企業独自のトップレベル・ドメインにICANNは

世界のドメイン名登録システムを統括して非営利の国際団体ICANNに対抗し、独自のトップレベル・ドメイン名を作ろうとする新しい企業が登場している。ビント・サーフ氏などICANN側の人々は、こうした動きにICANNとしては干渉できないが、ユーザーに混乱を招くおそれがあると警告している。メルボルンのICANN会議からの報告。

Stewart Taggart 2001年03月13日

オーストラリア、メルボルン発――新興のインターネット企業が独自のトップレベル・ドメイン名を作ろうとしている。『インターネット・コーポレーション・フォー・アサインド・ネームズ・アンド・ナンバーズ』(ICANN)によれば、このことはICANNにとってというより、ウェブサーファーたちにとって大きな問題になりそうだという。

「このアイディアは――というよりトリックみたいなものだが――以前にも他の企業が試みたことがある。だが、ビジネスとして実りあるものにはならなかった」と、米ワールドコム社の上級副社長(技術担当)でICANNの理事を務めるビント・サーフ氏は言う。

現在、世界のドメイン名登録システムを統括している非営利組織ICANNは、メルボルンで9日(現地時間)から5日間にわたって会議を開催する。昨年11月に行なわれた前回の会議では、『.aero』、『.biz』、『.info』、『.name』、『.pro』、『.museum』、『.coop』という7つの新しいトップレベル・ドメイン(TLD)名の追加が承認された。目下、ICANN側の登録担当者が、新ドメイン名についての契約に関する話し合いを進めているが、すべてとは言わないまでも多くの新しいドメイン名が、1年以内に使われるようになるだろう。

だが、この審議のペースをひどくじれったいものに感じている企業もある。カリフォルニア州パサデナのニュー・ネット社もその1つだ。ニュー・ネット社は今月初め、20のTLDを新たに作成し、独自に管理する計画を発表した。たとえば、『.shop』、『.law』、『.mp3』、『.tech』、『.video』、『.name』、『.sport』、『.kids』、『.chat』、『.inc』、『.med』、『.family』などだ。

ニュー・ネット社のシステムを機能させるには、個々のインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)の協力を受けるか、ウェブサーファー1人1人にブラウザー用のプラグインをダウンロードしてインストールしてもらう必要がある。いずれの場合も、ユーザーが新しいTLDを含むアドレスを指定すると、まずニュー・ネット社のサイトを経由して、本来はニュー・ネット社のサブドメインとなる目的のサイトに到達する。このような方式なら、ニュー・ネット社のシステムが、一般的TLDを決めるICANNの機能を事実上脅かすことはないというわけだ。

だが、別のところで問題が生じるかもしれないと、サーフ氏は警告する。たとえば、このプラグインが組み込まれたブラウザーやISPと、そうでないものの間に線引きが行なわれることにもなりかねない。この問題は重要だ。つまり、自分が確実に目的のサイトにアクセスしようとする場合に、この違いをわきまえておく必要があるということだ。たとえば、プラグインが組み込まれていないブラウザーやISPが、新アドレスへの接続要求をほかのサイトに転送してしまい、予期せぬ結果が生じるかもしれない。

さらに、新しい「ドメイン」との電子メールのやりとりは、ニュー・ネット社のドメインに対応していない電子メールソフトやISPにとって、やっかいな問題を引き起こすかもしれない。

問題はそればかりではない。サーフ氏によれば、ニュー・ネット社のような企業は将来的に、ICANNの方針においても悩みの種となるかもしれないという。つまり、ニュー・ネット社が新しいドメイン名を作ると、ICANNとしては、曖昧さが生じるのを防ぐために、ドメイン名の作成にあたって、それに似た名前を避けるという事態にもなりかねない。独自路線をいく企業が、将来のICANNの方針に影響をおよぼすことになるのだと、サーフ氏は話す。

にもかかわらず、ICANNにとって、ニュー・ネット社のような企業が新しい試みを行なうのを中止させたり、思いとどまらせることはできないし、またそうすべきではない。もちろん、その試みがインターネット自体の機能を損ねるようなことがないかぎりにおいてだが。

「私はこのアイデアの価値を認めているわけではないが、インターネットを破綻させる心配はないだろう」とサーフ氏。

こうした動きに抵抗を示すよりも、ICANNとしては、電子メールやルーティングの混乱など、新ドメイン名の欠点を一般に広く知らせるべきだろうと、サーフ氏は言う。

ICANNのルイス・トゥートン副事務総長兼法律顧問も、ほぼ同じ意見だ。「インターネットは自由だし、自分の望むようにしていいのは明らかだ。だが、この仕組みがユーザーにとって大いに役立つとは思えない。ほとんどの人は、ドメイン名を打ち込むかぎりは、確実に目的のサイトにたどり着きたいと考えるはずだ」

結局、ニュー・ネット社を受け入れるかどうかの最終的判断は、ユーザーが下すことになると、トゥートン副事務総長は考えている。

一方、ICANNが正式に承認した新しいドメイン名の管理者に選ばれた7社との契約交渉がスムーズに進めば、いちばん早い企業では5月にも運用開始時期を発表できるだろうと、トゥートン副事務総長は話す。

サーフ氏によれば、ICANNは、新しいドメインの運用状況を少なくとも半年間か、おそらくそれ以上の期間モニターした後、さらなるTLDの追加に踏み切るかどうかを決定する意向だという。

ICANNの各担当部会は10日にそれぞれ会合を開き、ビジネス、接続性、知的所有権、非営利活動などをめぐる問題を検討する予定。11日と12日には、ICANN内部の上位のグループの会合があり、続いて13日に理事会が開かれる。

[日本語版:福岡洋一/多々良和臣]

WIRED NEWS 原文(English)