失われた30年

失われた30年（うしなわれた30ねん）とは、ある国、あるいは地域における約30年間の経済低迷の通称を指す語である。ここでは日本経済の「失われた30年」について扱う。

「失われた10年」および「失われた20年」も参照

概要

日本においてバブル経済崩壊後の1990年代初頭からの「失われた20年」を経て、高度経済成長期（好景気時の経済成長率が約10%以上）や安定成長期（好景気時の経済成長率が約5%以上）の頃のような経済成長率・景気拡大が起こらない場合、「失われた30年」になってしまう可能性もあるという声もあり、2016年の時点で既にそうなってしまったと述べている者もいる。 この30年間の長期経済低迷は19世紀の英国であった23年間の長期経済低迷を大きく超えており、世界最長レベルの長期経済低迷である。

ムーディーズのエコノミスト、ファラツ・サイードはリポートで、日本の経済低迷（いわゆる官製不況）が続き、アベノミクスが日本の成長エンジンに再点火することをせず、インフレ目標も達成する意志が無いため、賃金上昇は小幅にとどまり、日本は次の失われた10年（いわゆる失われた40年）に向かうと指摘した。

この30年間は、そのまま平成年間でもある。

「平成不況」も参照

長期予測

日本経済団体連合会のシンクタンク「21世紀政策研究所」は、2012年4月に“「失われた20年」の状況がこのまま続いた場合、日本は2050年代頃に、先進国でなくなる”とする予測結果をまとめた。本シミュレーションによると、労働力人口や資本ストックが減少することで、最も楽観的なシナリオでも、2030年代頃から日本経済が恒常的にマイナス成長になる可能性があるという。

年表

1980年代

• 1989年（平成元年）
  • 4月1日 - 消費税法施行、消費税導入（3%）
  • 合計特殊出生率1.57ショックが起きる。
  • 12月29日 - 大納会で日経平均株価が史上最高値の3万8957円44銭を記録（平成バブル景気が過熱）。

1990年代

• 1990年
  • 1月4日 - 大発会で日経平均の下げ幅が200円を超える。前年12月29日の大納会では終値が3万8915円87銭を付けていた。
  • 3月27日 - 大蔵省が不動産融資総量規制を実施。
  • 10月1日 - 日経平均株価が一時2万円を下回った。バブル経済がハードランディングへと向かっていった（失われた30年の始まりで平成バブル崩壊参照）。
• 1995年
  • 1月17日 - 阪神・淡路大震災が発生した。
  • 8月 - 兵庫銀行が経営破綻した（戦後初の銀行破綻）。以降、日本の金融機関が続々と経営破綻していった（金融システム危機参照）。
  • 生産年齢人口（15-64歳の人口）が最高値（8,717万人）に達した。その後、減少に転じた。
  • この年以降から合計特殊出生率が1.5を下回った。
  • Windows95発表。日本メーカーはこの頃サムスン電子にDRAMの製造委託と技術提供を行い、後の凋落の原因を自ら作る。
• 1996年
  • 日米貿易摩擦の影響で結ばれた日米半導体協定が解消されたが、既に業界弱体化に歯止めがかからず。
• 1997年
  • 4月1日 - 消費税率が3%から5%に引き上げられた。
  • 4月 - 日産生命保険破綻。金融機関破綻がさらに加速。
  • 7月 - アジア通貨危機（金融危機）が起きた。
  • 11月 - 山一證券、北海道拓殖銀行破綻。
• 1998年
  • 日本長期信用銀行破綻。
  • 労働力人口が最高値（6,793万人)に達した。その後、減少に転じた。

2000年代

• 2000年
  • 2000年度の大卒求人倍率が0.99（求職者1人に対し求人が1件あるかどうか）にまで低下した（就職氷河期参照)。
  • ITバブルが崩壊した。
  • 三菱リコール隠し発覚。
• 2001年
  • 第1次小泉内閣が経済政策のスローガンとして“聖域なき構造改革”を掲げた。「官から民へ」「中央から地方へ」を改革の柱とした。
  • 相次いだ不祥事により雪印乳業の再編・吸収合併が始まる。
• 2002年
  • 2月 - いざなみ景気（景気基準日付の第14循環）と呼ばれる長期的で、ゆるやかな景気回復期に入った（2008年2月まで）。
• 2003年
  • 自殺者数が戦後最悪の水準に達する。
• 2005年
  • 合計特殊出生率が過去最も低い1.26にまで低下した。
• 2006年
  • 1月17日 - ライブドア・ショック。
  • 村上ファンド事件。
• 2007年
  • サブプライム住宅ローン危機が顕在化した（世界金融危機 の始まり）。
• 2008年
  • 9月15日 - 米国の大手投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻した（リーマン・ショック）。
  • 10月28日 - 日経平均株価が一時6,994.90円にまで下落（バブル崩壊後の最安値）。

2010年代

• 2010年
  • 1月 - 日本航空が会社更生法を申請した。
  • 日本の名目国内総生産が世界第2位から3位に下落した。
• 2011年
  • 3月11日 - 東日本大震災・福島第一原子力発電所事故が発生した。
  • 日本の総人口が継続的に減少し始めた。日本が人口減少社会に突入し始めた。
• 2012年
  • 2月 - 半導体大手エルピーダメモリが会社更生法を申請した。
• 2013年
  • 第2次安倍内閣が大胆な金融緩和を実施した（アベノミクス参照）。
• 2014年
  • 4月1日 - 消費税率が5%から8%に引き上げられた（三党合意参照）。
• 2015年
  • 7月20日 - 東芝不正会計発覚。
  • 前回（2010年）の国勢調査と比べて、日本の総人口が96万2607人（0.8%）減少、日本人の人口が107万4953人（0.9%）減少した（人口の推移参照）。
• 2016年
  • シャープが鴻海精密工業により買収される。
• 2017年
  • 6月 - エアバッグ大手タカタが民事再生法を申請した。
• 2019年（令和元年）
  • 10月1日 - 消費税率が8%から10%に引き上げられた。ただし、軽減税率8%が一部品目（飲食料品など）に適用された（軽減税率参照）。
  • 11月 - 新型コロナウイルス感染症の世界的流行が始まる。翌年以降、日本にも感染が拡大する（日本における2019年コロナウイルス感染症による社会・経済的影響参照）。

2020年代

• 2020年
  • コロナショック （コロナ禍）で中小事業者の倒産が相次ぐ。大手ではレナウンが経営破綻。
  • 3月24日 - COVID-19の影響により2020年東京オリンピック・パラリンピック延期決定。
• 2021年
  • 7月23日 - 新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響で1年延期になった2020年東京オリンピックが無観客で開催され、観光客による経済効果が消失する。
  • 8月24日 - 2020年東京パラリンピックが開催される。
  • 12月15日 - 国内総生産 (GDP) の基準となる基幹統計（基幹統計調査）の基礎データが、遅くとも、アベノミクスが始められた2013年度から改竄（数値を二重計上した事実上の粉飾行為）されていたことが判明。過大になった額は7年間で34兆5千億円分。
• 2022年
  • 2月24日 - ロシアがウクライナに侵攻（ロシアは「特別軍事作戦」と称し、宣戦布告はされていない）。日本も欧米に追従してロシアに対する経済制裁に参加。ロシアからの禁輸措置や世界的な原油高、穀物価格の上昇などの影響を受け、物価の上昇を招くこととなった。

データ

「失われた30年」の主な日本のデータをまとめる。

• 経済
  • 1人当たりの名目GDP（USドルベース）の世界順位が大幅に下落した。
  • 1時間当たりの労働生産性（購買力平価換算USドルベース）が主要国首脳会議議員国の中で最下位。なお、1970年から2017年の間、1時間あたりの日本の労働生産性はG7の中では常に最下位である。
  • 経済成長率（実質GDP成長率）が長期にわたり低迷している。名目国内総生産（GDP）は1990-2020年の間で日本1.5倍増に対し米国3.5倍増、中国37倍増、ドイツ2.3倍増。平均賃金は日本4.4%増に対し米国47.7%増、英国44.2%増、ドイツ33.7%増、フランス31.0%増。
  • 金利が低下した。
  • 一貫して下降し続けていたエンゲル係数が平成25年より上昇に転じるようになった。

• 企業
  • 日本企業が世界時価総額ランキング上位に入らなくなった。その代わり2019年時点で、アメリカや中国のIT企業が上位に入るようになった（en:list of public corporations by market capitalizationを参照）。
  • 世界半導体市場で、日本メーカーが占める比率は平成元年に50%超だったが、これが令和元年の時点では6%まで落ちた。
• 社会
  • 人口ボーナス期が終了して、人口オーナス期が始まった。
    • 少子高齢化が進行し、人口減少社会が始まった。
  • 遅くとも2015年までに高速道路網がほぼ完成する予定であったが、バブル崩壊により実現せず。
• 政治
  • 消費税率が引き上げられた。
  • 税・社会保険料負担率が上昇し、平成の30年間に20.6%から25.7%に上昇した。

関連項目

• 失われた10年 - 失われた20年
• 日本の経済史
• 平成