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大腸憩室症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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大腸憩室症(だいちょうけいしつしょう Diverticulitis)は、大腸腸管内壁の一部が腸管内圧の上昇などの要因により袋状に腸壁外に突出した大腸憩室が多発している状態をいう[1][2]

概要

憩室壁が腸壁そのものである全層が飛び出す真性憩室と、筋層を欠き腸壁の筋層の隙間から腸粘膜だけが飛び出す、仮性憩室に分類されるが、大腸憩室のほとんどは仮性憩室で、比較的高齢者に多い病気である。以前は、欧米人では左側の大腸(S状結腸)に多く見られるのに対し、日本人では右側結腸に多いとするのが定説であったが、食習慣や生活様式の欧米化などの要因で、日本人にも左側大腸の症例が増加している。大腸検査を行うと10%くらいの頻度で見つかる比較的ありふれた病気である。大腸憩室があるだけでは治療の必要はないが、合併症である憩室炎に移行した場合は治療が必要である。また、何度も憩室炎を繰り返すことで、大腸が狭窄し癒着を生じるなどして、便やガスの通過に支障をきたしたり、腹部膨満感や便秘が続くなどし、大腸内視鏡検査の器具挿入すら困難になる場合がある[1][2]

症状

一般に憩室があるだけでは無症状であるが、時に下痢、軟便、便秘、腹部膨満感、腹痛など過敏性腸症候群にも似たさまざまな腸運動異常による症状が出ることがある。また憩室に炎症を起こした状態は憩室炎であり、治療を要する。憩室出血や憩室炎といった合併症の出現頻度は10-20%である。憩室炎は、憩室内に便がたまることで引き起こされるが、多くは強い腹痛発熱下血といった症状を伴う。放置し進行すると憩室出血[3]、穿孔、穿孔性腹膜炎腸閉塞、周囲臓器との瘻孔形成などより重症な状態に移行するころがあるために、観察が必要である。盲腸付近の右側大腸の憩室炎は急性虫垂炎と症状が酷似しており、鑑別が困難な場合がある[1][2][4]

原因

  1. 第一の原因は、大腸内圧の上昇であるが、これは食生活の欧米化で、肉食が増加したことと、それに相反するように食物繊維の摂取が減少したため、便秘、腸管の攣縮が起こりやすくなり、これに伴い腸管内圧の上昇を惹起しやすくなったことである[1][2][5]。腸管の内圧の上昇により、大腸壁の筋肉層の脆弱な部分から粘膜が飛びだすことで憩室が発生すると考えられている。
  2. 第二の原因は、加齢による腸管壁の脆弱化である。このために高齢になるほどに発症リスクは高まる。40歳未満ではまれだが、それ以降は急増し、90歳の人ではほぼ全員に多くの憩室がみられる。
  3. 人種遺伝体質、生活環境などの要因が複雑に関連し発症するとみられる。

診断

胃部や大腸検査などで偶然に発見されることが多い。胃のバリウム検査の後に受けた腹部X線検査の際に大腸憩室に残留したバリウムが投影されることで発見されたり、注腸X線検査や大腸内視鏡検査、CTスキャンなどで偶然発見されることが多い。確定は症状がないときに注腸造影検査や大腸内視鏡検査にて行う。肛門からバリウムを注入して止血を行う方法もある。憩室に孔があく(憩室穿通)場合があり、この場合は腹膜炎を起こすために緊急手術が必要である[1][2]

治療

症状さえなければ憩室がたくさんあっても治療の必要はない。日常生活に特別な制限はないが、繊維分の多い食事を心がけ、便秘を起こさないようにする。繊維質を多く含んだ食事だけで不十分な場合は、ふすまを含む強化食品やメチルセルロース、オオバコ種子などの膨張性薬剤が有効[5]。憩室炎や憩室周囲炎など炎症を起こしている場合は、放置すると重症化し腹膜炎に移行することがあるために、入院の上、絶食輸液抗生物質による治療が必要。大腸憩室の出血は70-80%は自然に止血するが出血量が多い場合や繰り返し起こる場合は大腸内視鏡による止血の処置をする。腹膜炎腸閉塞を併発している場合は外科的治療が必要になる[1][2]

予防

腸痙攣を起こさないよう、繊維質を多く含む食物、野菜果物、全粒穀物などを多く摂り、さらに水分を十分に摂取する。大腸の内容物が増加することで痙攣が減少し、大腸壁内圧力が低下する[5]

脚注

  1. ^ a b c d e f 日本消化器病学会
  2. ^ a b c d e f 石川英明ほか 大腸憩室症の検討 日本消化器外科学会雑誌 (1988) 第21巻第4号
  3. ^ 大腸憩室出血の治療戦略 日本腹部救急医学会雑誌 Vol.34 (2014) No.7 p.1295-1301
  4. ^ DIET guide 大腸憩室炎の原因と症状 おおたわ史絵先生解説
  5. ^ a b c メルクマニュアル 憩室症

関連項目