B&Wのワイヤレスヘッドフォン「Px8」は、高額な価格に見合った能力を備えている:製品レビュー

Bowers & Wilkins(B&W)から新型ワイヤレスヘッドフォン「Px8」がこのほど登場した。前モデル「Px7 S2」の優れた部分を引き継ぎながら高級感を高めた新モデルは、ノイズキャンセリング機能も音の再現性も秀逸だ。
BW「Px8」レビュー:価格に見合う能力を備えた質感に優れたヘッドフォン
PHOTOGRAPH: BOWERS & WILKINS

紹介した商品を購入すると、売上の一部が WIRED JAPAN に還元されることがあります。

Bowers & Wilkins(B&W)から新たに登場したアクティブ・ノイズキャンセリング機能搭載のオーバーイヤー型ヘッドフォン「Px8」が、“高みを目指した”製品であることに議論の余地はない。重要な問題は、どのような文脈で“高みを目指した”のか、ということだろう。

B&Wがアクティブ・ノイズキャンセリング機能を搭載したオーバーイヤー型のワイヤレスヘッドフォン「Px7 S2」を発売したのは2022年夏のことで、ほぼ全世界が絶賛する製品だった。この製品には、確かに気に入る部分や感心した部分がたくさんあった。ところが、B&WはPx7 S2のコンセプトはそのままに、より高級な製品へと進化させるというあまりに自信過剰、もしくは軽薄で無謀とも言える手を打ったのである。

Px8の外見は、一見すると先行モデルのPx7 S2と見間違えてしまうほどよく似ている。しかし、よく見ると、いくつか重要な違いがあることがわかる。ただし、価格を見た途端に、Px8がまったく別の分類の製品であることに気付くだろう。

高額でも適正に思える質感

Px8はPx7 S2と基本的な外観は同じだが、素材が良質なものになっている。見た目も雰囲気も、そしてはっきり言うと、香りもかなり高級なものになっているのだ。金額が高くなったことを考えると、この変更は妥当に思える。

Px8の仕上げは黒色のレザーを使った「ブラック」か、タンとグレーのレザーをあしらった「タン」の2種類から選べる。B&Wが選んだナッパレザーは柔らかく弾力性があり、香り高い。そしてこのレザーは、メモリーフォームのイヤークッションとヘッドバンドの内側と外側をきれいに覆っている。

article image
次々と発売されるワイヤレスイヤフォンやヘッドフォン。種類が多すぎてどれを買うか迷ってしまう人のために、音質や利用シーン、ノイズキャンセリング機能などさまざまな指標で選んだ「ベスト」なワイヤレスイヤフォン・ヘッドフォン19モデルを紹介する。

アームとヘッドバンドの調整部は、鋳造のアルミニウム製だ。オーバーイヤー型ヘッドフォンに使われている金属部分の外観や感触のつくりのよさは、ほかに類を見ない。

ロゴがあしらわれた双方のイヤーカップのプレートの端には、ダイヤモンドカットによる面取りの加工が施され、B&Wのロゴは光の加減でさまざまな表情を見せてくれる。本体は320gと適度な重さで、メガネをかけながら着用したい人でも長時間快適に装着できる。

「洗練さ」と「派手さ」はときに紙一重だが、B&Wは大事な部分を踏み外さない安定感がある。外観と全方向での魅力という点において、Px8がその価格が適正に思える十分な水準を満たしていることは間違いない。

例えば、マークレビンソンの高く評価されているワイヤレスヘッドフォン「No.5909」(999ドル、日本では12万1,000円)と比べてみても(少なくともショールームでの製品紹介の内容と比べると)Px8のほうが優れているのだ。

PHOTOGRAPH: BOWERS & WILKINS

優秀なドライバー

Px7 S2に搭載されているアクティブ・ノイズキャンセリング機能(ANC)は、どこにも「BOSE」と書かれていない製品のなかで最高のものである。そう考えると、B&WがPx8に同じものをそのまま搭載した選択は理解できる。

Px8が提供する以上の調整機能(「オン」「オフ」「パススルー機能」の選択肢があるのみ)を望む人はいるかもしれない。だが、このヘッドフォンに搭載されているノイズキャンセリング機能以上の性能を求める人はまずいないだろう。ANCを起動すると、飛行機の雑音も乗客の発する雑音も完璧に除去されるのだ。

外部の音を消す理由はもちろん、ヘッドフォンの音をより楽しめるようにするためだ。Px8に搭載された新しいフルレンジの40mmのカーボンコーン・ダイナミックドライブユニットが、音の部分を担っている。

スピーカー「700シリーズ」向けに開発したカーボンドームのドライバーを出発点とする高解像度のドライバーは、超高速のレスポンスと非常に少ない歪みを実現したと、B&Wは主張している。また、表面のどの地点からでもドライバーと耳までの距離が一定に保てるよう、イヤーカップの内側に設置するドライバーの角度を細かく調整した。

優れた音の追求においては、クアルコムのBluetoothのオーディオコーデック「aptX Adaptive」に対応したことがひと役買っている。これは少なくともiOSのデバイスを使用していない場合には関係してくる。

アップルはもちろん、自分たちが何がいちばんいいのか知っていると考えているので、どのiPhoneもaptXのコーデックには対応していない。これは残念なことだ。Px8のように高性能なヘッドフォンでは、ワイヤレス通信による音楽の配信の効率と解像度の違いが大きく影響するのである。

Px8では、Bluetooth 5.2のワイヤレス通信による音楽のストリーミング再生の体験が向上している。これはB&Wの制御アプリ「Music」の大幅な改善によるところが大きい。イコライザーの調整やANCの設定といった通常の機能に加え、お気に入りの音楽配信サービス(Deezer、Qobuz、Tidalのいずれかがお気に入りであるという前提だが)と連携し、ひとつのアプリから再生できるようになったのだ。

この優れた点は、聴きたい音楽を再生するために複数のアプリを開く必要がないことだ。また自宅にあるB&W製のワイヤレス機器(ワイヤレススピーカー「Zeppelin」や「Formationシリーズ」の機器など)やモバイル端末と連携して音楽を聴くヘッドフォンなど、連携先を簡単に切り替えられる。

欠点は、現状のアプリではユーザーの操作がときどき必要になる点だ。例えば、アルバム全体を選択して全曲を再生したいとき、アプリに何度か「再生」を指示する必要がある。B&Wにとって、アプリの小さな不便さを取り除くことなど難しくないはずだ。

とはいえ、もちろんいまの状態でも、アップルやソノス以外が開発したアプリとしては、ほかのどの製品よりも安定している。そして合理的で、使い方もわかりやすい。

PHOTOGRAPH: BOWERS & WILKINS

アプリに加えて、音源となるプレイヤーに備わっている音声アシスタントによる制御も可能だ。左右のイヤーカップにはそれぞれANCに対応するふたつのマイクに加え、操作に対応するマイクがひとつずつ搭載されている。音声アシスタントは左のイヤーカップにあるコントロールボタンで呼び出せる(アプリでボタンの機能を指定するか、ANCの設定機能を割り当てられる)

一方、右のイヤーカップには、よくある3つ並びのボタンが配置されている。外側のふたつのボタンはそれぞれ「音量の上げ/下げ」に対応し、中央の質感の異なるボタンは複数の機能に対応している(「再生/一時停止」「次の曲に送る/前の曲に戻る」「通話応答/終了/拒否」)。また「電源オン/オフ/Bluetoothのペアリング」に対応するスイッチと充電用のUSB Type-Cのポートもある。ドライブの休憩中などで30時間は再生でき、15分の充電でさらに7時間は使用できる。

また、USB Type-Cポートは有線での音楽再生にも使える。B&Wは、Px8のキャリーケースに1.2mのUSB Type-CからUSB Type-Cに接続するケーブルと、1.2mのUSB Type-Cから3.5mmステレオミニプラグに接続するケーブルを同梱している。

ただし、自動で音楽を聴ける機能はない。有線接続で音楽を聴く場合でも、ヘッドフォンのスイッチを入れる必要があるのだ。

PHOTOGRAPH: BOWERS & WILKINS

ぞくぞくする音

Px8はどのような音楽でも仰々しくなることなく、熟練し、情報量が豊富で、聴き応えのある音を提供してくれる。聴きたい音楽のジャンルが何であれ、さらに録音自体の強調や偏向がどうであれ、B&Wは冷めたり小難しくなったりすることなく、適切な洞察力に満ちた音を届けてくれるのだ。

Massive Attack And Mos Defによる楽曲『I Against I』を再生すると、Px8がどれほど的確に音を再現しているかがわかる。曲の低音域には確かな深みと存在感をもたせながらも適切に制御しており、ある意味この曲に必要な土台からの勢いを与えている。

曲のベースの要素が大きい場合、単にそれを強く強調するだけで満足してしまっているヘッドフォンもある。しかしB&Wの製品には、音がそのような鈍い響きにならないよう繊細で細かな部分を再現する力があるのだ。

曲の中音域は滑らかで、唯一無二のボーカルの声に必要な個性と表現力を与えている。そして曲のそれぞれ固有の音を説得力をもって結びつけ、全体として統一されたパフォーマンスを届けるのだ。

上海交響楽団によるベートーヴェンの『交響曲第9番ニ短調』のようなフルオーケストラの演奏には、曲の強弱と音の出だしである「アタック」の変化に対応するダイナミックさがある。それでいて、統制のとれた広々としたサウンドステージを表現する力が、Px8には備わっている。

ポップバンドのカメラ・オブスキュラのアルバム『Underachievers Please Try Harder』のような比較的柔らかな演奏の場合でも、Px8は光と影を巧みに表現する。それぞれの楽器のごくわずかなハーモニーの変化さえ敏感に汲み取り、楽曲が求めるだけの空間と静寂を強調するのだ。

B&Wの技術が低音域における音量変化の要素である「アタック」と「ディケイ」を適切に制御しているおかげで、リズムの表現も優れている。また、音調には説得力がある。Px8は音の質感に対する深い洞察があり、あらゆる楽器の音をいきいきと響かせるのだ。その楽器がノートPCとミュージシャンのヘッドフォン以外の場所には存在しないものだったとしても、例外ではない。

周波数帯の高域には存在感があり、低域も主張している。そして中域は全面的に明るい響きだ。この結果、Px8は常に安定していて、美しくバランスのとれた存在感のあるサウンドを完成させている。

実のところ、Px8が前モデルのPx7 S2より音質で優れている点は、美的な感覚や質感以上に顕著な部分はない。Px8はあらゆる点でほかの手ごろな類似モデルより優れているという結論には簡単にたどり着く。しかし、ほかのモデルとの差額分の価値があるかどうかという点は、判断が難しい。

最終的には差額分の出費を正当化できるかどうかは、購入を希望する人にしか判断できない。しかし、それを正当化できたなら、あらゆる価格帯の製品で最高のワイヤレスヘッドフォンを購入することになる点は疑いようがない。

◎「WIRED」な点
音はいきいきとしていて説得力があり、ずっと聴いていられる。本体は贅沢な素材を使った職人技のつくり。快適な装着感。ノイズキャンセリング機能が優秀。

△「TIRED」な点
B&Wが思うほど、より手ごろなモデルの「Px7 S2」と見た目が異なるわけではない。制御用のアプリにはやや使いづらい部分がいくつかある。タッチコントロール機能がない。

WIRED US/Translation by Nozomi Okuma)

※『WIRED』によるヘッドフォンの関連記事はこちら


Related Articles
article image
次々と発売されるワイヤレスイヤフォンやヘッドフォン。種類が多すぎてどれを買うか迷ってしまう人のために、音質や利用シーン、ノイズキャンセリング機能などさまざまな指標で選んだ「ベスト」なワイヤレスイヤフォン・ヘッドフォン19モデルを紹介する。

次の10年を見通す洞察力を手に入れる!
『WIRED』日本版のメンバーシップ会員 募集中!

次の10年を見通すためのインサイト(洞察)が詰まった選りすぐりのロングリード(長編記事)を、週替わりのテーマに合わせてお届けする会員サービス「WIRED SZ メンバーシップ」。無料で参加できるイベントも用意される刺激に満ちたサービスは、無料トライアルを実施中!詳細はこちら