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'''光療法'''(ひかりりょうほう)とは、一部の[[睡眠障害]]や[[うつ病]]に有効とされる治療法の一種である。また、生体リズムを整える効果があるとして、健康法の一種としても用いられることがある。高照度の[[]]を浴びる治療法を'''高照度光照射療法'''(こうしょうどひかりしょうしゃりょうほう)と呼ぶ場合もあるが、光を遮ることを治療法に盛り込む場合もあるため、ここでは光療法の呼び名で両者を合わせて説明する。
{{medical}}
'''光療法'''(ひかりりょうほう)とは、一部の[[睡眠障害]]や[[うつ病]]に有効とされる治療法の一種である。また、生体リズムを整える効果があるとして、健康法の一種としても用いられることがある。高照度の光を浴びる治療法を'''高照度光照射療法'''(こうしょうどひかりしょうしゃりょうほう)と呼ぶ場合もあるが、光を遮ることを治療法に盛り込む場合もあるため、ここでは光療法の呼び名で両者を合わせて説明する。


== 歴史 ==
== 歴史 ==
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=== 睡眠障害 ===
=== 睡眠障害 ===
[[睡眠障害]](非器質性睡眠障害)のうち、とくに[[概日リズム睡眠障害]]全般に有効とされている。人間には、明るい光を浴びると体内時計がリセットされ、それとともに[[メラトニン]]の分泌が抑制され、一定時間後(約15時間後)に再び分泌される。眠気を司るメラトニンの分泌タイミングを光を用いてコントロールすることで、外界環境と睡眠相とのずれを補正することを主軸とした治療法である。<ref>[http://portal.lighttherapy.jp/lighttherapy/post_104.html 高照度光療法の総合サイト - 光療法とは]</ref>
[[睡眠障害]](非器質性睡眠障害)のうち、とくに[[概日リズム睡眠障害]]全般に有効とされている。人間には、明るい光を浴びると[[体内時計]]現状維持(リセットされ、それとともに[[メラトニン]]の働きが抑制される。


眠気を司るメラトニンの分泌タイミングを、光を用いてコントロールする事は光療法と呼ばれ、非常に複雑で繊細かつ根気のいる作業であるが、外界環境と睡眠相とのずれを補正することを主軸とした治療法である<ref>[http://portal.lighttherapy.jp/lighttherapy/post_104.html 高照度光療法の総合サイト - 光療法とは]</ref>。
[[睡眠相後退症候群]]は、外部環境に対して睡眠相が遅れたまま進められない状態とされている。また、[[非24時間睡眠覚醒症候群]]は、人間が本来持っている25時間周期の睡眠周期を、24時間周期の外部環境に合わせることができない(差の1時間の遅れを取り戻せない)状態とされている。光療法では、起床直後に高照度の光を浴びることで、外部時間に対する睡眠相の遅れや睡眠周期による生体リズムの遅れをリセットする効果を持つと考えられている。


[[睡眠相前進症候群]]は、外部環境に対して睡眠相が進んだまま遅らせられない状態とされている。光療法では、就寝前の時間帯に高照度浴びることで、睡眠相を遅らせる効果をつと考えられいる。また午前中、サングラスを掛けるな方法で意図的に光浴びる量を減らす治療を併用する場合もある。
[[睡眠相後退症候群]]は、外部環境に対して睡眠相が遅れたまま進められない状態とされている。また、[[非24時間睡眠覚醒症候群]]は、人間が本来持っている24時間10~40分周期25時間いう長さで持おり24時間周期の外部環境合わせきことができい(差1時間の遅れ縮めきれない)状態とされている。


光療法では、それぞれの体内時計による自然な起床直後に高照度の光を浴びる量によって、外部時間に対する睡眠相の遅れや睡眠周期による生体リズムの遅れを縮める効果を持つと考えられている。
=== 冬季うつ病 ([[季節性情動障害]]) ===

[[睡眠相前進症候群]]は、外部環境に対して睡眠相が進んだまま遅らせられない状態とされている。

時間療法では、それぞれの体内時計による自然な起床直後に高照度の光を避ける事で、睡眠相を遅らせる効果を持つと考えられている。また、就寝時に光を浴びてメラトニンの働きを意図的に抑制する場合もある。

[[認知症]]の睡眠障害に対して、薬物を用いない方法では、光療法が有効だとするランダム化比較試験が複数存在する<ref name="pmid28360513">{{cite journal|author=Dimitriou TD, Tsolaki M|title=Evaluation of the efficacy of randomized controlled trials of sensory stimulation interventions for sleeping disturbances in patients with dementia: a systematic review|journal=Clin Interv Aging|pages=543–548|date=2017|pmid=28360513|pmc=5364002|doi=10.2147/CIA.S115397|url=https://www.dovepress.com/evaluation-of-the-efficacy-of-randomized-controlled-trials-of-sensory--peer-reviewed-fulltext-article-CIA}}</ref>。

=== 冬季うつ病 (季節性情動障害) ===
[[季節性情動障害]](季節性うつ病)のうち、冬季うつ病にとくに有効とされる。冬季うつ病は、[[セロトニン]]の欠乏による受容体の感受性が亢進することが原因であるとする「セロトニン仮説」があり、高照度の光を長時間浴びることでこれが改善されることによるものと考えられている。但し、軽い躁状態の場合は躁転する可能性があるため、光治療を避ける場合もある。
[[季節性情動障害]](季節性うつ病)のうち、冬季うつ病にとくに有効とされる。冬季うつ病は、[[セロトニン]]の欠乏による受容体の感受性が亢進することが原因であるとする「セロトニン仮説」があり、高照度の光を長時間浴びることでこれが改善されることによるものと考えられている。但し、軽い躁状態の場合は躁転する可能性があるため、光治療を避ける場合もある。


=== うつ病 (非[[季節性情動障害]] ) ===
=== うつ病(非季節性情動障害) ===
光療法は非季節性のうつ病の治療にも有効であることが実証された<ref>「8.うつ病の時間生物学的治療」 睡眠医療 第2巻 第1号 2007 (株)ライフサイエンス</ref>。光療法がうつ病に効果があるかどうかは古くから検討されてきものの、有効、無効の両方の報告があり、有効であること決定的な証拠はなかったが、最新の研究果によりそ有効性が実証されるに至っている
光療法は非季節性のうつ病の治療にも有効であることが実証された<ref>「8.うつ病の時間生物学的治療」 睡眠医療 第2巻 第1号 2007 (株)ライフサイエンス</ref>。2016年の非季節性情動障害への光療法効果を調査しメタアナリシスでは、有効であるものの証拠の質低い(信頼性は高くい)<ref name="pmid27703764">{{cite journal|author=Perera S, Eisen R, Bhatt M, et al.|title=Light therapy for non-seasonal depression: systematic review and meta-analysis|journal=BJPsych Open|issue=2|pages=116–126|date=March 2016|pmid=27703764|pmc=4998929|doi=10.1192/bjpo.bp.115.001610}}</ref>。2018年のレビューでは6研究で合計359人の参加者が見つかったが、大部分は人を代表する年齢層ではなかったため、老年性非季節うつ病に効果あるとされた<ref name="pmid29500957">{{cite journal|author=Zhao X, Ma J, Wu S, Chi I, Bai Z|title=Light therapy for older patients with non-seasonal depression: A systematic review and meta-analysis|journal=J Affect Disord|pages=291–299|date=May 2018|pmid=29500957|doi=10.1016/j.jad.2018.02.041}}</ref>

抗うつ薬のベンラファキシン(イフェクサー)だけより光療法を追加した方が、より抑うつ気分の改善し、また効果の発現も抗うつ薬だけの4週間から、2週間へと早まった<ref name="pmid26035199">{{cite journal|author=Güzel Özdemir P, Boysan M, Smolensky MH et al|title=Comparison of venlafaxine alone versus venlafaxine plus bright light therapy combination for severe major depressive disorder|journal=J Clin Psychiatry|issue=5|pages=e645–54|date=May 2015|pmid=26035199|doi=10.4088/JCP.14m09376}}</ref>。

===その他の精神障害===
摂食障害では、気分と摂食行動を改善する可能性があるが、長期的な有効性を調査した研究はない<ref name="pmid27835724">{{cite journal|author=Beauchamp MT, Lundgren JD|title=A Systematic Review of Bright Light Therapy for Eating Disorders|journal=Prim Care Companion CNS Disord|issue=5|date=October 2016|pmid=27835724|doi=10.4088/PCC.16r02008}}</ref>。

===新生児黄疸===
[[Image:Jaundice phototherapy.jpg|thumb|新生児黄疸を治療するための白色光光線療法を受けている新生児]]
光療法は、光照射により[[ビリルビン]]を異性化させたり[[新生児]]が尿や便を介して[[排泄]]できるような[[化合物]]に変換させたりすることによって[[新生児黄疸]]の治療に使用されている<ref>{{cite journal |author=Newman TB, Kuzniewicz MW, Liljestrand P, Wi S, McCulloch C, Escobar GJ |title=Numbers needed to treat with phototherapy according to American Academy of Pediatrics guidelines |journal=Pediatrics |volume=123 |issue=5 |pages=1352–9 |date=May 2009 |pmid=19403502 |doi=10.1542/peds.2008-1635 |pmc=2843697}}</ref>。新生児黄疸の一般的な治療法はビリライト([[:en:Bili light]])である。


== 照射光 ==
== 照射光 ==
照度と時間については諸説があり、医療機関によって指示される照度と時間は異なるが、2,500ルクス以上で有効との意見が多い。しかし実際の治療では、5,000-10,000ルクス程度の照度を30分-1時間程度照射するケースが多い。有効/無効に個人差はある、有効の場合は数日-2週間程度で効果現れと言わる。また、改善した状況を維持するため、効果発生後も定期的に実施するように指示される場合もある。
照度と時間については諸説があり、医療機関によって指示される照度と時間は異なるが、2,500[[ルクス]]以上2時間で有効との意見が多い。しかし実際の治療では、5,000ルクス-1時間から10,000ルクス-30分程度の照度を照射するケースが多い。なぜなら光強い方比例して浴び時間を減らせられるためある。


有効量に個人差はあるが、有効の場合は数日-2週間程度で効果が現れると言われる。また、改善した状況を維持するため、効果発生後も定期的に実施するように指示される場合もある。
自然光でもよいが、光の照射時間を変えられる点(睡眠障害治療では夜間に照射するケースある)、照度調整が可能である点(明るすぎる場合、人によっては不快に感じる)、室内使用可能である点(うつ状態では、そもそも戸外に出たがらない)などから、治療目的では人工光が用いられるケースが多い。


自然光でもよいが、光の照射時間を変えられる点(睡眠障害治療では夜間に照射するケースある)、照度調整が可能である点(明るすぎる場合、人によっては不快に感じる)、室内使用可能である点(うつ状態では、そもそも戸外に出たがらない)などから、治療目的では人工光が用いられるケースが多い。
自然光を用いる場合、とくに健康法を目的とする場合、「朝日を浴びる」という表現が用いられることがあるが、曇り空は約10,000ルクス、雨空であっても約5,000ルクスと光療法としての照度は充分あるため、必ずしも日光を浴びる必要はない。もちろん10,000ルクスの照度を持つ「朝日を浴びることができるなら、が最高の光療法である。


自然光を用いる場合、とくに健康法を目的とする場合、「朝日を浴びる」という表現が用いられることがあるが、曇り空は約10,000ルクス、雨空であっても約5,000ルクスと光療法としての照度は充分あるため、必ずしも[[太陽光|日光]]を浴びる必要はなく、朝であると限った話でもない。{{Sfn|医学博士小池茂文|2008|p71}}無論、30,000ルクスの照度を持つ陽光を浴びることが可能なら浴びる時間は短縮される{{Sfn|医学博士小池茂文|2008|p73}}
== 関連項目 ==

* [[睡眠障害]]
==副作用==
* [[概日リズム睡眠障害]]
目への安全性を調査したレビューでは健康な人では安全で、光線過敏では黄斑変性が起きた1例があり光感受性や目の異常がある場合の調査が必要だが、理論的には禁忌はない<ref name="pmid28891192">{{cite journal|author=Brouwer A, Nguyen HT, Snoek FJ, et al.|title=Light therapy: is it safe for the eyes?|journal=Acta Psychiatr Scand|issue=6|pages=534–548|date=December 2017|pmid=28891192|doi=10.1111/acps.12785}}</ref>。
* [[睡眠相前進症候群]]

* [[睡眠相後退症候群]]
双極性障害のうつ病エピソードでの躁病エピソードへの転換は、偽薬での頻度に近い<ref name="pmid29348073">{{cite journal|author=Benedetti F|title=Rate of switch from bipolar depression into mania after morning light therapy: A historical review|journal=Psychiatry Res|pages=351–356|date=March 2018|pmid=29348073|doi=10.1016/j.psychres.2018.01.013}}</ref>。
* [[うつ病]]

* [[季節性情動障害]]
== サーカディアンハウスの提唱 ==
* [[ヴァーストゥ・シャーストラ]]
睡眠医療の専門医である[[小池茂文]]は、[[体内時計]]、[[概日リズム]]([[サーカディアンリズム]])の安定には、[[住まい]]、[[生活習慣]]が大切であると提唱している{{Sfn|医学博士小池茂文|2008|p69}}。
例えば、[[目覚まし時計]]などの音で起きるのではなく、タイマー式[[電動シャッター]](サーカディアンシャッター)、タイマー式[[電動カーテン]](サーカディアンカーテン)と名付け、[[自然光]]による目覚めを提唱している。近年は都心部のマンションなどでは、朝起きて地下道と直結しオフィスで勤務してしまう、いっさい[[太陽光]]と乖離した生活をしてしまうことも少なくなく、[[体内時計]]が狂い、[[睡眠障害]]や[[うつ病]]などを発生しやすい傾向がある{{Sfn|医学博士小池茂文|2008|p72}}。

朝起きて速やかに高照度、つまり[[朝日]]を浴びることは望ましいが、単純に朝日を浴びるだけでなく、「食事を摂り」、「排便をし」体全体をしっかり目覚めさせることが重要であり、自然光は曇りや雨でも体を[[覚醒]]させるには十分な力があることから、住まいの中で最も朝食の時間帯に明るい場所(窓際)を朝食時のダイニングとすることを提唱している。また単に睡眠時間を得る事を重要視するのではなく、「質の良い睡眠」を間取り構成で得る努力も大切であるとしている。例えばエアコンの室外機の位置、トイレの排水音、ドアの音など、生活音からベッド配置を考慮することも大切であるとし、こういった住まいを[[サーカディアンハウス]]、[[ハウスサーカディアン]]((商標登録)として提唱している{{Sfn|医学博士小池茂文|2008|p73}}。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
* [https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/attach/1333542.htm 光の治療的応用―光による生体リズム調節―] 文部科学省 2007年
{{節stub}}
* {{Cite book|和書|author=医学博士 小池茂文/小池康壽|title=「家相&間取り」幸せプラン100|publisher=すばる舎|date= 2008/5/21|ISBN=978-4883997169}}


== 外部リンク ==
== 関連項目 ==
* [[ヴァーストゥ・シャーストラ]]
* [http://portal.lighttherapy.jp/ 光療法の総合サイト]
* [[高エネルギー可視光線]]
* [http://www.atpress.ne.jp/view/9098 「うつ病治療に光療法が有効であることが実証された」 プレスリリース]
* [[気分]]

* [[気分障害]]
{{medical-stub}}
* [[概日リズム睡眠障害]]
* [[生物時計]]
* [[概日リズム]]
* [[メラトニン]]


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{{DEFAULTSORT:ひかりりようほう}}
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[[Category:睡眠]]
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[[Category:精神疾患]]
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[[Category:エネルギー療法]]
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[[sr:Светлосна терапија]]
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[[tr:Fototerapi]]
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2024年6月22日 (土) 09:09時点における最新版

光療法(ひかりりょうほう)とは、一部の睡眠障害うつ病に有効とされる治療法の一種である。また、生体リズムを整える効果があるとして、健康法の一種としても用いられることがある。高照度のを浴びる治療法を高照度光照射療法(こうしょうどひかりしょうしゃりょうほう)と呼ぶ場合もあるが、光を遮ることを治療法に盛り込む場合もあるため、ここでは光療法の呼び名で両者を合わせて説明する。

歴史

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精神科医ノーマン・E・ローゼンタールを含む複数人のグループによって、季節によって症状が出る時期と出ない時期があるうつ病患者の研究を行った成果として、1982年に高照度光照射療法が確立された。

光療法の適用

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睡眠障害

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睡眠障害(非器質性睡眠障害)のうち、とくに概日リズム睡眠障害全般に有効とされている。人間には、明るい光を浴びると体内時計が現状維持(リセット)され、それとともにメラトニンの働きが抑制される。

眠気を司るメラトニンの分泌タイミングを、光を用いてコントロールする事は光療法と呼ばれ、非常に複雑で繊細かつ根気のいる作業であるが、外界環境と睡眠相とのずれを補正することを主軸とした治療法である[1]

睡眠相後退症候群は、外部環境に対して睡眠相が遅れたまま進められない状態とされている。また、非24時間睡眠覚醒症候群は、人間が本来持っている24時間10~40分の周期を25時間という長さで持っており、24時間周期の外部環境に合わせきることができない(差の1時間の遅れを縮めきれない)状態とされている。

光療法では、それぞれの体内時計による自然な起床直後に高照度の光を浴びる量によって、外部時間に対する睡眠相の遅れや睡眠周期による生体リズムの遅れを縮める効果を持つと考えられている。

睡眠相前進症候群は、外部環境に対して睡眠相が進んだまま遅らせられない状態とされている。

時間療法では、それぞれの体内時計による自然な起床直後に高照度の光を避ける事で、睡眠相を遅らせる効果を持つと考えられている。また、就寝時に光を浴びてメラトニンの働きを意図的に抑制する場合もある。

認知症の睡眠障害に対して、薬物を用いない方法では、光療法が有効だとするランダム化比較試験が複数存在する[2]

冬季うつ病 (季節性情動障害)

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季節性情動障害(季節性うつ病)のうち、冬季うつ病にとくに有効とされる。冬季うつ病は、セロトニンの欠乏による受容体の感受性が亢進することが原因であるとする「セロトニン仮説」があり、高照度の光を長時間浴びることでこれが改善されることによるものと考えられている。但し、軽い躁状態の場合は躁転する可能性があるため、光治療を避ける場合もある。

うつ病(非季節性情動障害)

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光療法は非季節性のうつ病の治療にも有効であることが実証された[3]。2016年の非季節性情動障害への光療法の効果を調査したメタアナリシスでは、有効であるものの証拠の質は低い(信頼性は高くない)[4]。2018年のレビューでは6研究で合計359人の参加者が見つかったが、大部分は成人を代表する年齢層ではなかったため、老年性の非季節性うつ病に効果があるとされた[5]

抗うつ薬のベンラファキシン(イフェクサー)だけより光療法を追加した方が、より抑うつ気分の改善し、また効果の発現も抗うつ薬だけの4週間から、2週間へと早まった[6]

その他の精神障害

[編集]

摂食障害では、気分と摂食行動を改善する可能性があるが、長期的な有効性を調査した研究はない[7]

新生児黄疸

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新生児黄疸を治療するための白色光光線療法を受けている新生児

光療法は、光照射によりビリルビンを異性化させたり新生児が尿や便を介して排泄できるような化合物に変換させたりすることによって新生児黄疸の治療に使用されている[8]。新生児黄疸の一般的な治療法はビリライト(en:Bili light)である。

照射光

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照度と時間については諸説があり、医療機関によって指示される照度と時間は異なるが、2,500ルクス以上2時間で有効との意見が多い。しかし実際の治療では、5,000ルクス-1時間から10,000ルクス-30分程度の照度を照射するケースが多い。なぜなら光が強い方が比例して浴びる時間を減らせられるためである。

有効量に個人差はあるが、有効の場合は数日-2週間程度で効果が現れると言われる。また、改善した状況を維持するため、効果発生後も定期的に実施するように指示される場合もある。

自然光でもよいが、光の照射時間を変えられる点(睡眠障害治療では夜間に照射するケースもある)、照度調整が可能である点(明るすぎる場合、人によっては不快に感じる)、室内使用可能である点(うつ状態では、そもそも戸外に出たがらない)などから、治療目的では人工光が用いられるケースが多い。

自然光を用いる場合、とくに健康法を目的とする場合、「朝日を浴びる」という表現が用いられることがあるが、曇り空は約10,000ルクス、雨空であっても約5,000ルクスと光療法としての照度は充分あるため、必ずしも日光を浴びる必要はなく、朝であると限った話でもない。[9]無論、約30,000ルクスの照度を持つ陽光を浴びることが可能ならば、浴びる時間は短縮される[10]

副作用

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目への安全性を調査したレビューでは健康な人では安全で、光線過敏では黄斑変性が起きた1例があり光感受性や目の異常がある場合の調査が必要だが、理論的には禁忌はない[11]

双極性障害のうつ病エピソードでの躁病エピソードへの転換は、偽薬での頻度に近い[12]

サーカディアンハウスの提唱

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睡眠医療の専門医である小池茂文は、体内時計概日リズムサーカディアンリズム)の安定には、住まい生活習慣が大切であると提唱している[13]。 例えば、目覚まし時計などの音で起きるのではなく、タイマー式電動シャッター(サーカディアンシャッター)、タイマー式電動カーテン(サーカディアンカーテン)と名付け、自然光による目覚めを提唱している。近年は都心部のマンションなどでは、朝起きて地下道と直結しオフィスで勤務してしまう、いっさい太陽光と乖離した生活をしてしまうことも少なくなく、体内時計が狂い、睡眠障害うつ病などを発生しやすい傾向がある[14]

朝起きて速やかに高照度、つまり朝日を浴びることは望ましいが、単純に朝日を浴びるだけでなく、「食事を摂り」、「排便をし」体全体をしっかり目覚めさせることが重要であり、自然光は曇りや雨でも体を覚醒させるには十分な力があることから、住まいの中で最も朝食の時間帯に明るい場所(窓際)を朝食時のダイニングとすることを提唱している。また単に睡眠時間を得る事を重要視するのではなく、「質の良い睡眠」を間取り構成で得る努力も大切であるとしている。例えばエアコンの室外機の位置、トイレの排水音、ドアの音など、生活音からベッド配置を考慮することも大切であるとし、こういった住まいをサーカディアンハウスハウスサーカディアン((商標登録)として提唱している[10]

脚注

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  1. ^ 高照度光療法の総合サイト - 光療法とは
  2. ^ Dimitriou TD, Tsolaki M (2017). “Evaluation of the efficacy of randomized controlled trials of sensory stimulation interventions for sleeping disturbances in patients with dementia: a systematic review”. Clin Interv Aging: 543–548. doi:10.2147/CIA.S115397. PMC 5364002. PMID 28360513. https://www.dovepress.com/evaluation-of-the-efficacy-of-randomized-controlled-trials-of-sensory--peer-reviewed-fulltext-article-CIA. 
  3. ^ 「8.うつ病の時間生物学的治療」 睡眠医療 第2巻 第1号 2007 (株)ライフサイエンス
  4. ^ Perera S, Eisen R, Bhatt M, et al. (March 2016). “Light therapy for non-seasonal depression: systematic review and meta-analysis”. BJPsych Open (2): 116–126. doi:10.1192/bjpo.bp.115.001610. PMC 4998929. PMID 27703764. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4998929/. 
  5. ^ Zhao X, Ma J, Wu S, Chi I, Bai Z (May 2018). “Light therapy for older patients with non-seasonal depression: A systematic review and meta-analysis”. J Affect Disord: 291–299. doi:10.1016/j.jad.2018.02.041. PMID 29500957. 
  6. ^ Güzel Özdemir P, Boysan M, Smolensky MH et al (May 2015). “Comparison of venlafaxine alone versus venlafaxine plus bright light therapy combination for severe major depressive disorder”. J Clin Psychiatry (5): e645–54. doi:10.4088/JCP.14m09376. PMID 26035199. 
  7. ^ Beauchamp MT, Lundgren JD (October 2016). “A Systematic Review of Bright Light Therapy for Eating Disorders”. Prim Care Companion CNS Disord (5). doi:10.4088/PCC.16r02008. PMID 27835724. 
  8. ^ Newman TB, Kuzniewicz MW, Liljestrand P, Wi S, McCulloch C, Escobar GJ (May 2009). “Numbers needed to treat with phototherapy according to American Academy of Pediatrics guidelines”. Pediatrics 123 (5): 1352–9. doi:10.1542/peds.2008-1635. PMC 2843697. PMID 19403502. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2843697/. 
  9. ^ 医学博士小池茂文, 2008 & p71.
  10. ^ a b 医学博士小池茂文, 2008 & p73.
  11. ^ Brouwer A, Nguyen HT, Snoek FJ, et al. (December 2017). “Light therapy: is it safe for the eyes?”. Acta Psychiatr Scand (6): 534–548. doi:10.1111/acps.12785. PMID 28891192. 
  12. ^ Benedetti F (March 2018). “Rate of switch from bipolar depression into mania after morning light therapy: A historical review”. Psychiatry Res: 351–356. doi:10.1016/j.psychres.2018.01.013. PMID 29348073. 
  13. ^ 医学博士小池茂文, 2008 & p69.
  14. ^ 医学博士小池茂文, 2008 & p72.

参考文献

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関連項目

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