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(これは,日本に関する連続記事の第4弾だ.第1弾,第2弾,第3弾は,日本の経済問題を取り上げた.今回の記事では,趣向を変えて日本の文化的な勝利について語ろう.) 日本の創造力が世界を変えた2つの物語 90年代以降の日本の物語を語るなら,基本的な筋はこうなる.「経済は弱いけれど,文化面での影響力は強い.」 バブル崩壊から十年後,日本は富の追求から方向転換して,創造的な表現に多くの力を振り向けた.その結果は,目を見張るばかりの文化の花ざかりだった.もはや 90年代や00年代ほどの高みにいたることはないかもしれないけれど,日本の文化的な繁栄は今日まで続いている.それに,90年代や00年代序盤はたまたまインターネットの発展期と重なっていたおかげで,日本の文化が爆発的に開花したタイミングは,世界を席巻するのにこのうえなく合っていた. 日本についてまるっきり間違っている奇妙なステレオタイプが根強く残っ
ときおり、最近のアメリカの社会問題についてどう考えているか尋ねられることがある。私は大抵、「その仕事は私には役不足ですよ」と言ってコメントを控える。「結局のところ、アメリカの何が問題か突き止めるのに批判理論の博士号は必要ありませんから」と。実際私は批判理論で博士号をとっているから、アメリカの欠陥を見つけることなど朝飯前だ。あらゆる問題に関して、答えは明白である。多すぎる銃、時代遅れの憲法、勝者総取り方式の選挙、政府への不信、多すぎる拒否権、などなど。 というのは本音ではなく、そういう質問があまりにも多いので、会話から抜け出すための方便として言っているだけである。実際の見解を述べると、アメリカの批判理論は、他のほぼ全ての西洋諸国に比べてはるかに難しい。これはアメリカの社会問題のほぼあらゆるケースで現れるパターンのためだ。アメリカで現れている問題のどれについても、明白な解決策が存在する。だがそ
昨日のドイツの総選挙において、おそらく最も重要で前向きなメッセージは、有権者の投票率の大幅な増加だ。アメリカ副大統領のミュンヘンでの挑発に反して、ドイツでは民主主義は健在である。抑圧的なリベラル・エリートによって公的生活から排除され憤っているサイレント・マジョリティー(沈黙の多数派)など存在しない。憤っているマイノリティ(少数派)はいるが、彼らも選挙制度を通じてその声を上げており、特に〔極右正統〕AfD(ドイツのための選択肢)を通じて声高だが、それでもAfDは21%を超えることはなかった。ドイツの洗練された民主主義制度は、アメリカでMAGAが果たしたような、マイノリティ(少数派)による国家支配を防いでいる。 出典:ファイナンシャル・タイムズ紙 AfD(ドイツのための選択肢)は全ての政党から票を奪ったが、特にメルツ率いる〔中道右派政党〕CDU(キリスト教民主同盟)、沈没寸前の〔右派・リバタリ
〔訳注:イブラム・X・ケンディは批判的人種理論の代表的論者としてアメリカで非常に有名な人物である。彼の著作は、全米の多くの学校や企業でDEI(Diversity:多様性、Equity:公平性)、Inclusion:包括性)教育・研修教材として使用されている。日本では朝日新聞のインタビューをここで読むことが可能。ケンディは教鞭を取るボストン大学内に設置された反人種差別研究・政策センターの代表を務めていたが、2023年になって大量に集めた寄付金の出所不明な拠出等が問題となった。この事件はアメリカでは大きなスキャンダルとなっている。〕 イブラム・X・ケンディが所長を務めるボストン大学反人種研究・政策センターでのスキャンダルは、当然のように大量のシャーデンフロイデ〔ざまーみろ〕を引き起こしたが、より興味深いのが、多くの識者・論者がひっそりと思っていた「ケンディの主要な見解は、完全にナンセンスである
LLM テクノロジーの普及を阻止しようとしても無駄だけれど,輸出規制はまだ機能しうる. 先日 DeepSeek っていう中国企業がリリースした一連の大規模言語モデルの性能は,OpenAI や Anthropic といったアメリカ企業のモデルとほぼ互角なうえに,かかるコストがずっと少ないときていた.メディアやテック系界隈の多くでは,これが画期的な出来事として話題になっている――かつての宇宙開発競争における「スプートニック・ショック」と同じことが,米中の AI 競争におきた瞬間だ,というわけだ. 3週間前のロサンゼルス山火事と同じく,DeepSeek の件でも,手に汗いっぱいで心配する声や,声高な意見の開陳やとんでもない誤解などの大袈裟な反応がソーシャルメディアで爆発的に広まった.なかには,いますぐにもアメリカの株式市場が崩壊するぞと息も絶え絶えに宣言する人たちすら現れた: 「DeepSeek
〔訳註:“A WOMAN NEEDS A MAN LIKE A FISH NEEDS A BICYCLE.” 「女性は男性がいないと生きていけない」というのは、「魚は自転車がなくては生きていけない」というようなものだという女性の自立を訴えたスローガンが本エントリのタイトルの元ネタ。〕 今週初め(現地時間2月3日)、トランプ大統領は財務省と商務省に対し、米国の新たな政府系ファンド (ソブリン・ウェルス・ファンド:SWF)の創設に向けた手続きを始めるよう命じる大統領令に署名した〔本邦報道〕。財務省と商務省は、90日以内にファンド創設の計画を策定することになっている。 CNBC〔米国の経済メディア〕が報じたように、スコット・ベッセント米財務長官は全面的に乗り気だ。 我々は今後12か月以内にこのファンドを創設する。米国民のために、米国のバランスシートの資産面をマネタイズするつもりだ。流動資産、この
ピエール・トルドー〔カナダの第20・22代首相〕の有名な「アメリカの隣国であることは、象の横で眠るようなものだ」という演説があまり話題に上っていないことに、私は少しばかり驚いている [1] … Continue reading 。 Pierre Trudeau’s Washington Press Club speech – Youtube アメリカで現在生じている事態はまさに「象が動いたり唸り声を上げたりしている(twitch and grunt)」 [2]訳注:上の訳注を参照。 と言うにふさわしい。完全なる憲政の危機(constitutional crisis)だ。イーロン・マスクのおかしな言動の数々を無視したとしても、そうなのだ。トランプの大統領令は、第二次世界大戦以来、アメリカ連邦政府における権力行使のあり方に関して共有されていた基本的な認識を揺るがしている。 残念ながら、「憲政の
今日のトロント・スター誌に、地下鉄スパダイナ線の延伸開通の遅れに関する興味深い記事が掲載されている。この工事の遅れは、最終的には政府調達(procurement)の問題に帰着する。政府は普通、最低価格で入札した業者を選ばなければならないという規則があるが、今回の鉄道工事でも確実にそうだろう。つまり、政府が選んだ業者は「値段相応」の仕事をしているわけである。実はこれは、国民が選出公務員に様々な制約を課すことで合理的な公的支出が妨げられるという、お馴染みの光景だ(メディアがこの問題の大きな原因であるということには注意しておくべきだ。トロント・スター誌や他の地方メディアが、トロント交通局の結んだとある契約を攻撃していたのはつい昨年のことである。こうした批判は契約の手続きに関するものであって、契約の内容が公共利益に適わないと考える理由は全くなかった)。 それはさておき、今日の記事の内容を見てみよう
今後4年間、日本のコンテンツはアメリカ市場で厳しい状況に直面するかもしれない。 今週、私はある経済団体から招待され、一連のプレゼンを行ったが、その中で、アメリカの右傾化(というか、もっと正確には「トランプ化」)が今後の日本の文化製品の消費にどんな影響を与えるのかについて説明するように求められた。詳細は最後に回そう! まずは、プレゼンの最中に一番大きく感じた懸念について話そう。それは、少なくとも今後4年間、アメリカを席巻するであろう「文化戦争(culture war)」に対して、日本はまったく準備ができていないことだ。 まず「文化戦争(culture war)」という概念自体が、ここ日本ではほとんど知られていない。確かに、日本語版ウィキペディアには「文化戦争」のページがあるが、この言葉が使われてるのを聞いたことはないし、アカデミアを除けば言及されているのを見たこともないし、いわんや日本国内の
本エントリは、スウェーデンの政治学者、ボー・ロススタイン(Bo Rothstein)へのインタビューの後編である(前編はこちらで読める〔邦訳はこちら〕)。後編では、汚職、社会的信頼、労働組合などが話題に挙がった。 *** 保守とリベラルは長年、政府のサイズを巡って経済論戦を繰り広げてきたが、今回の大統領選〔アメリカでの2016年大統領選を指す〕では、新しいタイプの議論が勢いを得つつある。問題は政府のサイズではなく質である、という議論だ。政府は一般市民のために仕事をしているのだろうか、それとも特殊利益集団のために仕事しているのだろうか? ドナルド・トランプからバーニー・サンダース、ヒラリー・クリントンからテッド・クルーズまで、「経済は不正に仕組まれている」という主張は大きな掛け声となっている。 効率的で質の高い政府が希求され、同時にそれが実現していない状況は、有権者の発する矛盾した(あるいは
ボー・ロススタイン(Bo Rothstein)は現在世界で最も影響力のある政治学者の1人である。本エントリは、ロススタインへのインタビューの前編にあたる。ロススタインは、国家の腐敗はいかにして減らせるか、北欧モデルはなぜ成功したのかなどについて論じている。 *** 金融市場、そして市場一般がどう運営されるべきかについては膨大な文献がある。しかし、市場においてゲームのルールを定めるフォーマル・インフォーマルな制度に関しては、それほど多くの文献はない。経済学を離れ政治学など他の分野に目を移しても、ほとんどの研究者は投票、政党、選挙、世論に注目しており、政府や規制の効率性・質についての議論は少ない。インフォーマルな制度は規制の質やインテグリティに信じられないほど強く影響する。そのため本サイトPromarketでは、今後数カ月、このテーマについて政治学者にインタビューしていこうと考えている。 **
先日、ノースウェスタン大の経済学者、ベン・ゴラブ(Ben Golub)がこんなツイートをしていた。 ベン・ゴラブ:ときどき思い出すのが、経済学を研究していると言ったら、(例えば)歴史学を専攻している学生から、スミスやマルクスをきちんと学んでいないのかと驚かれたことだ。 マウント・ホリヨーク大学の英文学者、アレックス・マスコウィッツ(Alex Moskowitz)は、ほとんどの経済学者がスミスもマルクスも読んでいないことを受けて、経済学を「フェイク」呼ばわりし、「経済学はその知識生産の手段を適切に歴史化してこなかった」と断じた。 アレックス・マスコウィッツ:経済学者は毎日毎日、経済学が学問としてフェイクであることを白日の下に晒している。 経済学はなぜ真の学問ではないのかとこれまでたくさんの人に質問をされた。それは、経済学が自らの知識生産の手段を適切に歴史化してこなかったからだ。マルクスやスミ
カナダで現在生じている保守運動は、他のいくつかの国と同様、「あり得ない」連合を形成しているとよく言われる。つまり、互いにほとんど共通点を持たないグループが同じ保守運動に参加しているのだ。最もよく挙げられるのは、リバタリアンとキリスト教「社会保守主義」である。両者は様々な具体的な問題(中絶、医師による自殺幇助、マリファナ、同性婚など)について異なる立場をとっているだけでなく、社会における国家の役割について根本的に異なる見解を持っている。一般に、社会保守主義が求めているのは、議論の分かれる倫理的問題に関して特定の立場につき、特定の見解を人々に押し付ける介入的な国家だ。言い換えれば、社会保守主義は政治理論で言うところの「リベラルな中立性」、あるいは制限政府のドクトリン(すなわち、国家は私的領域における個人の行動をコントロールしようとすべきでないという見解)を拒否しているのだ。一方でリバタリアンが
モントリオールに住んでいた頃を思い返すと、犬に対して奇妙な抵抗感を持つ女性たちが近所に十数人はいた。彼女たちは明らかに、最近カナダへやって来た移民だった。私が犬を散歩しに出かけると、彼女らはいつもわざわざ私を避け、向こう側の歩道へ行くため車道を横切ることさえあった。曲がり角でばったり遭遇してしまったときなどは、女性は私の犬を見て驚き、文字通り叫んで逃げ出してしまった。また別のときには、子どもを連れて歩いている女性が、子どもの目を塞いで私の連れている犬と目が合わないようにしていることもあった。 犬とともに生活することが驚くほど嫌悪される文化が存在することは知っている。だがこれは嫌悪感を超えており、ほとんど恐怖心に近い怯え方であるように思えた。そこでこの方面の研究を行っている友人に、いったいどういうことなのかと尋ねてみた。友人の話によると、彼女たち移民の出身地域では、犬は不潔と思われてるだけで
アイデンティ政治は失敗したけど、階級政治ものぞみ薄だ 2017年、僕はバークレー大学で開かれたホームパーティーに参加していた。皆、ヒラリー・クリントンはどうしてドナルド・トランプに負けたかについて議論していた。カリフォルニア大学バークレー校の法学部に通っていた女性が、ヒラリーは「労働者階級」を無視したからよ、と断言した。彼女に、労働者階級とはどんな人なのかについて説明をうながした。彼女の想定にあったのは、学生ローンを抱え、学んだ人文系の学位を活かせないでいる「セックスワーカー」だった。 彼女の想定があまりに意外だったので、この件は心に残っている。労働組合に加入している自動車産業や鉄鋼業で働く労働者や、ヘルメットを被ったアメリカ中西部のステロタイプな男性を挙げると思っていたし、アメリカの民間部門労働者で組合に加入している割合がいかに少ないか、製造業に従事するアメリカ人がいかに少なくなったかに
「俺が,現実離れ?」 「いや,現実離れしてんのは,大学院も出てない連中の方だろ」 トランプ勝利から得られる教訓その三 先週の共和党大勝利選挙から民主党が学ぶべき教訓について書いてきた.一本目では,アイデンティティ政治ではヒスパニック系有権者に訴求できていない件をとりあげ〔日本語記事〕,二本目では,民主党が雇用ばかりを気にしすぎてインフレへの注意がおろそかだったことを語った〔日本語記事〕.そして三つ目は,アメリカの階級についての教訓だ.高学歴専門職階級は,他の同胞たちから遊離しつつある.価値観・信念・情報の取り方で,彼らは他の人たちから距離が開きつつある. ほんの数年前まで確実視されていた人口統計的な傾向の多くが,今回の選挙ではひっくり返った.トランプ派,ヒスパニック系有権者たちを共和党支持に大きく転換させたようだし,大都市圏は他の地域よりもいっそう強く共和党支持に傾いた.でも,今回の選挙で
ドナルド・トランプ次期大統領が、ヘッジファンド・マネージャーのスコット・ベッセントを財務長官に指名することが分かってから1週間が経った。一部では「無難な人選」と見なされているこの指名は、スティーブ・バノン(トランプの長年のアドバイザー)とジェイソン・ファーマン(オバマ大統領のホワイトハウス上級エコノミスト)の両氏から称賛を集めている。 私は、ベッセントが指名候補に浮上するまで、彼にそれほど注目していなかったが、マクロ戦略家のダリオ・パーキンスのおかげで、ベッセントについて興味深いことを知った。 パーキンス:スコット・ベッセントが、「パウエル(FRB議長)はバイデンが自分(パウエル)の再任を承認するのを待っていたために、利上げをするのがあまりにも遅くなってしまった」と非難している。 パーキンス:ベッセントはまた、「金利上昇は少なくとも日本にとっては刺激的だ」とも言った @stephaniek
ジェームズ・ガルブレイスが何年も前に言ったように、「重要なのは金利なのだ、愚か者!」 先週、ドナルド・トランプ次期米大統領は、イーロン・マスクとビベック・ラマスワミを、無駄遣いを根絶し連邦政府機関を見直すために新設された「政府効率化省(DOGE)」のトップに起用すると発表した。トランプは特定の削減額を約束しなかったが、イーロン・マスクは連邦予算から「少なくとも2兆米ドル〔約300兆円〕」を削減すると約束した。するとリベラル系の評論家はすぐさま汗をかき始め、アメリカの弱者に多大な痛みを与えるような極めて厳しい歳出削減を断行しない限り、そんなことは到底不可能だと断言した。 『アメリカン・プロスペクト』誌に寄稿したティム・アイワイエミは、「イーロン・マスクが言っているような歳出削減を行う唯一の方法は、メディケア(高齢者・障害者向け公的医療保険制度)とソーシャル・セキュリティー(社会保障年金)を激
「よい」制度(“good” institution)はどうすれば手に入れられるのだろうか? この問いは私の最近の研究テーマだ(ここを参照)。さらにディシリー・ディシエルト(Desiree Desierto)とジェイコブ・ホール(Jacob Hall)との共著で、マグナ・カルタに関する新しい論文の原稿を書き上げたところで、非常に興奮している。 さて、ダロン・アセモグル、サイモン・ジョンソン、ジェームズ・ロビンソン(以下AJR)が制度研究の業績でノーベル経済学賞を受賞した。今こそ「よい」制度やマグナ・カルタというテーマに再訪する絶好の機会だ。 「制度の影響」と「制度の発生」 AJRの研究が当初注目を浴びた際、その関心は「制度の影響(effects of institutions)」というテーマに集中していた。ノーベル賞授賞にあわせて公開された「学術的背景(scientific backgrou
近年、アメリカで経済的不平等への関心が大変高まっている。このことを考えると、高等教育、そして、アメリカで最もランクの高い大学が実はもはや階層流動性を高めるためのパイプとして機能していないという事実に、大きな注目が向くのは自然なことだ。例えばトマス・フランクは、授業料が過去30年間で1200%も上昇したことをしきりに嘆いている(この記事やこの記事)。しかしフランクは他のアメリカの論者たちの多くと同様、もっと明白な問題を見落としている。アメリカのトップ大学がたとえ授業料をゼロにしたとしても、社会的不平等は減らせそうにないのだ。なぜならこの対処策は、学生数が少なすぎるというアメリカのエリート大学の最も根本的な問題に手をつけていないからである。 カナダ人は、国境の南側で子育て競争の過熱を嘆くアメリカ人の声を飽きるほど聞いている。子どもをイェール大学に入れたいなら、「充実した」保育が行える大卒のベビ
まだ消えたわけでもない人物に対してなんだが、スティーヴ・バノンについて次のように論評するのはフェアなはずだ。彼は2つの点で私たちの記憶に残り続ける人物となるだろう。第一は、彼のメディア戦略だ(「一面にクソを撒き散らせ」)。第二は、アンドリュー・ブライトバート(Andrew Breitbart) [1]訳注:アメリカの右派メディア、ブライトバート・ニュース・ネットワークの創業者。 のスローガン(「政治は文化の下流にある」)を広めたことだ。このスローガンはアメリカの文化戦争の大乱戦の幕を開いた。「政治は文化の下流にある」という考え方は、1960年代以後「リベラルはハリウッドを支配し、保守はワシントンを支配した」との主張と密接に結びついている。 2017年にこの議論を初めて聞いたとき、私は耳をそばだててしまった。知っている人もいるだろうが、私は2004年、アンドルー・ポターと『反逆の神話』という
マシュー・イグレシアスが最近挙げたシリーズ記事「新自由主義とその敵」は一読の価値ありだ。イグレシアスの記事は、人気を博しているとあるナラティブに対する解毒剤となっている。そのナラティブというのはこんな感じだ。今日の経済・社会問題は1980年代から2010年代にかけての「新自由主義の時代」の帰結である。この時代に、規制緩和、市場原理主義、政府緊縮といったイデオロギーが、アメリカ、そして世界中の政策エリートの心を掴んだ。 イグレシアスは、「新自由主義の時代」が存在したことを否定してはいないが、それが完全に悪であるとか、広く蔓延っているといった主張には異議を申し立てている。結局、ビル・クリントンが「大きな政府の時代は終わった」と宣言してからほぼ30年間、規制も政府支出も多少の揺れはあれ一貫して増え続けてきたのだ。レーガンも、巨額の財政赤字を出しながら、日本との貿易戦争を戦い、防衛技術や半導体事業
一ヶ月ほど前、小学校三年生になる娘が放課後に私のところにやってきて、紙とペンを催促してきた。「何に使うの?」と私は尋ねた。「クールなものを見せてあげる」と娘は答えた。 なので、用具を持ってきて、娘に渡した。彼女はペンを取って、タブレットの上にかがんでスケッチを始めた。何秒かたって、次のようなものを描いた。 娘は顔を上げて、すごい秘密を打ち明けるかのように、はにかんだ笑顔を見せた。「クールでしょ?」 私はただうなずくしかなかった。プライド、ノスタルジー、後悔なんかが入り混じった奇妙な感情が渦巻いて、涙が出そうだったからだ。娘が描いていたのは、かつて友人が「メタルS」と呼んでいたものだったからだ。「メタルS」以外だと、「クールS」、「スーパーS」、「サーファーS」と呼ばれていた。私が小学6年か7年の頃には、教室の半分ほどの生徒が先生のいいつけを無視して、ワークブックやリュックやスニーカーやジー
先週のアメリカ大統領選でのドナルド・トランプの勝利は、衝撃的だったと広く語られている。しかし、現在世界中で行われている選挙を見てみると、そこまで驚くに値しない。どの国でも、現政権は、コロナ危機の余波――特にインフレ恐怖症を引き起こした物価ショックから打撃を受けている。世界中で有権者は、不安を抱き、フラストレーションを感じ、変化を求めたのだ。 最近の選挙で、真に大勝したのはメキシコのモレナ政権だけだ。今年になってイギリスとフランスでは現政権が〔投票シェアの変動で〕カマラ・ハリスの4倍のダメージを被っている。 〔各国の政権与党のイデオロギーと、選挙での政権維持の是非、投票シェアの変動〕 出典:ブルームバーグ こうした他国との〔票の変動の〕比較の観点からだと、アメリカ民主党はそこまで大敗したわけではなく、相対的に良いとさえ言える。アメリカの状況で本当に異常なのは、ドナルド・トランプがワールドワイ
2010年代に,アメリカの平均寿命は横ばいになって,さらにはわずかながら縮んでしまった.その後,パンデミック期に平均寿命は急落した.コロナウイルスのせいだ(また,そこまで大きい要因ではないけれど,殺人件数や薬物濫用の増加による部分もある).これを受けて,アメリカとその将来についてすごく悲観的な物語がいっそう強まったりもした. ところが,そういう物語がどんどん増えているなかで,トレンドは逆転を遂げている.アメリカの平均寿命はまた伸びつつある.すでに,パンデミック期に失った分は取り戻されている: Source: UN via @StatisticUrban 全体的に,近頃のアメリカは以前よりもちょっとだけ健康に見える.薬物濫用による死亡件数は2023年に減少したし,殺人も2021年後半から減少を続けているし,肥満も減少しつつある. よくあることだけど,アメリカの衰退をささやく噂は大幅に誇張され
昔からの友人に、いわゆる「ドラマクイーン(drama queen)」 [1]訳注:芝居がかった大袈裟な言動で過剰に騒ぎ立てる人を指す表現。「悲劇のヒロイン」のニュアンスに近い。 がいる。といっても、泣き叫んだり人を怒鳴りつけたりするといったステレオタイプな意味でのドラマクイーンだったわけではない。彼女は教養と知性のある女性で、その行動は非常に目立ちにくいものだった。実際あんまりにも目立ちにくいので、彼女の問題に何年も気づけなかったほどだ。 彼女は常に、人間関係の複雑な網の目の中心人物だった。その人間関係はいつも不安定で、常に「何か」が起こっており、彼女はそうした問題について熱心に語りたがった。彼女の話に引きずり込まれないようにするのは至難の業だった。知り合ってから最初の10年くらいは、彼女がそうした問題について語る度に、私も熱心にそれを聞いて、様々な視点から問題を検討し、あり得る解決策をい
アセモグル・ジョンソン・ロビンソンの3人が,経済発展の大統一理論で受賞 毎年,ノーベル経済学賞が発表されるたびに,このブログで記事を書いてる.ここ3年だと,2023年のゴールディン,2022年のバーナンキ・ダイアモンド・ディブヴィグ,2021年のカード・アングリスト・インベンスについて,記事を書いた.でも,今年は書かずにすませようかとも思った.なぜって,実は今年の賞についてぼくはあんまり面白く思ってなくて,それでみんなをしらけさせるのはイヤだったからだ.とはいえ,かつては主流マクロ経済学を批判するのがブロガーとしてのぼくの持ち味みたいなものだったし,いったん自分のルーツに戻ってみるのも悪くないかもしれない. 長くこのブログを読んでる人ならきっと知ってるだろうけど,ぼくはノーベル賞全般をあまりよく思っていない.実際には,たいていの大発見は集団での大きな努力および/または小さな漸進的累積のたま
「アセトアミノフェン / ほらお薬だよ / ああキミったら」 ―― The White Stripes 大きな吉報がやってきた.何十年も手が付けられないほど上昇を続けた末に,ついにアメリカの肥満率が下がりだしてる.国民健康栄養調査(医師の診察にもとづくすごく信頼できるデータソース)から得られたデータをジョン・バーン=マードックが分析したところ,2020年以降に肥満率が下がってきているのがわかった: Source: John Burn-Murdoch このグラフにはひとつ問題点があるのには留意したい(折れ線の末尾に矢印を描くと誤解を招くのにいまだにジョンが矢印をつけてるのとは別の問題点だ).実際の国民健康栄養調査データは2年の時間をかけて収集されている.だから,バーン=マードックが「2023年」とラベルを貼ってるデータは,実のところ2021年8月から2023年8月までのデータだ.このちょっと
本エントリは、私が書いてきた中で最も人気のある記事の再投稿である(元々は2017年にMediumで投稿したもの)。読者の中で既に読んでいた人がいたら申し訳ない。このエントリでは、私がよく人から尋ねられ、また私自身今も再検討し続けている、ある仮想的推論を扱っている。 *** 古代ローマ帝国で産業革命は起こり得ただろうか? これは、ヘレン・デール(Helen Dale)が新著『邪悪な者の帝国』”Kingdom of the Wicked“〔未邦訳〕で提起している問いだ。本書を読むと、キリストは(私たちの住む世界とそう変わらない)古代ローマ世界における宗教的過激派であったのだと思わされる。デールの小説は、テロリズム、グローバリゼーション、拷問、文化の衝突に対する私たちの態度に、新しい光を投げかけている。非常におすすめだ。 一方でデールは、古代世界において持続的な経済成長は可能だったか、という問い
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