米議会、ようやく国全体での「自律走行車の規制」に着手──そこから生まれる「新たな問題」の数々

米下院の小委員会は2017年7月19日、自動運転車に関するパッケージ法案を満場一致で承認した。だが、連邦政府の規制によって新たな問題も生まれるという。その諸問題について、有識者の意見を交えながら解説する。
米議会、ようやく国全体での「自律走行車の規制」に着手──そこから生まれる「新たな問題」の数々
自律走行」の運転免許証をつくってみた。誕生日は「もうすぐ」、髪の色は「ブラックレザー」だ。IMAGE BY HOTLITTLEPOTATO/WIRED US

グーグルがロボットカーの開発を開始して7年、自動運転中の「テスラ・モデルS」に乗っていたフロリダ州の男性が死亡[日本語版記事]して14カ月、Uberの自動運転車がペンシルヴェニア州で客を乗せるようになって約1年。ようやく米連邦議会が自律走行車を規制する兆しが見えてきた。

自動車メーカーやテック企業、政府の監視機関などこの新技術に携わっている人ほぼ全員が、その時期がきたという意見で一致している。

サンフランシスコやボストン、テキサス州オースティンなどの街中を走り回るロボットカーは現在、州と地方が制定した寄せ集めのルールに従っている。無数の利害関係をなだめすかしながら、それぞれ異なった規制を行っているのだ。こうしたパッチワークが存続する限り、自律走行車を市場に出すことは相当難しいだろう。

しかし、それももう過去の話になるかもしれない。米国上院議会は2017年6月、自律走行車に対する規制法案の概要を述べた超党派の指針を発表した。

さらに、下院エネルギー・商業委員会内の「デジタルコマースおよび消費者保護に関する小委員会(DCCP)」は7月19日(米国時間)、自律走行車に関するパッケージ法案を満場一致で承認した。これにより、もっと容易に連邦規制当局がすべての規則をつくれるようになることが見込まれる。下院エネルギー・商業委員会の報道担当者は、同委員会は8月の閉会前に、この法案を全体で検討することを望んでいると語っている。

どうやら議会は、ルールと規制のパッチワーク状態を改善し、自動運転技術に発展を許しつつ、国民にその安全性を保証する、統一されたガイドラインで米国を覆いたがっているようだ。だが、この権限を連邦政府に与えることによって、いくつかの問題が生まれ、多くの疑問が提起される。

現行の規制構造に当てはまらない

問題のひとつは、自律走行車は現行の規制構造にうまく当てはまらないということだ。

車両の組み立て方(エアバッグやシートベルト、クラッシャブルゾーンなど)については運輸省が決定を下しているが、運転(免許や保険、交通法など)については州が規制している。この分業は、クルマの設計が運転にそのまま影響する場合には機能しなくなる。

グーグルが最初の自律走行車のプロトタイプをカリフォルニア州マウンテンヴューの道路で走らせて以来7年、この体制は変わっていない。米国家道路交通安全局(NHTSA)がようやく自律走行車に向けたガイドラインを発表し、自動車メーカーほかに意見を求めたのは2016年秋のことだった。

連邦政府の監視を欠くなかで、カリフォルニア[日本語版記事]やネヴァダミシガンなどの州は独自のルールを作成。イノヴェイションを阻害することなく市民の安全を確保するために、それぞれが異なったアプローチをとっている。例えばアリゾナ州では、標準的な車両登録以上のものは要求されないが、ニューヨークではすべてのロボットカーに対して警察の護衛が求められる。

だからこそ、7月19日に下院小委員会が承認した法案は「連邦法による専占(preemption)」を最優先に考えている。つまり、連邦法が州や地方の規制に優先するということだ。

これに最も困惑するのはカリフォルニア州かもしれない。何年もの時間を費やして、自動車メーカーやテック企業と細かい議論を重ねてきた同州では、企業は自律走行車の行動や事故発生に関する公的なデータの提出を求められている。だが、前述のパッケージ法案のもとでは、その権限はおそらく、連邦規制当局が握ることになるだろう。どのデータが公開されるのかも定かではない。

路上テストの規制をどこまで緩和すべきか

今回の下院法案は、連邦政府の基準を満たさない10万台のロボットカーを、各メーカーがテストすることも許可している。この基準は、本来必要ないハンドルやフットブレーキといった装備を義務づけるものだ。現時点でこの規則の適用除外が認められているのは2,500台だけである。業界は、規制を緩和すれば、自動運転技術は進歩するはずだと主張している。

「自律走行車のテストには、何兆とまではいかないにせよ、何百万マイルもの走行距離が必要になります」とグレッグ・ロジャースは語る。彼は、シンクタンクEno Center for Transportationが発行する「Eno Transportation Weekly(ETW)」で、自律走行車の規制に関する記事を書いている。路上を走る自律走行車の数が増えれば、それだけ早くマイルを稼げるというわけだ。

今回の法案による新たな適用除外は、NHTSAが自動運転の安全性を確保する方法を見極め、規則を書き変えるまでの一時しのぎとして役に立つだろう。しかし、安全性の重視を主張する一部の人々は、ロボットカーが道にあふれる前に確かな答えを要求している。

ランド研究所政策大学院(PRGS)の「Center for Decision Making Under Uncertainty」でディレクターを務め、自律走行車に関する政策に詳しいニディー・カルラは、2017年に開かれた下院公聴会で「安全性に関する適切な閾値の確立は、研究に基づいて行われるべきです」と述べた。

「求められているのは性能基準です」と語るのは、消費者の権利を擁護する非営利団体Consumer Watchdogのジョン・シンプソンだ。連邦規制当局は暫定期間を設定すべきではないと彼は主張する。たとえ自動運転技術に関する理解が不十分で、先行きが不透明であっても、しっかりとした安全規則をすぐに定めるべきだというのだ。「『ブレーキをかけてから何フィート以内にクルマを止める』ではダメなんです。『止まれなければならない』という言い方でないと」

問題は、この技術の先行きや、まだ実在しないものを規制するための最善策を誰も知らないということだ。だからすべてが漠然としたままであり、誰もがこのルールづくりを非常に難しく感じているのだ。

8月の休会の前には法案が完成か

とはいえ良い面もある。意見が衝突する細かな点が、それほど多くはないのだ。事実、ここまでの立法過程は、おおむねワシントンの伝統的な超党派政治そのものだ。「議会議員の誰もが、自律走行車に好ましい点を見出しています。自律走行車は、見る人によって違う姿をしているのです」と、Eno Center for Transportationのロジャースは語る。つまり自律走行車は、テクノロジーや公共交通、裕福な投資家にとって良いものであるだけでなく、運転者の安全や障害者コミュニティーにとっても良いものかもしれないということだ。

前述のパッケージ法案は、イレーン・チャオ運輸長官に対して、障害者や十分なサーヴィスを受けていない層、高齢者、サイバーセキュリティーなどに関する諮問委員会を招集し、どうすれば自律走行車が米国民全体に最も役立てるのかを究明することも求めている。自律走行車は、連邦政府の立法者たちがキャンプファイヤーの歌を歌いながら、党派を超えて手をとり合うことのできる、まれなトピックなのだ。

リバタリアン系シンクタンクR Street Instituteで技術政策を研究するケイレブ・ワトニーはこう話す。「実際、自律走行車に関する法案についてわたしが見てきたなかで、最も有望なもののひとつです。上院超党派による規制の指針は、下院が発表したものと枠組みが非常によく似ています。全議会議員の法案支持率がこれほどまでに低い時代に、これを進めない理由はありません」

下院エネルギー・商業委員会は、8月の休会の前にこの法案を完成させるかもしれない。その後、この法案は下院の議場へと移され、さらにその後、業界は上院の動きを待つことになる。

たしかに、まだまだ多くの段階がある。だが、2017年の基準から見れば、今回の立法化は足早に動いている。何年もの間、自動運転技術は西部開拓時代の様相を呈してきたが、ようやく新しい(そして、かなり寛容な)保安官が着任することになりそうだ。


RELATED ARTICLES

TEXT BY AARIAN MARSHALL

TRANSLATION BY HIROKI SAKAMOTO/GALILEO