太陽光を“操作”して地球温暖化を抑制しても、副作用は少ないかもしれない:研究結果

地球を照らす太陽光の量を“操作”することで温暖化をコントロールするソーラージオエンジニアリング。賛否両論あるこの手法を実行しても降水量などへの悪影響は少ないうえ、温暖化の軽減が期待できるという研究結果が発表された。温室効果ガスの排出を削減する取り組みが追いつかなければ、太陽光の操作が代替案のひとつになる可能性が示唆されている。
太陽光を“操作”して地球温暖化を抑制しても、副作用は少ないかもしれない:研究結果
PHOTOGRAPH COURTESY OF JPL/NASA

大気圏に微細な粒子を散布して太陽光を反射させ、地球温暖化に対抗する。あるいは大量の温室効果ガスを大気中に放ち、地球の温度を上げる──。こうしたアイデアは、ずいぶんと思い切った発想であるように聞こえるかもしれない。いずれも気候工学の一種である「ソーラージオエンジニアリング」のうち、太陽放射管理と呼ばれる手法だ。

これらを地球温暖化対策の選択肢から外す理由を考えれば、いくつも挙げられる。まず、大気中に粒子を散布して地球の気温を下げる効果は、一時的なものにすぎない。やめれば即座に、相殺されていた温暖化の直撃をまともに受けることになる。また、この方法で対処できるのは温暖化だけで、海洋酸性化は急速に進行し続けるとされている。

さらに、太陽光の操作による冷却と温暖化との物理的なバランスがとれず、仮に気温を保てたとしても降水量が減少する可能性がある。この降水量の問題に焦点を当てた研究が、ハーヴァード大学のピーター・アーヴァイン率いるチームによって、このほど発表された。

太陽光の“操作”で温暖化は軽減される

この研究では、太陽光の操作をより現実に即したシナリオで実施した場合に、水の循環に与える悪影響を最小限にとどめられるかどうかについて検討している。研究チームが想定したシナリオは、大気中の二酸化炭素濃度が2倍になった状態だ。これはかなりの温暖化をもたらす設定だといえる。

この状態で、温暖化を半減させる規模の太陽光操作を100年かけて実施する。大気中へのガスの散布は場所ごとに調整可能で、太陽光を反射する成層圏内のエアロゾル粒子は世界全体で均等に分布することが前提になる。

均等に、というのが重要な点で、地球に届く太陽光を等しく減らすことで問題になりうる要因を排除できる。というのも、研究チームは13パターンの異なるモデルを使用しているが、均等でないと結果に予期せぬ変数が反映されてしまうかもしれない。大気中のエアロゾル粒子の化学的および物理的なふるまいが、異なったかたちでシミュレーションされてしまう可能性があるわけだ。

それぞれのモデルでは、太陽光を操作した場合としない場合のシミュレーションを実施し、大規模降雨、降水量と蒸発量の全体バランス、さらにはハリケーンの強度などにどのような影響が出るかを調べた。

この結果、気温については明らかな影響が地球全体で確認された。太陽光の操作によって温室効果を半減すると、地球上のあらゆる地域で温暖化が軽減される。また、温暖化によってハリケーンの成長が促される作用が弱まり、ハリケーン自体の勢力も弱まることが示された。

地域レヴェルでの大きな差はみられない

一般的には、地球温暖化の影響で雨の多い土地ではさらに雨が多く、少ない地域ではさらに少なくなる。二酸化炭素濃度を倍増した今回のシミュレーションでは、世界全体の平均降水量は3パーセント増加した。太陽放射管理を実施した場合、この数字は0.5パーセントに下がる。つまり、全体の降水量は減少せずに、微増する計算だ。

ただし、各モデルにみられる地域ごとの変化に注意する必要がある。太陽光の操作によってある地域に恩恵があったとしても、別の地域に著しい被害がもたらされるなら、その事実は各地域も把握したいと考えるであろうからだ。

しかし今回のモデルでは、状況に地域レヴェルでの大きな差はみられない。太陽光の操作によって統計上有意に降水量が減少するのは、地球上の無氷の陸地の0.4パーセントにすぎないという。降水のどの面をみるかによって異なるが、陸域のおおよそ25~45パーセントで降水量が微増する。

より厳密に言えば、将来の温暖化を半減させるという仮定そのものが最適なシナリオとは言い難い。それでも今回のシミュレーションによれば、降水にまつわる重大な副作用なしに、かなりの太陽放射管理が実行可能であることが示されている。

排出量抑制の代替案になる?

研究チームは次のように説明している。「今回の結果は『太陽放射管理が特定の地域に重大な被害をもたらすことは避けられない』『太陽放射管理の恩恵と害は常に地域によって著しく不均等に現れる』とする一般的な主張のいずれをも裏づけるものではない」

気候学者の多くは、太陽放射管理という手法に明らかに反対の立場をとるか、懐疑的な見方を示しているのが現状である。このため、今回のような研究はいつも白熱した議論を呼ぶ。

だが、こうした研究を支持する人が主張するのは、理解できていない事象は議論できないということ。そして、想定できる限りの極端な事例を挙げるのでなく、現実味のあるシナリオをとり上げてこそ建設的な議論ができる、という点である。

そうは言っても、真の解決は温室効果ガスの排出を削減するほかない。これは誰もが賛同するところだろう。しかし、排出量を削減する取り組みが追いつかず、ほかにもとりうる手段があるとしたらどうだろう。今回のような研究は、そうした代替案を示しているのだ。


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TEXT BY SCOTT K. JOHNSON

TRANSLATION BY NORIKO ISHIGAKI