安倍元首相銃撃後の日本、このままでは「暗黒時代」のドアが開くかもしれない

それでも政治は変わらないのか?

今年3月に刊行された島田雅彦『パンとサーカス』(講談社)が、安倍晋三元首相が銃撃されたあと、再び大きな注目を集めている。フィクションの力によって日本社会の現実を鋭く描き出した本書には、「要人暗殺」という出来事が描かれているからだ。著者の島田氏は、安倍元首相の銃撃、そしてその後の日本社会の反応をどう見るのか。緊急寄稿をお届けする。

国民はもっと怒るべきだ

――世の中の全てが愚かな選択の結果だ。
――世直しにはもっと愚かな選択が必要だ。

(以下太字は『パンとサーカス』からの引用)

――『カタストロフ・マニア』でパンデミックと社会の冬眠状態を予言したかと思ったら、今度は要人暗殺を予言しましたね。

『パンとサーカス』を読んだある人にそういわれたが、全然嬉しくない。別の人には半ば冗談で「共謀罪、テロ教唆罪に問われる恐れがある」といわれた。それだけは勘弁願いたいが、作中では主人公の御影寵児が裁判官に向かってこう問いかけている。

小説に書かれている通りの犯罪が起きたら、小説家も逮捕しますか? 腐敗した政権の打倒を夢想したら、罪になるんですか?

「テロを誘発した」などと偏見の目で見られることに耐えなければならないし、暗殺後の社会の趨勢を考えると、深い憂愁に囚われる。私の予言が外れた方が、世の中はいい方に向かうのだが、このままでは確実に暗黒時代のドアが開く。ただ、『パンとサーカス』ではそれに対する心構えを提唱したつもりである。多少のワクチン的効果はあるはずなので、不安を和らげるのにもご活用を。また我が身の安全を確保するためにはもう少し売れて欲しくもある。

 

安倍晋三元首相を暗殺した容疑者の動機は生々しい怨恨だ。旧統一教会に家庭を破壊され、家族一人一人が悲惨な目に遭った男の復讐は、自民党と旧統一教会の癒着を表沙汰にした。元首相はその広告塔を務め、閣僚等の重要ポストにあった34名を含む自民党議員の半数がこのカルト教団に資金や組織票、実働に依存していたという事実に国民はもっと怒るべきだ。

憲法嫌いの議員たちは平然と「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」という憲法20条を踏みにじっていたのである。しかも、その事実は以前から知られていたにもかかわらず、事件後もそこに触れようとしないNHKほかマスメディアは、報道の自由度のランクを下げることに貢献している。

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