船弁慶 (落語)
「船弁慶」は上方落語の演目
あらすじ
喜六は妻の雀のお松に頭が上がらない恐妻家。そこへ友人の清八が、涼みがてら大川で舟遊びをしようと誘いに来る。金がないし、いつも人の金でおごってもらっているので芸子に「弁慶」と馬鹿にされるとこぼす喜六だが、今日は参加費の三分を立て替えてやると言われ、折しも帰ってきたお松に喧嘩の仲裁で行くと嘘をついて、いそいそと出かける。
喜六は船の中で芸子と遊ぶうち、酒の酔いも手伝って船べりで踊っている。だが、たまたま友人と難波橋に涼みに来ていたお松に見つかる。お松は亭主の醜態を見て逆上、船にやってきて喜六につかみかかり、時ならぬ夫婦喧嘩。いつしか二人で「船弁慶」の知盛と弁慶の俄を演じてしまう。橋の群衆に「ようよう、川の知盛はんも秀逸なら、船の上の弁慶はんも秀逸。よう!よう!船の上の弁慶はん!弁慶はん!」と囃され、喜六は「何イ!弁慶やと。今日は三分の割り前じゃい!」
概説
落ちの「弁慶」とは、自腹を切らず金を持っている者にたかって遊ぶ者を意味する花柳界の隠語である。
大きく3部に分かれる。前半部は喜六と清八の漫才のようなユーモラスなやりとりと、お松の雄弁さがききどころである。中間部は、難波橋に行く途中、喜六が語る妻の家庭内暴力のすごさが面白い。これがのちのお松の狂乱ぶりにつながっていく。後半部は難波橋の華やかな舟遊びと夫婦喧嘩で、「はめもの」が用いられ、最後には能の「船弁慶」が使われるなど視覚的にも聴覚的にも楽しめる立体的な構成で、上方落語の醍醐味を味わえる。ただし演者には体力と芸格が求められる。
難波橋は北浜にある橋。明治期にライオンの石像のついた欄干が作られた。現在は高速道路が覆いかぶさり景観を台無しにしているが、下を流れる大川では毎年夏の天神祭が行われ、多くの人でにぎわう。
5代目笑福亭松鶴、2代目三遊亭百生、6代目笑福亭松鶴、5代目桂文枝、2代目桂枝雀などが得意としていた。枝雀はお松を悪妻だが心の底では亭主に惚れている女性と解釈して演じることにし、「あんな、たよンないオッサンでも、何か役に立ちますのや云々。」というお松の科白を入れていた。惚れていればこそ、だまされた時の怒りが増幅すのである。