【インタビュー】ジョブズは世界を変えた。そんな人に代替なんかいない。

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    【インタビュー】ジョブズは世界を変えた。そんな人に代替なんかいない。

    スティーブ・ジョブズの辞任について小林弘人さんに聞いてみました。

    小林さんはインターネット黎明期の1994年に「ワイアード」日本版を創刊し、休刊までの4年間編集長を務めました。1995年8月号ではネクスト時代のジョブズに米ワイアードよりも早く独占インタビューを果たしました。ジョブズは「スターでありアーティスト」であると称える小林さんの目に今回の辞任はどのように映ったのでしょうか。

    偉大な創業者が一線から退いた会社が、ポシャるかどうかと言えば、そんなことはないでしょう。松下幸之助、本田宗一郎、海外ではカール・ベンツ(ベンツの生み

    の親)、ココ・シャネル......いまも彼ら/彼女らの会社は一流ブランドです。

    ジョブズの作品(製品とか商品じゃなく、あえて作品と呼びます)のなかに、ティム・クック氏が含まれていると見たほうがいいでしょう。最終作品は実はティム・クックなのです。

    では、ジョブズがいなくなって(名前は会長職に残っているけど)、何が変わるのか。ウォールストリートジャーナルや日経新聞とかが書かなそうなことを言いますね。

    ジョブズには強運があります。アップルだけでなく、ピクサーにしても、彼が擁していたからうまくいきました。(彼がうまくいかなかったときに会えたのは、私にとって貴重な経験でした)

    アップルのCEOに復帰する前のジョブズは、ネクストという会社を興してCEOを務めていました。鳴り物入りで登場したけれど、その後、あまり注目されず市場でも苦戦していたはずです。でも、考えてみれば、このネクストをアップルは買収し、いまのOSはネクスト社の技術の上に構築されているわけですから、ネクストもうまくエグジットしたわけですね。やっぱり強運だ。

    ということで、強運の持ち主がアップルからいなくなります。いや、いるのかもしれないけれど、はたしてどうなんでしょう。

    どんなに技術やサービスが優れていても、従業員一丸となって頑張っても、MBAホルダーがいっぱいいようが、当たる・当たらない、最終的にはうまくいくかどうかは運次第です。今後のアップルがイノベーション・マイナス・グッドラックにならなければいいですね。

    それから、もう一点。デザイン(単に製品デザインだけではなく)面についてです。創業者が自らの製品のデザインについて熱く語るのを聞くのは、デザイン会社以外ではあまりお目にかかりません。担当デザイナーが語るのはわかるけれど、その意味で、アップルは経営とデザインが不可分な関係なんです。マイケル・デルなんてそんなことはどうでも良さそうでしたから(笑。その意味ではアップルはデザイナーズ・ブランドです。それが評価されていたことを忘れなければ大丈夫。

    でも、正直、企業としてのアップルがどうなるかは個人的にあまり興味ありません。

    私個人にとってジョブズがいない世界は、またちょっと退屈になるかな、という感じです。ジョブズはアップル社だけのアイコンではありません。彼自身がシリコンバレーそのものです。そして、70年代から80年代にかけてのロックスターと並ぶアメリカのカルチャル・アイコンでもあります。比肩するのは、ビル・ゲイツじゃなくて、ジミ・ヘンドリックスやブルース・リーです。ゲイツは偉大な創業者ですが、スーパースターではありません。

    そして、多くのクリエーターはジョブズに感謝してやまないでしょう。Macがなければこの世に作品を生み出せなかった人たちが多くいます。ジョブズが世界を変えたのです。そんな人に代替なんかいないし、聞くだけ野暮です。そんなジョブズと同じ年代を生きて、彼が心血注いだ製品を使えたことを嬉しく思います。

    ジョブズが生み出してきたものは、ただCPUが載せられたお洒落なケースに入った箱ではなく、人間が自分たちの才能を開花させるための「Insanely Great(ぶったまげるほどすげー)」なガジェットでしたから。

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    小林 弘人(Hiroto Kobayashi)

    株式会社インフォバーン代表取締役CEO。東京大学大学院情報学環教育部非常勤講師。

    「ワイアード」「ギズモード・ジャパン」など紙とウェブの両分野で多くの媒体を立ち上げる。著名人ブログやソーシャルメディア・プロモーション等の先駆者として活躍中。主な著書に『新世紀メディア論──新聞・雑誌が死ぬ前に』(バジリコ)。主な監修・解説に『フリー』『シェア』(NHK出版)『フェイスブック 若き天才の野望』(日経BP社)。

    (丸山裕貴)