なぜ親による子どもの虐待死の量刑は、かくも軽いのか

推協賞受賞作家の「怒り」と「願い」

『天使のナイフ』や『友罪』『Aではない君と』では神戸連続児童殺傷事件に始まる少年犯罪を、『悪党』では大阪児童二児置き去り死事件を、――必ずしも「特定の事件」を題材とはせずとも、世にあふれる犯罪が「なぜ起きたのか」「どうしたら防げたのか」と考えさせる物語を描き続ける作家・薬丸岳。

「黄昏」という短編で日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞した最新作『刑事の怒り』は、年金不正受給、性犯罪、不法滞在、そして介護人による犯罪と、現代社会の闇を見事に切り取った作品になっている。犯罪はなぜ増え続けるのか。私たちはどうしたらいいのか。そのヒントを探るために、ライターの吉田大助が薬丸岳に迫った。

薬丸岳 2006年、初めて書いた長編『天使のナイフ』で江戸川乱歩賞を受賞してデビュー。ある事件から興味を持つようになった少年法を題材として描かれ、鮮烈なデビューとなった 撮影/村田克己

なぜこんなに軽い判決なのか

神戸連続児童殺傷事件相模原障害者施設殺傷事件佐世保女子高生殺害事件――。社会派ミステリの雄として知られる薬丸岳は、現実で起きたさまざまな事件を小説内に溶かし込んできた。

「新聞やテレビでニュースを見ていると、どうしてこんなに事件が起こるんだ、何故こんなにも軽い判決なんだと憤りを覚えることが多々あります。現実の犯罪に対する怒りや疑問が、小説を書き出す原動力なんです」

自身は「厳罰派」だと言う。現行の刑法は、刑罰が軽すぎるのではないか、と。

 

「僕の小説には時おり、性犯罪に遭った登場人物が出てきます。現実で被害に遭われた方の手記などを読むと、心が殺されるとはこういうことか、と感じるんですよ。僕にも妻がいますから、もしも妻がと思ったら、これ以上ない怒りをおぼえます。ある意味では殺人に匹敵するような犯罪であるにもかかわらず、量刑があまりにも軽すぎる。強制性交等罪による懲役は5年以上、長くても20年にすぎません。

昨年、東名高速で死者を出した“あおり運転”もそうです。容疑者は後ろからあおったうえで、追い越し車線に被害者の車を無理やり停車させ、追突事故を起こさせた。一応警察は、加害者を危険運転致死傷害で起訴したらしいですが、裁判所が認めるかどうか。車を停めているから危険運転致死傷外に当たらない、という論理が可能だと聞きます。そうなると3、4年の実刑で済んでしまう。でも、あれは未必の故意による殺人じゃないかと僕は思うんですよ」

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