テロ頻発にもイスラエルのハイテク企業は意気盛ん(下)

自爆テロなどの頻発でイスラエル情勢は緊迫している。米国務省は、市民に中東への渡航を控えるように警告を発した。だが、現地のハイテク関連企業の見方は総じて楽観的だという。

Farhad Manjoo 2002年04月10日

(4/9から続く)

世界のハイテク産業が上り調子だったころ、イスラエルのハイテク界も急激な成長を遂げた。新興企業が相次いで生まれ、パレスチナとイスラエルの間の恒久的な平和が、マイクロチップを仲立ちにベンチャーキャピタルの投資を通して実現するのではないかという希望的な話まで出た。

「科学は国土よりも豊かだとわかった。科学には限界がないからだ」現在外相を務めているイスラエルのシモン・ペレス元首相は、1999年の『コムデックス・イスラエル』の開会スピーチでこう述べた。「われわれが隣人と一堂に会して、未来を話し合うことができるのは非常に喜ばしい。パレスチナのハイテク分野もわれわれと同じように発展してほしい。パレスチナの技術が発展すればするだけ、よい隣人どうしになれると考えるべきだ」

その1年後、イスラエル経済が下降しはじめると同時に、平和への期待も薄れていった。技術の発展がパレスチナとイスラエルの間に和平を実現するという願いは次第に夢物語の相を呈してきた。そしてもちろん、今では砕け散った幻想と化している。

ワイアードニュースがパレスチナ自治区で把握しているテクノロジー関連企業は、この1週間、どこも連絡がとれない。「パレスチナ政府」の公式サイト――いわく付きのトップレベルドメイン『.ps』(日本語版記事)のついた唯一のサイト――もダウンしたままだ。

コメントがとれたイスラエルの実業家の多くは、戦闘の激化に動じていないようだ。近隣諸国とはずっと冷やかな関係が続くなかをイスラエルは切り抜けてきたのだし、これまでの何度かの戦争に際してもなんとかうまくやってきたというわけだ。イスラエルのハイテク産業が、かつてのような勢いを欠いていると感じられるとしたら、それは中東の紛争のせいというよりも、世界経済の後退のせいだろうという意見もあった。

モーゲンスターン氏によれば、現在の混乱がかえってプラスになっている企業もあると考えられるという。たとえばイスラエルの通貨、シェケルが弱くなっている現状は、輸出に大きく頼っている多くのハイテク関連企業には有利に働いている。

イスラエルで設立され米国にも本社を置くソフトウェア会社、バックウェブ・テクノロジーズ社のエリ・バーカットCEOは、長期的に見てイスラエルのハイテク産業は「発展」するだろうと言う。特にバックウェブ社のように「緊急時の通信やオフライン通信を専門とする企業にそれが言える。イスラエルのトップ5企業を挙げてみれば、その多くはセキュリティーと通信関連だ。米アマゾン・コム社のような業種は見あたらない。イスラエルが最も強いのはセキュリティーと通信であり、それは軍と諜報機関の実績によるものだ」

イスラエルの日刊紙『ハーレツ』(Ha’aretz)紙は4日、現在イスラエルで最も強い産業に数えられるバイオテクノロジー産業に参入する、大規模な外国資本を2例報じた。

記事の中でビジネス・コラムニストのオラ・コーレン氏とオデッド・ハーモニ氏は次のように書いている。「外国企業の資本参加契約の中には、イスラエル政府が宣戦布告し、テロ攻撃が増えつづけているこの2週間ほどの間に締結されたものもある。今後少なくとも6年間は投資を続ける義務を負うことになるというのに、今回の戦闘を理由に撤退する可能性について、外国資本側が話題に出すことすらしなかったと報告しているイスラエル企業もあるほどだ」

「おそらく、イスラエル科学者の研究能力への信頼感のほうが、暗い現在の危機状態への懸念よりも大きいということだろう」

[日本語版:寺下朋子/小林理子]

WIRED NEWS 原文(English)