次期ウィンドウズ搭載パソコンの試作機はマックとそっくり

米マイクロソフト社のゲイツ会長は『WinHEC』の基調講演で、米ヒューレット・パッカード社と共同開発した試作機『アテネ』を披露した。米アップルコンピュータ社の『G4キューブ』によく似た半透明の筐体に、ワイヤレス電話とビデオ会議用のビデオカメラが付属している。来年後半に発売される予定で、次期『ウィンドウズ』と、新たなセキュリティー技術『ネクスト・ジェネレーション・セキュア・コンピューティング・ベース』(NGSCB)を搭載すると見られる。

Michelle Delio 2003年05月08日

おやおや……ビル・ゲイツさん! あなたの「内なるオタク」の姿がちらほら見えているよ。

いや、それってもしかすると本当は「内なるスティーブ・ジョブズ」かな?

たしかに、米マイクロソフト社のゲイツ会長兼最高ソフトウェア開発責任者(CSA)には、米アップルコンピュータ社のジョブズ最高経営責任者(CEO)のような強いカリスマ性はない。しかし、ゲイツ会長が6日(米国時間)、数百人のハードウェア開発者の前で撫で回していたコンピューターの試作機は、ゲイツ会長とジョブズCEOを――そしてこの2人のマシンを――比較せずにはいられないほど、マックとそっくりだった。

よく似ていたのは、展示された魅力的なコンピューターと、それを手にする日が待ちきれない熱狂的な観衆だけではなかった。ゲイツ会長は第12回『ウィンドウズ・ハードウェア・エンジニアリング会議』(WinHEC)の冒頭の基調講演(写真)で、見た目がよくて使いやすいパソコンやソフトウェアを設計することの重要性について語ったのだ。

「おや、飛行機を間違えて、『マックワールド・エキスポ』に来てしまったのかな?」と、ハードウェア開発者のフランク・コパー氏は不思議そうに語る。「いつからマイクロソフト社がコンピューターやソフトウェアの外見を気にするようになったのだろう? 誰かがゲイツ会長をハッキングして、プログラムを作り変えたに違いない」

唯一、ゲイツ会長のセキュリティーに対する徹底した注力ぶりがマックの雰囲気とは明確に異なっており、何か奇妙なことが起きつつあると心配しはじめたであろう聴衆たちを安心させた。おそらく彼らは、アップル社の新たな音楽ダウンロード・サービス『iTunes(アイチューンズ)ミュージックストア』(日本語版記事)の成功がゲイツ会長をマックへの全面攻撃に駆り立てたのか、とでも考えたことだろう。

ゲイツ会長の基調講演後、マイクロソフト社の代表者たちは、面白い機能を備えたクールなパソコンを作る点を今回新たに強調したのは、アップル社のビジネスモデルを真似る試みとは全く異なると主張した。

たぶんそうだろう。確かに、ゲイツ会長が重視しているのはグラフィックスと外見だけではなかった。

ゲイツ会長は6日、マイクロソフト社の『ネクスト・ジェネレーション・セキュア・コンピューティング・ベース』(NGSCB)――旧称『パレイディアム(日本語版記事)』――が次世代のウィンドウズ・オペレーティング・システム(OS)の主要な機能になると、初めて公式に認めた。次期ウィンドウズは『ロングホーン』という開発コード名で呼ばれている。

NGSCBは、新たなウィンドウズOSのコンポーネントの1つである『ネクサス』と、ハードディスク上の改竄(かいざん)不可能とされる「金庫」に保存したデータを暗号化する『セキュリティー・サポート・コンポーネント』チップを使用する。この「金庫」は、悪意あるハッカーやウイルス、スパイウェアからユーザーのデータを守ると考えられている。

パレイディアムはプライバシー擁護派からの抗議を招いた。このシステムは、ユーザーをマシンから締め出しておきながら、アプリケーションの開発企業にはソフトウェアやメディアファイルの使用方法について完全な支配を認めているというのが、プライバシー擁護派の言い分だ。

マイクロソフト社はWinHECの開催中、16時間にわたるワークショップを予定しており、参加者たちにNGSCBの仕組みを説明する。

ゲイツ会長はハードウェア開発者に対し、「今回のWinHECでは、初めてNGSCBの詳細を明かすつもりだ」と約束した。

「未調整の部分はまだたくさんあるが、最終的には、(NGSCBが)すべてのウィンドウズ機の標準機能になるだろう。プライバシーを保護すると同時に、現状では十分に安全ではない用途でコンピューターの使用を可能にする画期的な技術だ」

ゲイツ会長は見るからに夢中になっている様子で、『アテネ(写真)』という開発コード名で呼ばれるパソコンの試作機を披露した。アテネは来年後半に発売される予定で、発売当初からNGSCBとロングホーンの両方を搭載する可能性がある。

「ユーザーが必要とするものがすべて1台に集約されている。コンピューターのあるべき姿だ」とゲイツ会長は述べた。

マイクロソフト社と米ヒューレット・パッカード(HP)社が共同開発したアテネは、半透明の筐体を持ち、受話器とヘッドセットを統合したワイヤレス電話(写真)やビデオ会議用のビデオカメラが付属している。また、ぜいたくな23インチのフラットパネル・ディスプレーには、CD/DVDドライブが組み込まれている。

マイクロソフト社イノベーション・グループのプログラム・マネージャーを務めるチャド・マジェンダンズ氏は、アテネのデモを行ない、使い勝手のよい新機能を紹介した。

アテネは電話回線に直接接続でき、かかってきた電話を付属の受話器に転送できる。ディスプレーの筐体には複数の表示ライトが組み込まれており、点滅によって電子メールやボイスメールの受信、電話の着信、ビデオ会議をユーザーに知らせる。

また、会議や締め切りの予定時刻に、ライトの点滅で注意を促すこともできる。

開発の仕事をしているキース・カーレン氏は、次のように感想を述べた。「素晴らしいアイディアだが、ディスプレーにそうたびたび光ってほしいかどうかはよくわからない。私は電話やメッセージや電子メールをたくさん受けるので、信号機の前で働いているような気分になるだろう」

ディスプレーのライトはカスタマイズ可能で、通知機能のオン/オフを設定できる。

また、アテネのキーボードにはナビゲーションキーが付いており、電話への応答や、ボイスメール、電子メール、テキストメッセージのチェックが、ワンタッチでできる。音楽やビデオの再生を操作するキーもある。

ゲイツ会長によると、平均的な構成のアテネの価格は、かなり手ごろな1757ドルになる予定だという。

ゲイツ会長は基調講演で、ウィンドウズ向けハードウェアのグラフィック性能を活用するよう開発者たちに呼びかけた。

「ウィンドウズ用アプリケーションの外見は、どれも最高というわけではなさそうだね?」とゲイツ会長は聴衆に問いかけ、「しかし、ハードウェアは優秀なグラフィック機能を完備している。ぜひとも大いに活用し、飛躍してほしい」と語った。

[日本語版:米井香織/高森郁哉]

WIRED NEWS 原文(English)