多くのスマートフォンユーザーにとって、アップル製品はインターネットとつながるための窓口になっている。多くのドライバーにとっても同様の存在になりたいと、アップルは2022年から主張し続けている。“次世代”の車載システム「CarPlay 2」を発表したのもその年のことだった。
従来の「CarPlay」は自動車の中央にあるインフォテインメントシステムにスマートフォンの画面をミラーリングする技術だったが、CarPlay 2ではこのシステムを自動車のメーターパネルを含めたダッシュボード全体に拡張する。
ただし、これは自動車メーカーが許可した場合に限る。9月9日(米国時間)に開催されたアップルの新製品発表イベントでも、新しいCarPlayの登場時期に関する具体的な発表はなかった。アップルのウェブサイトには最初の対応車種は2024年に登場予定と記載されているが、今年も残すところあと3カ月だ。
自動車メーカーの抵抗感
アップルが次世代サービスのビジョンを2年前に発表して以来、多くの自動車メーカーが画面の設計をアップルに委ねることに抵抗感を示してきた。アップルが2022年に初めて実施した「CarPlay 2」のプレゼンテーションにはメルセデス・ベンツのロゴが使われていた。しかし、その数週間後、メルセデス・ベンツは拒否反応を示している。
「コックピットのヘッドユニットのすべて、わたしたちの場合は乗客用スクリーンを含めたすべてを他社に委ねるということですか?」とメルセデス・ベンツ グループの最高経営責任者(CEO)を務めるオラ・ケレニウスは2022年に『The Verge』に語っている。「答えはノーです」
ポルシェとアストンマーティンの2社は、次世代CarPlayでアップルと提携することを発表している。ポルシェに問い合わせたところ、新しいCarPlayの登場時期に関する新たな情報はないと広報担当は説明していた。アストンマーティンの広報担当はコメントを控え、CarPlayについてはアップルに問い合わせてほしいとのことだった。アップルの広報担当にも次世代CarPlayの登場時期について問い合わせたが、すぐには回答を得られなかった。
アップルの譲歩
とはいえ、アップルは自動車メーカーの懸念の少なくとも一部は聞き入れたようである。今夏に開催された「WWDC2024」で、アップルは新しいCarPlayの動画を2本公開し、自動車メーカーが「パンチスルーUI」と呼ばれる設計を通じて車両内のインターフェイスのデザインと機能の一部を制御できることを明らかにしたのだ。これにより、CarPlayが車両の画面表示を“支配”している場合でも、自動車メーカーは運転支援のために視覚化した情報やバックカメラの映像など特定の情報を画面に表示できるようになる。
技術的な点で言えば、新しいCarPlayは従来のものより車両のソフトウェアとより密接に連携するようになる。従来のCarPlayは自動車にディスプレイを取り付けただけのものだが、新しいCarPlayは車両のソフトウェアと連携することで、タイヤの空気圧やエアコンといった車両固有の情報を独自のユーザーインターフェイスで提供する。
少なくとも1社の自動車メーカーは、アップルのCarPlayおよびその競合の「Android Auto」にも対応しないことを明言している。ゼネラルモーターズ(GM)は昨年、自社の車両には独自に開発した自社製のOSを導入すると発表した。
(Originally published on wired.com, translated by Nozomi Okuma, edited by Mamiko Nakano)
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