あらゆる人に公平な政策づくりは、「細分類データ」から始まる:THE WORLD IN 2021

「リスクに陥りやすい人々」とひと口に言えど、それが指す対象は経済的に困窮しやすい人々だったり、健康のリスクが高い人々だったり、政治や教育へのアクセスが閉ざされやすい人々だったりとさまざまだ。2021年、わたしたちは「細分類データ」によって社会制度から抜け落ちてしまった人を洗い出し、あらゆる人にとって公平な政策をつくり始めるだろう。
あらゆる人に公平な政策づくりは、「細分類データ」から始まる:THE WORLD IN 2021
ILLUSTRATION BY MIKE MCQUADE

雑誌『WIRED』日本版VOL.39では、世界中のヴィジョナリーやノーベル賞科学者、起業家たちに問いかける特集「THE WORLD IN 2021」を掲載している。本稿では非営利の経済研究所、Women’s Institute for Science, Equity and Race(科学、平等、人種に関する女性研究所)の創設者兼会長であるロンダ・ヴォンシェー・シャープの本誌未掲載の寄稿を紹介する。
雑誌ではCRISPR-Cas9で2020年ノーベル化学賞を受賞したジェニファー・ダウドナを始め、フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグ、気鋭の経済思想家・斎藤幸平、クレイグ・ヴェンター、エレン・マッカーサーなど、そうそうたるコントリビューターたちが寄稿しているので、そちらもお見逃しなく!


新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まった当初にまず懸念対象となったのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスクが高い高齢者や持病をもつ人たちだった。しかし、ウイルスの影響が長引くにつれ、その対象は健康的弱者から経済的弱者へと広がっている。2021年には経済的、教育的、健康的、政治的なリスクに陥りやすい人々に名前がつけられ、立法者たちもこうした人々を守るための政策を打ち出すよう求められることになるだろう。

ご想像の通り、ある集団がリスクに晒される原因は、制度的な人種差別や体系的な性差別、そして構造的な階級主義に根ざしていることが多い。見落とされることも多いこの構造的な階級主義は、生産手段や富を有する者と労働階級との間に存在する不和の背景であるとともに、貧困とも密接なかかわりをもっている。構造的な階級主義と制度的人種差別、体系的性差別が交錯すると、貧困層による犯罪が増え、低所得労働者が切り捨てられ、経済的不平等が拡大するからだ。

しかし、21年には学者や活動家、草の根の組織が団結し、労働者の生活費や有給休暇、蓄財の方法などを提供する政策を提言するだろう。こうした政策の中心に据えられるのは、経済的不平等の軽減と経済的保障の向上を目的とした富の再分配である。

「細分類データ」が教えてくれること

不況のまま始まった21年の主な懸念材料は、経済の不安定だ。政治家たちは現場の労働者の安全を確保し、消費者の信頼を回復する政策やサプライチェーンの混乱を収める方策を優先的に立てなかったと互いを非難し合うことだろう。

新型コロナウイルス感染症による死者数の増加に伴い、「不均衡」という言葉もおなじみになる。これは制度的な人種差別や反黒人的な政策が、黒人やヒスパニック、先住民コミュニティにどれだけ影響をおよぼしてきたかを示す言葉だ。


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もうひとつ耳にする機会が増えるのは、「細分類データ」という聞き慣れない言葉である[編註:disaggregated data:集められたデータを年齢や性別、出身地などの構成要素に基づいて細分類されたデータのこと]。こうしたデータは、厳密に誰が新型コロナウイルス感染症で亡くなったのか、誰が救済措置から外されて誰が恩恵を受けたのか、そして誰が完全に忘れ去られていたのかを教えてくれる。

さらに、データを細分類することで、リスクに陥りやすい人々とは具体的にどのような人を指すのかも正確に特定できるようになる。わたしたちはデータを構成要素ごとに収集、報告するよう求め、同時にリスクに陥りやすい集団の健康や福祉がどう改善されているかを説明する責任を負うようになるだろう。

「○○主義」「○○嫌悪」からの脱却

この2021年、為政者たちはがん研究者にとっておなじみの事実を知ることになる。つまり、細分類データはリスクに陥りやすい人々の健康問題や経済問題を改善する手段を教えてくれるということだ。あるいは人だけでなく、細分類データを使ってリスクに陥りやすい産業やセクターを特定することもできるだろう。そして、こうした過程のメカニズムの美しさは、すべての人や企業がデータ(しかも大量のデータ)における自分の位置を認識できるという点にある。

わたしたちは、「リスクに陥りやすい」という分類は流動的で、健康面や経済面などさまざまな意味をもちうるということを学んだ。また、そうした人々を念頭に考えることで、より多くの人のための政策を打ち出せることも学んだ。為政者が新型コロナウイルス感染症から学んだ教訓は、データの収集方法や政策の選択、ハイリスク群を守る手段などに影響を与えるだろう。

多くの国で、社会に深い溝が生じ、国際的な協力関係が希薄になっている。この状況から脱却するためには、過去数十年にわたって社会的・経済的政策の恩恵を十分に受けられていなかった人々に目を向けるしかない。

「○○主義」や「○○嫌悪」といったものは、危機への対応能力を低下させ、公平で包括的な社会としての前進を阻んできた。だが21年、わたしたちはこれらに何らかの方法で取り組みはじめた社会の姿を目にすることだろう。

ロンダ・ヴォンシェー・シャープ|RHONDA VONSHAY SHARPE
非営利の経済研究所、Women’s Institute for Science, Equity and Race(科学、平等、人種に関する女性研究所)の創設者兼会長。フェミニスト経済学者。


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TEXT BY RHONDA VONSHAY SHARPE

TRANSLATION BY ERIKO KATAGIRI/LIBER