Xiaomi:アップルとサムスンを脅かす企業

グーグルから幹部を引き抜いたXiaomiは、中国で3年前に誕生したスマートフォンメーカーだ。高性能のデヴァイスを格安で販売して、爆発的な人気を得ている。[VOL.23「Good Company」特集にて、Xiaomiに学ぶ3つのエコシステムのつくり方を掲載]
Xiaomi:アップルとサムスンを脅かす企業

ビジネスとミッションは両立できる! VOL.23「いい会社」 特集

「未来の会社」は、ちゃんと稼いで、ちゃんと社会の役に立つ! これからの会社が手にすべき「新しい存在理由」を解明する特集。ビジネスデザイナー・濱口秀司をはじめ、Beats by Dr.Dreプレジデントや新井和宏(鎌倉投信)、椎野秀聰(ベスタクス創業者)らが、これからの会社のあるべきかたちを指し示す。世界で広まりつつある「B-Corp」のムーヴメントや、シャオミ総帥の語る「エコシステム」哲学、Android OSを生んだ男が目指す新たなビジネスを育むプラットフォームづくりを追う。


中国のメディアは、「東のアップル」と定義したXiaomi(シャオミ)。しかしイタリアでは、Androidの製品管理責任者であるウーゴ・バラをグーグルから引き抜いて副社長に任命するまでは、ほとんど知られていなかった。

Xiaomiが誕生したのはわずか3年前のことだ。ほかの中国企業と異なっているのは、有名なスマートフォンの低コストなクローンをつくるにとどまらず、ヨーロッパでも話題になるような高性能の製品をつくり出していることだ。実際、一流のパーツを用いながら、アップルやサムスンのような巨大企業を震え上がらせるような値段で販売することに成功している。例えば彼らのMI-2SはGalaxy S4に相当するが、値段は半額だ。

企業のオーナーは、億万長者のレイ・ジュン(雷军)。42歳で、推定17億ドルの資産を保有している。大学生のころからスティーブ・ジョブズの熱狂的なファンで、あらゆる外見的特徴を真似ている。服装は、クラシックなジーンズに黒いポロシャツとスニーカーで、髪は無造作に片側で分けている。彼が登壇する基調講演は、背後に巨大なスクリーンのある大きな舞台で行われる。そこには企業の達成した成果が表示され、そこでは彼が唯一の主人公だ。

彼はこのような対比を嫌がらずに、むしろ好意的に受け止めている。そしてアジアのメディアはそのことを知っているので、まさに亡くなったアップルの元CEOと同じように、彼を「ヴィジョナリー」(予言者)と定義した。彼は中国ではスーパースターなのだ。中国版TwitterであるWeiboには、500万人のフォロワーがいる。

レイは、Word、Excel、Powerpointの互換ソフトウェアを開発する中国のメーカー、Kingsoftで働いたあとで、数多くのスタートアップ企業を立ち上げた。そのなかのひとつがJoyo.comだ。2004年にAmazonによって7,500万ドルで買収され、現在のベゾスのグループの中国版ストア、Amazon.cnになった。

6年後の10年に、Xiaomiが登場する。4,100万ドルの資金と、元マイクロソフトとグーグルのエンジニア、リン・ビン(林斌)とさらに5人のエンジニアが加入して設立された。彼らが開発した最初のモデル、MI-1は、すぐに成功した。11年12月に発表され、最初の1カ月だけで10万台の予約を記録した。そして3時間で売り切れ、Xiaomiは自前のサーヴァーのダウンのために、予約を中止しなければならなかった。このことは驚くには値しない。というのもこの4インチのデヴァイスは、CPUがSnapdragon S3 Dual Core 1.5GHz、メモリー1GB、8メガピクセルのカメラを搭載して、価格は1,999元(約218ユーロ)だったからだ。

正しい道を歩んでいるという確信は、後継のMI-1 Sとともにやってきた。12年8月に発売したこの強化版は、iPhone 3GSを図々しく真似たものだが、液晶は4インチTFT液晶(480×854pixel)、メモリーは1GBで、カメラのフラッシュとCPU Dual Core 1.7 GHzを追加した。しかし価格は大きく下がり、1,499元(約190ユーロ)となった。

ユーザーの購買欲は盛んで、30分間に20万台が売れた。そして2日ですべて売り切れるという記録を残し、最終的に販売台数は350万台に達した。大成功を収めたので、この製品のクローンまで競ってつくられることになった。

Lo Xiaomi Mi-1S

しかしその秘密は、自社サイトでの直販により最低限まで下げた価格だけではなく、OSにもある。スタイルはアップルを真似ているとすれば、内部はすべてMIUIで動いている。これはAndroidを改変したヴァージョンで、機能を改善し、最大限にカスタマイズしている。実際このROMはAndroidの能力をフル活用していて、iOSのさまざまなイノヴェイションを、実際にリリースされる前に追加している。そして大勢のユーザーコミュニティの助けを借りている。アップデートは毎週、正確に金曜日に行われることを考えてみるといい。要するに、MIUIは漁夫の利を得ているのだ。イタリアでは、Nexus Labが支援している。

ともかくXiaomiの発展はとどまることがなく、現在は最新モデルのMI-3が発売予定だ。この機種の場合、カラフルで四角張ったボディのノキアのLumia 920に明白に類似している。最近の噂によるとディスプレイは4.7インチか5インチとなり、CPUにはTegra 4iかQalcomm Snapdragon 800 2.3 GHzが採用され、メモリーは2GBで、13メガピクセルのカメラが付属するという。要するにスペック上は、一気にGalaxy S4やiPhone 5Sだって打倒することができるだろう。

発表は8月16日に行われるはずだったが、アップルがiPhone 5Sのキーノートを行う数日前の9月5日にずらされた。結局、価格は1,999元(約250ユーロ)となった。

「わたしたちは、PCのように携帯電話を生産しています。これは、完全に新しいアイデアです」と、レイは『ニューヨーク・タイムズ』紙に語っている。「わたしたちは、ほかの企業がかつてやったことのないことをしようとしています」。要するにスタイルは、スティーブ・ジョブズをハイテクの王にした、洗練と尊大さのブレンドだ。これによってXiaomiは昨年、中国で20億ドル、700万台ものスマートフォンを販売するに至った。これに対し、2013年の目標は1,500万台だ。今回もきっと成功を収めるだろう。


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[『WIRED』はいかにスティーブ・ジョブズを伝えたか 古今無双のヴィジョナリーにして天下無敵の“サノバビッチ”、スティーブ・ジョブズの波乱と矛盾に満ちた生涯を描き、全米ですでに話題の伝記映画『JOBS』。その公開を記念して、US版『WIRED』、さらには小林弘人編集長時代の旧・日本版『WIRED』のアーカイヴから、選りすぐりの「アップル」関連記事を一冊に凝縮。没後2年。「アップル/ジョブズ」を常に同時代でウォッチしてきた『WIRED』が贈る「ジョブズ本」の決定版。](http://www.amazon.co.jp/gp/product/B00EZ2JQR2/condenetjp-22)


TEXT BY ALESSIO LANA

TRANSLATION BY TAKESHI OTOSHI