世界第2位のスパコンは民間利用も可能

世界第2位の高速スーパーコンピューター、『テラスケール・コンピューティング・システム』(TCS)が誕生した。民間利用が可能なマシンとしては最速を誇り、宇宙物理学、生物学、医療などさまざまな分野における研究開発の期間短縮が期待される。

Mark K. Anderson 2001年10月05日

今週登場した最新のスーパーコンピューターは、銀河団から錯体分子にいたるまで、あらゆるものを計算する可能性を広げてくれる。

ピッツバーグ・スーパーコンピューティング・センターは1日(米国時間)、『テラスケール・コンピューティング・システム』(TCS)の設置完了を発表した。TCSは、ローレンス・リバモア国立研究所の『ASCIホワイト』に次ぐ、世界第2位の強力なスーパーコンピューターだ。

ASCIホワイトの用途は機密扱いの兵器の研究に限られているので、6テラフロップス(毎秒6兆回)の演算能力を持つTCSは、公共の科学研究用としては世界最速のコンピューターということになる。

カリフォルニア大学サンディエゴ校のマイク・ノーマン氏は今年、TCSのプロトタイプを使って天体物理学のシミュレーションを行なった。

256基のプロセッサーを搭載したこのプロトタイプ『TCS-1』は、エンジニアがハードウェアのコンポーネントをテストする目的で試作された。ノーマン氏はこの試作機を用いて、気体や微粒子かならる星間物質が雲状に固まり、星が形成される過程をシミュレートしたのだ。

TCS-1の強力な演算能力のおかげで、より詳細な条件設定が可能になった。その結果、星が形成される過程で、その星の周囲を回転する物質の円盤が生成される様子を、初めてシミュレートできたのだった。このような円盤は、できたばかりの星の周囲でしばしば観察されるもので、これがやがて太陽系のような惑星系となるのではないかと考えられる。

「このシミュレーションは、宇宙の歴史という壮大な叙事詩のほんの一部を垣間見せてくれたにすぎない。今後記述されるべき章はまだ残っているが、書き出しは将来有望な正しい方向に向かっている」とノーマン氏。

ピッツバーグ・スーパーコンピューティング・センターの2人の科学責任者の1人であるマイク・レバイン氏によれば、設置したばかりのTCSをこれまでに触ったのは、ノーマン氏を含めて数十人だという。レバイン氏の予想では、TCSが完全に機能するまで、検査と微調整に数ヵ月を要するとのこと。

「現在のユーザーたちには、本格的稼動が遅くなることを我慢してもらう必要がある。予想外の状況が起こりうることを理解してもらわねばならない」とレバイン氏。

全米科学財団は4500万ドルを拠出し、ハードウェアとソフトウェアの購入と、3年間の運用に充てている。さらに財団は、条件次第でこのスーパーコンピューターの使用料を負担することを約束している――つまり、全米の研究者は誰でも、テラフロップス級の演算力を利用するチャンスがあるのだ。

全米科学財団に使用料負担を依頼する申請において重要なのは、研究者の研究成果を最終的に公開すると確約すること。成果に対して所有権を有する研究については、前金を支払う必要がある。

利用者の多くは数日から数週間におよぶ使用時間を申請しているため、利用の順番待ちはあっという間に膨らんでいる。

クリントン大統領(当時)は2000年8月、TCSの利用によって「科学と工学の分野における発見や開発のペースが早まるだろう。竜巻の予測の精度が向上し、人命を救う薬品の開発期間が短縮され、より燃費のよいエンジンの設計が可能になるだろう」と述べた。

TCSが今後半年間で実行する予定の作業は、次のようなものがある。

  • 人体内の血液循環のシミュレーション
  • 『宇宙気象』のモデリング
  • ガン治療薬のバーチャル試験
  • 地球の磁気圏のグローバル・モデリング
  • 乱流の内部で発生する衝撃波と渦のシミュレーション
  • 素粒子の「格子ゲージ理論」における量子力学的計算
  • 銀河系と銀河団の大構造
  • 個々の細胞内におけるタンパク質の相互作用のモデリング
  • プラズマの不安定性と乱流の研究
  • 宇宙の構造形成のモデル試験 イリノイ大学シャンペーン・アーバナ校の上級リサーチプログラマー、ジム・フィリップス氏が協力して開発したオープンソースの生体分子モデリング・プログラム『NAMD』も、すでに一度TCS上で走らされており、まもなくもう一度TCSを利用することになっている。

クラウス・シャルテン氏率いるこのイリノイ大学生物物理学研究チームは、TCS-1のプロトタイプでNAMDプログラムを実行した。呼吸と光合成で使用される、ATP合成酵素と呼ばれる32万7000個の原子からなる生体分子をシミュレートするのが目的だった。

ノーマン氏の場合とは異なり、シャルテン氏のチームはコンピューター全体を使用する専用利用時間を申請する必要はないかもしれない。TCSは2728基のプロセッサーで構成されているが、必要な作業はたったの256基で行なうことができるからだ。

「このコンピューターの6分の1を使用するだけでも、これまで使ってきたコンピューター全てを合わせたのと同じだけの作業を処理できる」とフィリップス氏は語った。

[日本語版:森さやか/高森郁哉]

WIRED NEWS 原文(English)