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「経皮的冠動脈形成術」の版間の差分

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{{出典の明記|date=2013年10月}}
'''経皮的冠動脈形成術'''(けいひてきかんどうみゃくけいせいじゅつ、[[英語|英]]PTCA:percutaneous transluminal coronary angioplasty、PCI:Percutaneous Coronary Intervention)とは、アテローム等により狭窄した[[心臓]]の冠状動脈を拡張し、血流の増加をはかる治療法で[[虚血性心疾患]]に対して行われる。
'''経皮的冠動脈形成術'''(けいひてきかんどうみゃくけいせいじゅつ、{{lang-en-short|percutaneous transluminal coronary angioplasty; '''PTCA'''}}、percutaneous coronary intervention; '''PCI''')とは、[[狭心症]]や[[急性心筋梗塞]]などの[[虚血性心疾患]]に対して、[[血管]]の内側から狭窄した[[冠動脈]]を拡張する[[カテーテル]]を使った低侵襲的な治療法の総称<ref>{{Cite web|和書|title= 経皮的冠動脈形成術(PTCA) |url= https://www.bostonscientific.com/jp-JP/health-conditions/cad/cad-03.html|website=www.bostonscientific.com|accessdate=2019-10-29}}</ref>。'''経皮的冠動脈インターベンション'''とも呼ばれる<ref name="Tokyo2022">{{Cite web |和書 |url=https://www.tokyo-np.co.jp/article/216733 |title=虚血性心疾患 胸の痛み 息苦しさ 見逃さないで 狭心症、心筋梗塞 冠動脈詰まり命の危険も |access-date=2024-02-10 |website=[[東京新聞]] |date=2022-11-29}}</ref>。


一般的に足の付け根または手首からカテーテルの細い管を血管内に挿入して治療が行われることから、[[開胸術|開胸手術]]よりも痛みやダメージが少なく、入院日数が短縮され、経済的負担も軽く、早期の社会復帰が可能になることから、[[冠動脈]]疾患治療の主流となっている<ref>{{Cite web|和書|title=44 カテーテル治療の実際 {{!}} 心臓 {{!}} 循環器病あれこれ {{!}} 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス|url=http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph44.html|website=www.ncvc.go.jp|accessdate=2019-10-29}}</ref>。また、2020年代にはPCI専用の[[手術支援ロボット]]の導入が進んでいる<ref name="Tokyo2022" />。
一般には、英名の略である'''PTCA'''、'''PCI'''として知られている。

この治療法によって[[虚血性心疾患]]における[[内科学]]領域の[[循環器学]]と[[外科学]]領域の[[心臓血管外科学]]は限りなく近くなり、病院によっては「循環器センター」等に大きく統合されていくきっかけともなった。
{{medical}}


== 適応 ==
== 適応 ==
* [[狭心症]]
* [[狭心症]]
* [[心筋梗塞]]
* 急性[[心筋梗塞]]
* 不安定狭心症
* 無症候性心筋虚血
* [[冠動脈瘤]]
* [[冠動脈瘤]]
* [[川崎病]]
* [[川崎病]]
など。上記疾患のすべての患者にこの治療ができるわけではない。


など。上記疾患のすべての患者にこの治療が適応できるわけではない。
== 術式 ==
具体的な方法としては、狭窄した病変部にガイドワイヤーと呼ばれる細い針金を通過させ、そのワイヤーに沿ってバルーンカテーテル(風船)を病変部まで届けて、風船を膨らませて病変を拡げる治療がもっとも古くシンプルな治療で、POBA (plain old balloon angioplasty) と呼ぶ。拡張した部分に[[ステント]]と呼ばれる金属の内張りを留置することが多い。


== 基本的な治療 ==
また病変部石灰化強く、風船での拡張には固すぎ場合、[[ロータブレーター]]と呼ばれるダイヤモンドチップをまぶしたドリル状の先端チップを速回転させ石灰化を削り取る治療法もある。特に[[アテレクトミー]]術と呼ばれるこの治療法は、[[小倉記念病院]]院長・[[延吉正清]]が先駆者として日本中に広め、現在は[[千葉西総合病院]]院長・心臓病センター長の[[三角和雄]]と共に指導医として知られている。
=== バルーン ===
大腿動脈または橈骨動脈、上腕動脈から、狭窄した病変部にガイドワイヤーと呼ばれる細い針金を通過させ、そのワイヤーに沿ってPTCAバルーンカテーテル(風船)を病変部まで進める。血管の狭くなっている病変部でバルーンを膨らませて内側から血管を押し広げる。狭くなっている部分が拡張されることにより、再び血液の通路が構築され、血流が回復する。この治療法は、POBA (percutaneous old balloon angioplasty) と呼ぶ。この治療法は1977年に初めて行われたが、治療後の急性冠閉塞と、再狭窄率が高いことが問題となっていたが、2014年より薬剤を塗布したバルーン(DCB)が使用可能となった。


=== 金属ステント(BMS) ===
このように、[[カテーテル]]を用いて冠動脈疾患の治療を行うことを総称して、経皮的冠動脈インターベンション (Percutaneous Coronary Intervention) と呼ぶ。
POBAの際の問題を解決するため、網目状の筒になった[[ステント|金属ステント]](bare metal stent=BMS)が1990年代に開発され、上記の急性冠閉塞はほぼ解決されたが、再狭窄率が問題となっていた。<ref name=":0">{{Cite web|title=一般社団法人 日本血栓止血学会 » 用語集(詳細説明)|url=https://www.jsth.org/glossary_detail/?id=324|website=www.jsth.org|accessdate=2019-10-29}}</ref>


=== 薬剤溶出ステント(DES) ===
== 欠点 ==
2000年代に薬剤溶出[[ステント]](drug eluting stent=DES)が登場し、再狭窄が減少した。しかし、DESの[[重合体|ポリマー]]が血管内に残存することで炎症を起こし、ステント内血栓症を起こすリスクが問題視されるようになった。<ref name=":0" />
治療した病変部が再び狭窄してしまうことが難点で、再狭窄率は30%ともいわれたが、上述のステント留置法 (STENT) 、さらには薬剤溶出性ステント (drug-eluting stent, DES) の実用化により再狭窄を格段に減少させることができるようになった。


=== ロータブレーター ===
適応できる病変部位に制限があったが、技術の進歩により適応は広がりつつある。
先端にダイヤモンド粒子塗布されている高速回転ドリル冠動脈狭窄病変を削りと<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.chibanishi-hp.or.jp/pages/link/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%96%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC|title=ロータブレーター - 千葉西総合病院|accessdate=2019年10月29日|publisher=}}</ref>。主に石灰化病変に対して用いられる。特に[[アテレクトミー]]術と呼ばれるこの治療法は、[[小倉記念病院]]院長・[[延吉正清]]が先駆者として日本中に広め、現在は[[千葉西総合病院]]院長・心臓病センター長の[[三角和雄]]と共に指導医として知られている。


=== DCA(方向性冠動脈粥腫切除術) ===
薬剤溶出性ステント (drug-eluting stent, DES)の登場により再狭窄率は減少したものの、病変部位の形態によっては依然治療困難な症例もあり、このような症例に対するカテーテル治療の成功率、長期成績は術者に依存する割合が大きい。
カテーテルの先端にカッターがついており、血管内の[[アテローム|粥腫]](プラーク)を直接削り取る。分岐部などの治療や硬い[[動脈硬化症|動脈硬化]]巣の治療において使用される<ref>{{Cite web|和書|title=方向性冠動脈粥腫切除術(DCA) {{!}} 心臓病用語集 {{!}} 心臓病の知識 {{!}} 公益財団法人 日本心臓財団|url=https://www.jhf.or.jp/check/term/word_h/dca/|website=www.jhf.or.jp|accessdate=2019-10-29}}</ref>。


=== 生体吸収型スキャフォールド(BRS) ===
また、アテレクトミー術に関しては、高速回転するドリルで血管の内部を削る為、冠穿孔などのリスクも高い。無論、術者の技術力に依るところが大きく、前述の[[延吉正清]]など、豊富な経験と知識を備える術者ほどリスクが低くなる。
ステントやポリマーが体内に残らない、生体吸収性スキャフォールド(Bioresorbable scaffold)が一部臨床使用されている<ref>{{Cite web|和書|title=シンポジウム〈日本語〉「生体吸収型ステントの現状と可能性」|url=http://www2.convention.co.jp/jcs2016/prog/chair/symposium001.html|website=www2.convention.co.jp|accessdate=2019-10-29}}</ref>。これは、血管内にステントやポリマーなどの異物が存在することで[[血栓]]形成が起こったり炎症を惹起することから、体内に異物を残さない新たな治療法として注目を浴びている。しかし、実際には遠隔期の[[血栓症]]の頻度が高いことが示され、海外でも使用に制限がかかっており、慎重に使用されている。<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=7760|title=生体吸収型スキャフォールド(BRS)の特徴と今後の見通し【遠隔期における新規動脈硬化がなくなり,安定することが期待されるデバイス】|accessdate=2019年10月29日|publisher=}}</ref>
またロシアの医療機関・メディチーナなど、技術不足によりアテレクトミー術を行わない医療施設も現に存在する。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
*[[冠動脈大動脈バイパス移植術]]
*[[冠動脈バイパス術]]
*[[血管内治療]]
*[[血管内治療]]
*[[延吉正清]]-アテレクトミー術を元とする経皮的冠動脈形成術の日本での先駆者・指導医
*[[延吉正清]]-アテレクトミー術を元とする経皮的冠動脈形成術の日本での先駆者・指導医
*[[社会保険小倉記念病院]]-カテーテル術指導医・延吉正清が院長を務める北九州市小倉北区の総合病院
*[[光藤和明]]
*[[光藤和明]]
*[[三角和雄]]-ロータブレーター指導医(「Rotablator Illustrated」著者)
*[[三角和雄]]-ロータブレーター指導医(「Rotablator Illustrated」著者)
*[[千葉西総合病院]]-三角和雄が院長を務める千葉県松戸市の総合病院
*[[千葉西総合病院]]-三角和雄が院長を務める千葉県松戸市の総合病院
*[[ワシントン・ステカネロ・セルケイラ]]-元プロサッカー選手。虚血性心疾患と診断されたが経皮的冠動脈形成術により現役に復帰。復帰後、[[浦和レッドダイヤモンズ|浦和レッズ]]、[[フルミネンセFC]]などで活躍した。

[[Category:診断と治療|けいひてきかんとうみやくけいせいしゆつ]]
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[[fr:Angioplastie coronaire]]
[[it:Angioplastica coronarica]]
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[[pt:Angioplastia coronária]]
[[sr:Перкутана коронарна интервенција]]
[[sv:Ballongvidgning]]
[[zh:冠狀動脈再成形術]]

2024年2月14日 (水) 08:47時点における最新版

経皮的冠動脈形成術(けいひてきかんどうみゃくけいせいじゅつ、: percutaneous transluminal coronary angioplasty; PTCA、percutaneous coronary intervention; PCI)とは、狭心症急性心筋梗塞などの虚血性心疾患に対して、血管の内側から狭窄した冠動脈を拡張するカテーテルを使った低侵襲的な治療法の総称[1]経皮的冠動脈インターベンションとも呼ばれる[2]

一般的に足の付け根または手首からカテーテルの細い管を血管内に挿入して治療が行われることから、開胸手術よりも痛みやダメージが少なく、入院日数が短縮され、経済的負担も軽く、早期の社会復帰が可能になることから、冠動脈疾患治療の主流となっている[3]。また、2020年代にはPCI専用の手術支援ロボットの導入が進んでいる[2]

適応

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など。上記疾患のすべての患者にこの治療が適応できるわけではない。

基本的な治療

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バルーン

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大腿動脈または橈骨動脈、上腕動脈から、狭窄した病変部にガイドワイヤーと呼ばれる細い針金を通過させ、そのワイヤーに沿ってPTCAバルーンカテーテル(風船)を病変部まで進める。血管の狭くなっている病変部でバルーンを膨らませて内側から血管を押し広げる。狭くなっている部分が拡張されることにより、再び血液の通路が構築され、血流が回復する。この治療法は、POBA (percutaneous old balloon angioplasty) と呼ぶ。この治療法は1977年に初めて行われたが、治療後の急性冠閉塞と、再狭窄率が高いことが問題となっていたが、2014年より薬剤を塗布したバルーン(DCB)が使用可能となった。

金属ステント(BMS)

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POBAの際の問題を解決するため、網目状の筒になった金属ステント(bare metal stent=BMS)が1990年代に開発され、上記の急性冠閉塞はほぼ解決されたが、再狭窄率が問題となっていた。[4]

薬剤溶出ステント(DES)

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2000年代に薬剤溶出ステント(drug eluting stent=DES)が登場し、再狭窄が減少した。しかし、DESのポリマーが血管内に残存することで炎症を起こし、ステント内血栓症を起こすリスクが問題視されるようになった。[4]

ロータブレーター

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先端にダイヤモンドの粒子が塗布されている高速回転ドリルで冠動脈の狭窄病変を削りとる[5]。主に高度石灰化病変に対して用いられる。特にアテレクトミー術と呼ばれるこの治療法は、元小倉記念病院院長・延吉正清が先駆者として日本中に広め、現在は千葉西総合病院院長・心臓病センター長の三角和雄と共に指導医として知られている。

DCA(方向性冠動脈粥腫切除術)

[編集]

カテーテルの先端にカッターがついており、血管内の粥腫(プラーク)を直接削り取る。分岐部などの治療や硬い動脈硬化巣の治療において使用される[6]

生体吸収型スキャフォールド(BRS)

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ステントやポリマーが体内に残らない、生体吸収性スキャフォールド(Bioresorbable scaffold)が一部臨床使用されている[7]。これは、血管内にステントやポリマーなどの異物が存在することで血栓形成が起こったり炎症を惹起することから、体内に異物を残さない新たな治療法として注目を浴びている。しかし、実際には遠隔期の血栓症の頻度が高いことが示され、海外でも使用に制限がかかっており、慎重に使用されている。[8]

脚注

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関連項目

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