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「エクトドメイン・シェディング」の版間の差分

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シェディングの説明
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'''エクトドメイン・シェディング'''(ectodomain shedding、以下シェディング)とは、膜貫通型のタンパク質を細胞膜近傍で切断し、細胞外領域を可溶化して放出する翻訳後修飾機構である。
'''エクトドメイン・シェディング'''({{lang-en|ectodomain shedding}}、以下シェディング)とは、膜貫通型の[[タンパク質]][[細胞膜]]近傍で切断し、細胞外領域を可溶化して放出する[[翻訳後修飾]]機構である。

== 歴史 ==
炎症性[[サイトカイン]]として知られるTNF-α([[腫瘍壊死因子]]の一つ)は、当初、分泌タンパク質であると考えられていたが、1988年にⅡ型膜タンパク質として産生されることが明らかになった。その後、[[金属プロテアーゼ|メタロプロテアーゼ]]依存的に切断され放出されることが報告され、1997年にTNF-α切断酵素としてTACE(ADAM metallopeptidase domain、ADAM17)が同定された。その後、様々な基質が同様の制御を受けることが明らかとなった。


== 機能 ==
== 機能 ==
これまでに様々な機能を持つ膜タンパク質のシェディングが報告されている。膜タンパク質として発現するサイトカインや増殖因子がシェディングされると、可溶性リガンドとして機能する。また細胞膜に局在する受容体がシェディングされると、リガンド感受性が低下する。このようにシェディングは、切断される膜タンパク質だけではなく、それを発現する細胞の機能も化させる影響力の強い分子機構である。
これまでに様々な機能を持つ膜タンパク質のシェディングが報告されており、膜タンパク質の約1割前後がシェディングの制御を受けている可能性がある。膜タンパク質として発現するサイトカインや増殖因子がシェディングされると、可溶性[[リガンド]]として機能する。また細胞膜に局在する受容体がシェディングされると、リガンド感受性が低下する。このようにシェディングは、切断される膜タンパク質だけではなく、それを発現する細胞の状態をうる。


== sheddase ==
== sheddase ==
ADAMスパーファミリー属するADAM10やADAM17が主要な切断酵素として報告されている。
ADAMスパーファミリー属する[[ADAM10]]やADAM17が主要な切断酵素として報告されている。

== 課題 ==
シェディングは特定の膜タンパク質のみに起こるが、それらの膜タンパク質には共通する[[アミノ酸]]配列が存在せず、シェディング感受性を規定する分子機構は明らかにされていない。そのため、アミノ酸配列からシェディングされる膜タンパク質を予想し、シェディングの機能的意義を解明することも困難となっている。[[悪性腫瘍]]や炎症性疾患の発症に関わる複数の膜タンパク質のシェディングが報告されているが、シェディング酵素の阻害剤は、重篤な副作用から臨床応用が断念された経緯があり、シェディングそのものをターゲットにした治療法は未だ確立されておらず、シェディングの制御機構を解明することで、これまでにない診断や治療方法の確立につながる可能性がある。

== 参考文献 ==
* {{Cite journal2 |df=ja |author=Black RA1, Rauch CT, Kozlosky CJ, Peschon JJ, Slack JL, Wolfson MF, Castner BJ, Stocking KL, Reddy P, Srinivasan S, Nelson N, Boiani N, Schooley KA, Gerhart M, Davis R, Fitzner JN, Johnson RS, Paxton RJ, March CJ, Cerretti DP |title=A metalloproteinase disintegrin that releases tumour-necrosis factor-alpha from cells |date=20 February 1997 |journal=Nature |volume=385 |issue=6618 |pages=729-733 |doi=10.1038/385729a0 |pmid=9034190}}
* {{Cite journal2 |df=ja |author=Moss ML, Jin SL, Milla ME, Bickett DM, Burkhart W, Carter HL, Chen WJ, Clay WC, Didsbury JR, Hassler D, Hoffman CR, Kost TA, Lambert MH, Leesnitzer MA, McCauley P, McGeehan G, Mitchell J, Moyer M, Pahel G, Rocque W, Overton LK, Schoenen F, Seaton T, Su JL, Warner J, Willard D, Becherer JD |date=20 February 1997 |title=Cloning of a disintegrin metalloproteinase that processes precursor tumour-necrosis factor-alpha |journal=Nature |volume=385 |issue=6618 |pages=733-736 |doi=10.1038/385733a0 |pmid=9034191}}
* {{Cite journal2 |df=ja |author=Fong KP, Barry C, Tran AN, Traxler EA, Wannemacher KM, Tang HY, Speicher KD, Blair IA, Speicher DW, Grosser T, Brass LF |title=Deciphering the human platelet sheddome |date=6 January 2011 |journal=Blood |volume=117 |issue=1 |pages=e15-26 |doi=10.1182/blood-2010-05-283838 |pmid=20962327}}
* {{Cite journal2 |df=ja |author=Shirakabe K, Omura T, Shibagaki Y, Mihara E, Homma K, Kato Y, Yoshimura A, Murakami Y, Takagi J, Hattori S, Ogawa Y |title=Mechanistic insights into ectodomain shedding: susceptibility of CADM1 adhesion molecule is determined by alternative splicing and O-glycosylation |date=10 April 2017 |journal=Sci Rep |volume=7 |issue=46174 |doi=10.1038/srep46174 |pmid=28393893}}

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[[Category:翻訳後修飾]]
[[Category:脈管学]]

[[en:Proteases in angiogenesis#Ectodomain shedding]]

2023年11月16日 (木) 03:54時点における最新版

エクトドメイン・シェディング英語: ectodomain shedding、以下シェディング)とは、膜貫通型のタンパク質細胞膜近傍で切断し、細胞外領域を可溶化して放出する翻訳後修飾機構である。

歴史

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炎症性サイトカインとして知られるTNF-α(腫瘍壊死因子の一つ)は、当初、分泌タンパク質であると考えられていたが、1988年にⅡ型膜タンパク質として産生されることが明らかになった。その後、メタロプロテアーゼ依存的に切断され放出されることが報告され、1997年にTNF-α切断酵素としてTACE(ADAM metallopeptidase domain、ADAM17)が同定された。その後、様々な基質が同様の制御を受けることが明らかとなった。

機能

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これまでに様々な機能を持つ膜タンパク質のシェディングが報告されており、膜タンパク質の約1割前後がシェディングの制御を受けている可能性がある。膜タンパク質として発現するサイトカインや増殖因子がシェディングされると、可溶性リガンドとして機能する。また細胞膜に局在する受容体がシェディングされると、リガンド感受性が低下する。このようにシェディングは、切断される膜タンパク質だけではなく、それを発現する細胞の状態を変えうる。

sheddase

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ADAMスパーファミリーに属するADAM10やADAM17が主要な切断酵素として報告されている。

課題

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シェディングは特定の膜タンパク質のみに起こるが、それらの膜タンパク質には共通するアミノ酸配列が存在せず、シェディング感受性を規定する分子機構は明らかにされていない。そのため、アミノ酸配列からシェディングされる膜タンパク質を予想し、シェディングの機能的意義を解明することも困難となっている。悪性腫瘍や炎症性疾患の発症に関わる複数の膜タンパク質のシェディングが報告されているが、シェディング酵素の阻害剤は、重篤な副作用から臨床応用が断念された経緯があり、シェディングそのものをターゲットにした治療法は未だ確立されておらず、シェディングの制御機構を解明することで、これまでにない診断や治療方法の確立につながる可能性がある。

参考文献

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  • Black RA1, Rauch CT, Kozlosky CJ, Peschon JJ, Slack JL, Wolfson MF, Castner BJ, Stocking KL, Reddy P, Srinivasan S, Nelson N, Boiani N, Schooley KA, Gerhart M, Davis R, Fitzner JN, Johnson RS, Paxton RJ, March CJ, Cerretti DP (1997年2月20日). "A metalloproteinase disintegrin that releases tumour-necrosis factor-alpha from cells". Nature. 385 (6618): 729–733. doi:10.1038/385729a0. PMID 9034190
  • Moss ML, Jin SL, Milla ME, Bickett DM, Burkhart W, Carter HL, Chen WJ, Clay WC, Didsbury JR, Hassler D, Hoffman CR, Kost TA, Lambert MH, Leesnitzer MA, McCauley P, McGeehan G, Mitchell J, Moyer M, Pahel G, Rocque W, Overton LK, Schoenen F, Seaton T, Su JL, Warner J, Willard D, Becherer JD (1997年2月20日). "Cloning of a disintegrin metalloproteinase that processes precursor tumour-necrosis factor-alpha". Nature. 385 (6618): 733–736. doi:10.1038/385733a0. PMID 9034191
  • Fong KP, Barry C, Tran AN, Traxler EA, Wannemacher KM, Tang HY, Speicher KD, Blair IA, Speicher DW, Grosser T, Brass LF (2011年1月6日). "Deciphering the human platelet sheddome". Blood. 117 (1): e15-26. doi:10.1182/blood-2010-05-283838. PMID 20962327
  • Shirakabe K, Omura T, Shibagaki Y, Mihara E, Homma K, Kato Y, Yoshimura A, Murakami Y, Takagi J, Hattori S, Ogawa Y (2017年4月10日). "Mechanistic insights into ectodomain shedding: susceptibility of CADM1 adhesion molecule is determined by alternative splicing and O-glycosylation". Sci Rep. 7 (46174). doi:10.1038/srep46174. PMID 28393893