヤ山脈の裾野、中国にかけて広がる。国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、ウンピョウは絶滅の恐れが高い種に分類されている。
彼らにとって最大の脅威は森林破壊だが、違法取引もまた深刻な問題だ。
違法取引の隠れ蓑にも
ワシントン条約では、ウンピョウを附属書Iの掲載種に指定している。これはつまり、商取引できるのは商業目的のために飼育下で繁殖させた個体のみに限られることを意味する。
この点に大きな問題があるとドゥクルーズ氏らは考えている。彼らの調査によると、ワシントン条約による取引規制が始まった1975年以降、合法的に取引されたウンピョウは200頭以上にのぼり(その大半が商取引)、しかも輸出入を記録したワシントン条約の書類は不完全で、矛盾点も散見されるという。(参考記事:「密猟象牙の闇ルートを追う」)
こうしたいい加減なやり方が「野生個体のロンダリングにつながる」とドゥクルーズ氏らは指摘する。飼育下で繁殖させた個体の合法的な取引が、密猟や、捕獲した野生の個体を繁殖個体だと偽って販売する不正な活動の隠れ蓑となっているのだ。
もうひとつの問題は、トラが手に入りにくくなったことから、個人オーナーがウンピョウに注目しはじめていることだ。ドゥクルーズ氏らは現場を知る協力者を通じて、東南アジアのトラの繁殖場、さらには南アフリカのライオン・パークにまで、ウンピョウが飼われていることを確認している。
ミャンマーなど一部地域では、ウンピョウの歯、骨、皮の取引は、昔から祈祷や医療目的に珍重されてきたトラをはるかにしのぐ規模で行われている。(参考記事:「サイの悲鳴 漢方薬ビジネスが招いた闇」)
論文は、ウンピョウの取引が、トラの個体や部位の代替としてこの先も拡大を続けるのかどうかを判断するには、さらなる調査が必要だと結論づけている。
飼育環境がなおざりに
商取引されるウンピョウの増加に伴い、飼育場で繁殖させられる数も増加してきた。ウンピョウは非常に繊細な動物であり、ストレスを感じると毛皮をむしったり、尾を噛んだりする場合もある。特に飼育場に閉じ込められたオスは、異常に攻撃的になることがあり、オスがメスを殺した例は記録にあるだけでも25件を数えている。
「非常に懸念されるのは、飼育場でウンピョウを集中的に繁殖させている施設においては、彼らの幸せや保護が考慮されるとは限らないことです」とドゥクルーズ氏は言う。
米国は世界一のウンピョウの輸出国、かつ世界第2位の輸入国だ。この国では1万〜2万頭の大型ネコ科動物がペットとして飼われており、動物園や遊園地などの観光施設でも簡単に彼らの姿を見ることができる。
外国産のめずらしいペットの売買は、米国では実入りのよい商売であり、州によってはヒョウやライオンなどに関する規制が、ペットの犬に関する規制より緩いところもある。(参考記事:「風変わりなペットたち」)
ウンピョウの商取引増加を懸念する研究者らは、監視強化の重要性を訴える。ドゥクルーズ氏は言う。「現状を詳しく調査し、ウンピョウの商取引がどんな影響を引き起こすのかを、よく理解する必要があります」