カナダ政府、国民データベースの解体を決定

カナダ政府は国民のきわめて私的な情報を収集しデータベースとして管理してきたが、そのことについて国民やプライバシー・コミッショナーが猛反発した。ついにカナダ政府は彼らの圧力に負け、データベースの解体を決定した。

ワイアード・ニュース・レポート 2000年05月31日

自分たちが任命したプライバシー・コミッショナーからの圧力に負け、カナダ政府は29日(現地時間)、カナダ国民の一人一人について集めた2000ビット分の情報を含む膨大なデータベースを解体すると発表した。

カナダ連邦政府が管理する『長期労働力ファイル』(LLFF)と呼ばれる問題のデータベースには、所得税申告書、児童手当給付、福利厚生ファイル、連邦政府による失業対策プログラム、職業訓練と雇用サービス、失業保険ファイル、国民健康保険マスター・ファイルから集められた個人データが含まれている。

このLLFFについて、カナダのプライバシー・コミッショナーであるブルース・フィリップス氏は、データベースの規模が大きすぎることやプライバシー保護が欠如していることを問題として取り上げた年次報告書を2週間前に提出した。それを契機に、LLFFはカナダの議会やマスコミで厳しい追及を受けてきた

フィリップス氏は2週間前に、「プライバシー・コミッショナーはカナダ国民に対して、カナダ国民に関する単一の連邦政府ファイル、つまりプロフィール・ファイルは存在しないと断言してきた。だが間違っていた。……あるいは、安心できるほどには正しくなかった」と語った。

29日、データベースの管理を担当するカナダの人材開発省(HRDC)は、複数のデータベースの情報をリンクさせるソフトウェアを破棄し、カナダ国税局から得たデータを返却するとともに、残っているデータが責任を持って取り扱われることを保証できるようにする一連の方針を確立したと述べた。

今後は、たとえば研究目的に使用されるデータからは、個人を特定できるような識別要素はすべて取り除かれる。

ジェーン・スチュワート人材開発大臣は声明の中で、「高度に発達し、しかも変化の絶えないテクノロジー時代におけるプライバシーについての懸念を考慮し、将来のプライバシーへの脅威を払拭するような方策を選んだ」と述べた。

同大臣は、人材開発省ではさらに外部に諮問委員会を設置し、将来の研究や政策分析においてデータがどのように使用されているかを監視させるつもりだとも語った。この諮問委員会には、現在のプライバシー・コミッショナー事務局も含まれる。

フィリップス氏はこれらの点のすべてに歓迎の意を表し、人材開発省の対応は年次報告書で触れたあらゆる問題に対処するものだと述べた。

フィリップス氏は、人材開発省にあてた書簡にこう書いている。「私は、一連の議論を可能にした精神と、情報システムの管理監督を改善しカナダ国民のプライバシーの権利を強化するためにあなた方が示した断固たる決断力に、特に注目したい」

[日本語版:藤原聡美/岩坂 彰]

WIRED NEWS 原文(English)