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「並行複発酵」の版間の差分

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'''並行複発酵'''(へいこうふくはっこう)は、東アジアの[[醸造酒]][[蒸留酒]]の製造過程で起こる[[発酵]]の一種であり、[[麹]]の[[酵素]]によって[[デンプン]]が[[ブドウ糖]]に変化する[[糖化]]と、ブドウ糖が[[酵母]]の働きによって[[アルコール]]に変化する発酵とが、同一容器中で同時に行われることをいう。'''並行複醱酵'''または'''並行醗酵'''とも書かれる。
'''並行複発酵'''(へいこうふくはっこう)は、[[デンプン]]を原材料として最終的に[[エタノール]]を得[[醸造]]のプロセスとしての[[発酵]]において、[[麹]]の[[酵素]]によってデンプンが[[ブドウ糖]]に変化する[[糖化]]と、ブドウ糖が出芽[[酵母]]の働きによってエタノールに変化する発酵とが、同一容器の液中で'''並行'''して'''複'''数同時に行わる形態の発酵である。


== 概要 ==
== 概要 ==
並行複発酵によってだけ、度数が20度に近い高濃度アルコールが生成できる。これは、糖化の結果できたブドウ糖を、アルコール発酵によってただちに消費するからである。もし、洋酒のように、まず糖化をしてから次にアルコール発酵を行う'''単行複発酵'''をすると、20度のアルコールを造るためには高濃度のブドウ糖液にならざるをえず薄い[[水飴]]のようになって、酵母が活動できなくなってしまう。
並行複発酵によってだけ、度数が20度に近い[[酒]]を、蒸留に依らず[[醸造]]みにより生成できる。これは、まず糖化をしてから次にアルコール発酵を行う'''単行複発酵'''では途中の状態として20度のアルコールを造るためには高濃度のブドウ糖液に必然的になってしまうがそのように[[水飴]]のようになってしまうと、酵母が活動できなくなってしまうためである。並行複発酵ならば、糖化の結果できたブドウ糖はアルコール発酵によってただちに消費されるため、そのような問題を起こさずに、度数が20度に近い酒を醸造のみにより生成できる


なお、([[段仕込み|三段仕込み]]などで)もろみに原材料の蒸米と水を追加するときは、同時に麹を追加する必要がある。麹菌([[コウジカビ]])は好気性菌なので、[[日本酒]]の[[もろみ]]の容器中では繁殖できないからである。糖化には、麹菌が作った酵素が使われることになる。いっぽう、酵母はもろみ中で繁殖できるので、追加する必要はない。
なお、([[段仕込み|三段仕込み]]などで)[[もろみ]]に原材料の蒸米と水を追加するときは、同時に麹を追加する必要がある。麹菌([[コウジカビ]])は好気性菌なので、[[日本酒]]のもろみの容器中では繁殖できないからである。糖化には、麹菌が作った酵素が使われることになる。いっぽう、出芽酵母はもろみ中で繁殖できるので、追加する必要はない。


原因・理由は判然としないが、酒造りの伝統的な技法としては、大規模には東アジアに主に集中して見られるものである。これにより日本酒などのように、いわゆる「洋酒」においては蒸留を必要とするようなアルコール度数の酒が、東アジアでは醸造酒として存在している。
並行複発酵は、東アジア特有の技法である。並行複発酵によって[[醸造]]される[[アルコール飲料]]の例を示す。

並行複発酵によって醸造される[[アルコール飲料]]の例を示す(さらに蒸留するものも含む。また日本酒など、加水により高すぎる濃度を調整する場合もある)。
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|米||''Saccheomycopusis''属||酵母
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== その他の発酵 ==
== その他の発酵 ==
[[ビール]]や[[ウィスキー]]([[蒸留]]する前の醸造酒)の製造過程においては、糖化とアルコール発酵の両方が同時ではなく別々に行なわれるので、[[醸造酒#複発酵酒|単行複発酵]](たんこうふくはっこう)という。
[[ビール]]や[[ウィスキー]]([[蒸留]]する前の醸造酒)の製造過程においては、糖化とアルコール発酵の両方が同時ではなく別々に行なわれるので、[[醸造酒#複発酵酒|単行複発酵]](たんこうふくはっこう)という。ただし、ウイスキー製造では、ビールと違い糖化後に麦汁を煮沸せず、酵素の活性は失われない為、並行複発酵とも言える。また、ワインのように初めから原料中にブドウ糖が含まれている場合は、糖化を行う必要はなくアルコール発酵だけでよいので、[[醸造酒#単発酵酒|単発酵]](たんはっこう)という。

ただし、ウイスキー製造では、ビールと違い糖化後に麦汁を煮沸せず、酵素の活性は失われない為、並行複発酵とも言える。

また、ワインのように初めから原料中にブドウ糖が含まれている場合は、糖化を行う必要はなくアルコール発酵だけでよいので、[[醸造酒#単発酵酒|単発酵]](たんはっこう)という。


== 関連項目 ==
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== 脚注 ==
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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==

2020年10月2日 (金) 16:11時点における最新版

並行複発酵(へいこうふくはっこう)は、デンプンを原材料として最終的にエタノールを得る醸造のプロセスとしての発酵において、酵素によってデンプンがブドウ糖に変化する糖化と、ブドウ糖が出芽酵母の働きによってエタノールに変化する発酵とが、同一容器の液中で並行して数同時に行われる形態の発酵である。

概要

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並行複発酵によってだけ、度数が20度に近いを、蒸留に依らず醸造のみにより生成できる。これは、まず糖化をしてから次にアルコール発酵を行う単行複発酵では、途中の状態として20度のアルコールを造るためには高濃度のブドウ糖液に必然的になってしまうが、そのように水飴のようになってしまうと、酵母が活動できなくなってしまうためである。並行複発酵ならば、糖化の結果できたブドウ糖はアルコール発酵によってただちに消費されるため、そのような問題を起こさずに、度数が20度に近い酒を醸造のみにより生成できる。

なお、(三段仕込みなどで)もろみに原材料の蒸米と水を追加するときは、同時に麹を追加する必要がある。麹菌(コウジカビ)は好気性菌なので、日本酒のもろみの容器中では繁殖できないからである。糖化には、麹菌が作った酵素が使われることになる。いっぽう、出芽酵母はもろみ中で繁殖できるので、追加する必要はない。

原因・理由は判然としないが、酒造りの伝統的な技法としては、大規模には東アジアに主に集中して見られるものである。これにより日本酒などのように、いわゆる「洋酒」においては蒸留を必要とするようなアルコール度数の酒が、東アジアでは醸造酒として存在している。

並行複発酵によって醸造されるアルコール飲料の例を示す(さらに蒸留するものも含む。また日本酒など、加水により高すぎる濃度を調整する場合もある)。

地域 生産物 主原料 主糖化作用 主アルコール発酵作用
中国 黄酒紹興酒[1] コウジカビ Aspergillus oryzae[要出典]
クモノスカビ Rhizopus
酵母 Saccharomyces cerevisiae
韓国 マッコリ[2] 小麦 コウジカビ 酵母
日本 日本酒 コウジカビ Aspergillus oryzae [3] 酵母
日本 焼酎泡盛 麦、米、甘藷 コウジカビ 酵母
フィリピン ブボッド[4] Saccheomycopusis 酵母

その他の発酵

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ビールウィスキー蒸留する前の醸造酒)の製造過程においては、糖化とアルコール発酵の両方が同時ではなく別々に行なわれるので、単行複発酵(たんこうふくはっこう)という。ただし、ウイスキー製造では、ビールと違い糖化後に麦汁を煮沸せず、酵素の活性は失われない為、並行複発酵とも言える。また、ワインのように初めから原料中にブドウ糖が含まれている場合は、糖化を行う必要はなくアルコール発酵だけでよいので、単発酵(たんはっこう)という。

関連項目

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脚注

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  1. ^ 鈴木昌治, 小川明宏, 高橋力也 ほか、「紹興酒もろみ及び麦麹から分離した発酵性酵母の分類 紹興酒に関する研究 (第1報)」『日本釀造協會雜誌』 1984年 79巻 8号 p.575-580, doi:10.6013/jbrewsocjapan1915.79.575, 日本醸造協会
  2. ^ 鄭大聲、「伝統酒マッコルリのつくり方とその文化」『日本醸造協会誌』 2002年 97巻 4号 p.265-274, doi:10.6013/jbrewsocjapan1988.97.265, 日本醸造協会
  3. ^ 村上英也, 「アスペルギルス・オリゼーの発見 : コウジカビの独立性」『日本釀造協會雜誌』 1971年 66巻 2号 p.117-121, doi:10.6013/jbrewsocjapan1915.66.117, 日本醸造協会
  4. ^ 小崎道雄, 内村泰、「フィリピン産餅麹ブボッドおよび米酒の微生物相 アジアにおける穀類麹とその微生物に関する研究 (第1報)」『日本醸造協会誌』 1990年 85巻 11号 p.818-824, doi:10.6013/jbrewsocjapan1988.85.818, 日本醸造協会

外部リンク

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