ジョン・シーブルック

1989年から『ニューヨーカー』誌に寄稿し、1993年からスタッフライター。近著の「The Song Machine: Inside the Hit Factory」を含む4冊の著書がある。(@jmseabrook

ニューヨーク市で話を聞いた内科医たちは、遠隔医療の診断の限界をいち早く指摘していた。わたしのニューヨークのかかりつけ医であるマーティン・ベイトラーは言う。「画面越しに腹部の触診をすることはできませんからね」。彼は必要な場合には自宅からヴァーチャル診療を行なうが、遠隔医療にあまり信頼を置いていない。その意見はこうだ。

「遠隔医療は下手をするとワンパターンの、『風邪ならとりあえず抗生物質を処方しておけ』といった姿勢を招く恐れがあります。診察がすべて遠隔になったら、そういう診断ばかりが下されることになるでしょう」

アッパー・イースト・サイドにクリニックを構える内科医トーマス・ナッシュは言う。「遠隔医療は実行可能か? と言われれば、もちろん実行は可能です。現にいまやっていますから。しかし検査の遅れを招いたり、医師が患者との間に深い関係を築くのを妨げたりする恐れがあることは事実です」

ブルックリンの皮膚科医デヴィッド・エイヴラムによれば、遠隔医療でホクロのチェックはできる。スマートフォンを通してホクロを見ればいいのだ。しかし全身の検査にはやはり実際にクリニックへ足を運んでもらわねばならず、現在はオフィスに戻れるようになるまで待ってもらうしかない。

古きよき往診をソフトウェア上で再現

近年、アプリを使ったD2Cの遠隔医療スタートアップが続々と現れ始めている。言ってみれば、ミレニアル世代向けのネット版「ドクター・ウェルビー[編註:1970年代に人気があった医療ドラマの主人公の医師]」がヴァーチャル往診をしてくれるようなサーヴィスだ。

ヴァーチャルドクターにかつての実際の往診のようなサーヴィスをしてもらうという話は、複数の遠隔医療会社の関係者と話をしたときに何度か話題に上っていた。アムウェルの最高経営責任者(CEO)のひとりであるロイ・シェーンベルグは、アムウェルを利用する経験をドラマ『大草原の小さな家』に出てくる医師ハイラム・ベイカー先生に往診に来てもらうようなものだと言っている。シェーンベルグによれば、ヴァーチャルケアとは医師と患者の関係を保険が生まれる前ののどかな時代に戻す試みなのだという。
 
29歳のザカライア・レイターノは遠隔医療会社ロー(Ro)の共同創業者だ。ローは勃起不全などの性的な問題を解決する薬をはじめ、アレルギーや体重減少のための薬を顧客の依頼に応えて自宅に届けるサーヴィスを提供している。レイターノの父親は医師だった。

「ローでわたしが実現したいのは、父がやっていたのと同じことをソフトウェア上で再現することです」とレイターノは言う。「父はわたしの命を実際に救ってくれましたし、家族の全員が父に救われた経験があります。家庭内に医師がいれば、問題が起きたときその場で解決してもらえるのです」

現在の米国のヘルスケアシステムは、利用者のことを考えておらず、無駄が多い。患者は医師の予約を取るのに平均29日も待たなければならず、たいていの場合請求書をもらうまで診察と検査にいくらかかるのかわからない。さらに処方薬が必要な場合は、薬局にも行かなければならない。

アマゾンがプライムユーザーにヘルスケアを提供したら

従業員保険プランの年間控除額が20万円超にもなる場合があることを挙げて、レイターノは言う。「ありえない額ですよ。患者をほかのビジネスの顧客に置き換えて考えてみてください。顧客は自分にとって価値があると思えるサーヴィスを自分で決められるようにすべきです。グーグルでサーチし、比較して、価格の透明性を要求し、品質と治療の効果の評価を求め、アマゾンやアップルやナイキが提供しているような消費者主導のサーヴィスを手にしたいと望んでいるのです。レーシック手術や美容整形、豊胸手術を見てください。テクノロジーが劇的に向上し、価格が下がって、患者はよりよいサーヴィスを安く受けられるようになってきています」