「米国のワイヤレス化の遅れが音楽業界の首を絞める」

ワイヤレス業界の権威であるジム・グリフィン氏が、米国におけるワイヤレス音楽配信の遅れは致命的であり、レコード業界はもっと魅力的なコンテンツを提供すべきだと述べ、満場の喝采をあびた。サンディエゴで開催された『MP3サミット』からの報告。

Brad King 2000年06月23日

サンディエゴ発――ミュージシャンとそのマネージャーたちはデジタル音楽の著作権侵害を防ぐための技術的進歩を妨げている――あるワイヤレスの専門家が21日(米国時間)、音楽とインターネットに関する会議でこのように語った。

米ワンハウス社のジム・グリフィン最高経営責任者(CEO)は、レコード業界は自由な利用が難しいようなデジタル世界を作り出したうえ、喜んで金を払いたくなる商品を消費者に与えられずにいると語った。グリフィンCEOの講演のあいだじゅう、割れるような拍手喝采が続いた。

「アーティストとそのマネージャーたちは、自分たちの音楽に付ける値札に支払われる代金が誰の懐に入るのか、そしてわれわれが誰に支払うべきなのかを書き、責任を持ってそのお金を回収することを拒んでいる。こうしたことが発展の妨げになっているのだ」と、グリフィンCEOはサンディエゴで開催された『MP3サミット』で語った。

この問題は米国特有のものだとグリフィンCEOは指摘した。

10年もすれば、中国やアフリカ諸国がワイヤレス界のリーダーになっているだろう。これらの国々は、接続のために有線ネットワークを敷設することに力を注いでいないからだ。

だが米国はワイヤレス・ネットワークの価値を気付いていない。フィンランドや日本といった国々でワイヤレス・ネットワークがどのように機能しているか知らないからだ。それどころか、米国の音楽業界は音楽を配布する新しい機会を作り出す代わりに、音楽をしまい込むことに努力を集中させてきた。

「音楽業界は、海賊行為をしようという動機を損なうようなビジネスモデルを採用しなければならない」とグリフィンCEOは、米MP3コム社のマイケル・ロバートソンCEOが20日に行なった開会の辞の主旨を繰り返した。

「弁護士も技術者も、この海賊行為の問題を解決してくれないだろう。41歳の大人が考え出したどんな方法だって、どうせ14歳の少年に台無しにされてしまうのだから」とグリフィンCEO。

グリフィンCEOによると、消費者向けのコンテンツがないことがワイヤレス・ネットワークの発展の遅さにつながっているという。

韓国のサムスン社は今年末に、プレイリストを保存でき、ステレオ並みの音質で音楽を再生するうえに、ウェブブラウザー機能も付いたMP3携帯電話機を発表する予定だ。韓国では1年半前から似たような電話機が市販されている。

その一方で米国の音楽業界は、ワイヤレス技術とデジタル技術が提供する機会を見逃し続けている。

グリフィンCEOによると、平均的な米国人は音楽に月約4.40ドル費やすという。だから、たとえば米ウェブノイズ(Webnoize)社による『ナップスター』に関しての調査報告書が提案している月15ドルの会員サービスモデルを開発すれば、現在400億ドルの世界の音楽産業の規模が1000億ドルにまで拡大する可能性があるのだ。

デジタルメディア企業、米ボケット社のマーケティング担当上級副社長、リディア・ゲーブル氏も、デジタルネットワークを至るところに張り巡らすことが重要だと述べている。

「ワイヤレスがもっと簡単になり、価格が下がらない限り、消費者が情報を手に入れるための本当に簡単な方法は現われないだろう」とゲーブル氏は指摘した。

ネットワークを発展させずに、情報をしまい込むためのセキュリティー手段を作り出せば、音楽業界の発展が遅れるどころではない大きなダメージを受ける恐れがあるとグリフィンCEOは危惧する。

「われわれはユーザーやその親の懐具合に基づいてコンテンツをしまい込むための『デジタル包み紙』を利用してはならない。人々は本や音楽や情報を手に入れることができてしかるべきなのだ。それでこそ、本、音楽、情報の本来の目的が果たせるのだから」とグリフィンCEOは語った。

[日本語版:矢倉美登里/岩坂 彰]

WIRED NEWS 原文(English)