Photo Stories撮影ストーリー
漁船アークティック・レディ号から撮影した嵐の中のベーリング海。カニ漁のカゴを海底から引き上げている。(PHOTOGRAPH BY COREY ARNOLD)
太平洋の北、アリューシャン列島の北に広がるベーリング海は、地球上でもっとも過酷な海域のひとつだ。強風と極寒、そして氷のように冷たい水、それが日常だ。この3つが一緒になって世にも猛烈な波が押し寄せ、普通の日でも10メートル近い高さの波に揺られる。
なぜ、人はそんなところへやって来るのか。有り余るほどの海の幸にありつけるからだ。ここは、サケやカニといった海産物が豊富な、世界有数の漁場となっている。(参考記事:「ピンクサーモンの激増、生態系に影響」、「アラスカの鉱山、最大サケ漁場を汚染?」)
コーリー・アーノルド氏は、夏はサケ漁師として過ごし、厳寒の冬は写真家になる。自ら熟知する漁業を専門に撮る希少な存在だ。「あれほどの天候の中で写真を撮ろうとする人はほとんどいません。世界の果てで撮影するのは、私にとってかなりの強みになっています」と、彼は語る。
アーノルド氏が大事にしているのは、被写体のサイズ感だ。海がいかに広大であり、人間がどれほどちっぽけな存在であるかを表現するにはどうしたらよいか。一方で、これほど荒々しい自然を変貌させた人間をいかに表現するか。人間は、キツネを餌をねだる動物に、威厳あるハクトウワシをうっとうしい存在に変えてしまったのだ。(参考記事:「アラスカの孤島で海鳥エトピリカが謎の大量死」)
実際の撮影は、現場にいれば十分。そして、時折遭遇する危険に立ち向かうだけの気概があればよい。漁と撮影は、とてもよく似ている。願ってもないチャンスは都合のよい状況で訪れるとも限らないし、一瞬で過ぎ去ってしまう。網のもつれやレンズの汚れが、勝敗の分かれ目となる。「ギャンブラーの勘みたいなところがありますね」と、アーノルド氏は言う。
苦労は、絶好のシャッターチャンスとして報われる。落ち着かない海が突如として荒れ狂ったり、ハクトウワシの目が怒りに燃えたり、サメが最期のときを迎えたりする。(参考記事:「海に落ちたハクトウワシ、このまま死ぬのか?」)
今回の写真は、アーノルド氏が漁をしていない冬期、荒海に出た大型トロール船とカニ漁船に乗り込んで撮影したものだ。この船旅の間、彼は傍観者としての立場を貫いた。海の状態と同じくらい過酷な撮影だったが、悪天候にもめげずに楽しめたとアーノルド氏は言う。いつも以上に器具のメンテナンスが必要だったので、時化で甲板が絶え間なく波で洗われている間は、たいていレンズを磨いて過ごしたそうだ。(参考記事:「深海の底引き網漁で海底に壊滅的影響か」)
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