ミートホープ
ミートホープ株式会社(Meat Hope inc.)は北海道苫小牧市に本社があった食品加工卸売会社。
会社概要
1976年(昭和51年)に田中稔が創業。当時は食肉の加工と販売が事業の中心であった。最盛期は、北海道の食品加工卸業界売上第1位であった。従業員は約100人、グループ全体で500人程度だったという(2006年1月現在)。また、ミートホープの創業者でもあった田中稔社長は、中学校を卒業後、たたき上げで事業を展開、2006年4月には「挽肉の赤身と脂肪の混ざり具合を均一にする製造器」を開発したとして、文部科学大臣表彰創意工夫功労賞を受賞した(後に返上)。
しかし、これより遥か以前から食肉偽装が行われており(後述)、翌月には製造したチャーシューに対し、法律で指定した添加物の基準値が超えていたとして業務停止命令を受けている。
社長は自ら肉の研究をし、社内では肉のことを知り尽くした「天才」と言われていた。しかしその実態は「商品開発」と称して、牛や豚の内臓など安い物を配合し、人為的に品質を良いものに見せかけるというものだった。2007年(平成19年)6月20日に発覚した牛肉ミンチの品質表示偽装事件(次節に詳細)を筆頭に数々の不正が明らかとなり、事業の継続が不可能となった。2007年7月18日に自己破産を申請、同日破産手続開始決定。2008年8月7日、費用不足のため破産廃止すなわち法人格消滅となり、本社屋も解体されて現存しない。
社長は逮捕・起訴され、2008年(平成20年)3月19日に、不正競争防止法違反(虚偽表示)と刑法の詐欺罪で、札幌地方裁判所で懲役4年の実刑判決を受けた。社長は「早く罪を償いたい」と、札幌高等裁判所に控訴せず、確定判決となっている[1]。
牛肉ミンチの品質表示偽装事件
2002年、元工場長の告発により地元紙に食品偽装事件が掲載されたが、社名と地域は報道されず、公的機関も動かなかった。ミートホープの常務だった赤羽喜六は、行政指導によって改善しようと保健所・役所に告発するが断られ、遂に逮捕を覚悟で警察に訴えるが、被害届がないことから確認が難しく、このような難件に割く人員はいないと受け入れてもらえなかった。
2006年4月、赤羽は会社の食品偽装を告発するためミートホープを退職し、後に数名の幹部も退職、この告発メンバーに加わった。彼等は北海道新聞社とNHKにも告発文を送ったが、両者はこれを黙殺した[2]。
しかし2007年春に事態は一変する。告発を知った朝日新聞が調査を開始し、DNA検査によって牛か豚かを調べた結果、偽装が立証される[3]。同年6月20日、同紙上で北海道加ト吉(加ト吉の連結子会社)が製造した「CO-OP 牛肉コロッケ」から豚肉が検出されたことが報道された。加ト吉が事実確認を行ったところ、北海道加ト吉には原料の取り扱いミスはなく、ミートホープの責任者は加ト吉に「納入している牛肉に豚肉が混ざっていた」と報告した[4]。同紙の取材にも社長は「故意ではなく、過失」であったと強調していた。
この件に対し、記者会見で社長は当初否定していたが、元社員らが社長自ら指示し関与していると証言したとの報道がなされると、取締役であった長男に促され、記者会見で自ら関与を認めた。この時社長は、どのように肉を混ぜるのかという単価計算のされた紙を持っていた。
その後、牛肉100パーセントの挽肉の中に、豚肉・鶏肉・パンの切れ端などの異物を混入させて水増しを図ったほか、色味を調整するために、血液を混ぜたり、味を調整するために、うま味調味料を混ぜたりしたことなどが判明した。
その他にも、消費期限が切れた肉やクレーム品として返品された肉をラベルを変えて出荷したり、腐りかけて悪臭を放っている肉を屑肉にして、少しずつ混ぜたりする成型肉などの不正行為、牛肉以外にもブラジルから輸入した鶏肉を「日本産の鶏肉」と偽って、自衛隊などに販売していたことや、サルモネラ菌が検出されたソーセージのデータを改竄した上で、小中学校向け学校給食に納入していたことや、冷凍肉の解凍に雨水を利用していたことも明らかになっている。
6月24日、北海道警察は不正競争防止法違反(虚偽表示)容疑で本社など10ヶ所の家宅捜索を行った。
社長は、マスメディアの取材や公判に於いて、「半額セールで喜ぶ消費者にも問題がある」「取引先が値上げ交渉に応じないので取引の継続を選んだ(コストダウンのため異物を混入させた)」などと他者に責任を転嫁する発言を繰り返し、消費者に謝罪するような発言をすることはなかったという。
一方で、北海道加ト吉の工場長が本来捨てるべきであるコロッケをミートホープに販売して、20~30万円の利益を不正に受け取っていたことも明らかになった。この収益は会社の利益に計上せず社内の懇親目的に使用していたといい、この工場長は同日付で解任された。これに絡み、加ト吉創業家の加藤義和は経団連理事の他、社外の公職をすべて退いた。
また、ミートホープ元幹部が実名を明かして、2006年春に農林水産省北海道農政事務所に、不正挽肉の現物を持参して調査を依頼したが、同事務所はこれを受け取らず、実質的にミートホープへの指導も行わなかった[5]。
農水省調査では、事務所への訪問記録はあるが、肉の持ち込みを確認する情報は残されていなかったと回答した[6]。農水省は「北海道内の業者と認識したため、3月24日に道に対応を依頼した」[7]としているが、北海道庁環境生活部は「そのような記録は無い」[8]とした。なお、2006年時点でミートホープは東京事務所を開設しているため、管轄は農水省にあったという。その後、この幹部は朝日新聞に告発し、偽装事件の第一報となった。
これら一連の情報は、内部告発が発端となったもので、公益通報制度のあり方に一石を投じる事件でもあった。また日本テレビ放送網のザ!世界仰天ニュースで「エコ&偽装3時間スペシャル!」として放送された[9]。
取引先への影響
農林水産省調査では、ミートホープの流通量は、一般消費者用(4,300トン)、業務用(5,504トン)、特定施設向け(34トン)である[10]。
- 加ト吉 - 取引材料を使用した冷凍コロッケ計20種を回収[11]。
- 日本生協連 - 牛肉とされた23品目に豚肉が混入[12]。
- JT - 牛ミンチ使用の冷凍コロッケ計6種を自主回収[13]。
- ミスタードーナツ - ベーコンの取引。スープの販売を中止[14]。
- イオン - 総菜の牛肉コロッケの取引[15]。
- 苫小牧市公立小中学校給食 - ブラジル産の鶏肉を国産と偽って出荷[16]。またサルモネラ菌などが検出されたハムやソーセージなどを出荷[17]。
- その他学校給食として22道府県で14トンが取引された[18]。
関係会社
- 株式会社バルスミート(平成3年7月設立)
- 株式会社イートアップ(平成7年11月設立)
- 元々は、「(株)バルスミート」及び「(株)イートアップ」は、ミートホープの連結子会社だったが、偽装事件発覚後、ミートホープグループから切り離された。
- 現在は、バイキングレストランのイートアップの経営を田中稔の長男が行い、バルスミートの経営を田中稔の次男が行っている。
脚注
- ^ “元社長、実刑判決が確定 ミートホープ食肉偽装事件”. 共同通信. (2008年4月3日) 2019年1月8日閲覧。※ 現在はインターネットアーカイブ内に残存
- ^ 赤羽喜六、軸丸靖子『告発は終わらない』長崎出版、2010年。ISBN 978-4-86095-377-5。
- ^ 朝日新聞 2007
- ^ 加ト吉のプレスリリース
- ^ 朝日新聞 2006
- ^ 農林水産省 2006
- ^ 国会質問答弁 2007
- ^ “責任は? 農水省と道が対立 ミート社巡る告発放置”. 朝日新聞. (2007年6月22日)
- ^ “食肉偽装・・・衝撃の手口”. ザ!世界仰天ニュース. エコ&偽装3時間スペシャル!. 日本テレビ (2011年6月1日). 2019年1月8日閲覧。 “→『エコ&偽装3時間スペシャル!』目次《放送年月日記載あり》”※ 現在はインターネットアーカイブ内に残存
- ^ 農林水産省 2007
- ^ “言説文加ト吉、コロッケ20種回収へ 偽ミンチ、農水省が調査 - 牛ミンチ偽装”. 朝日新聞. (2007年6月20日)
- ^ “言説文各社鑑定でも豚検出 偽ミンチ - 牛ミンチ偽装”. 朝日新聞. (2007年6月23日)
- ^ “言説文日本たばこ産業、冷凍食品を自主回収 ミンチ偽装問題 - 牛ミンチ偽装”. 朝日新聞. (2007年6月22日)
- ^ “言説文ミスドがスープの販売を中止 ミートホープから材料 - 牛ミンチ偽装”. 朝日新聞. (2007年7月12日)
- ^ “言説文イオン販売の「牛コロッケ」にも豚混入 偽装ひき肉事件 - 牛ミンチ偽装”. 朝日新聞. (2007年7月6日)
- ^ “言説文給食用鶏肉、ブラジル産を国産と偽った疑い ミート社 - 牛ミンチ偽装”. 朝日新聞. (2007年6月21日)
- ^ “言説文食中毒菌の肉を給食に ミートホープ、検査データ改ざん - 牛ミンチ偽装”. 朝日新聞. (2007年6月11日)
- ^ “言説文ミートホープのミンチ使用256社 22道府県は給食に - 牛ミンチ偽装”. 朝日新聞. (2007年8月3日)
参考文献
- 報道
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- “コロッケに偽ミンチ、生協が全国販売 北海道の業者出荷”. 朝日新聞. (2007年6月20日)
- “偽ミンチ、内部告発を1年余放置 農政事務所”. 朝日新聞. (2007年6月21日)
- 政府調査
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- 牛ミンチ事案に係る牛挽肉等の追跡調査及び今後の対応について (Report). 農林水産省. 7 September 2007.
- 「牛ミンチ」事案の事実関係及び 今後の改善策に関する調査報告書 (PDF) (Report). 農林水産省. 6 July 2007.
- 安倍晋三 (8 July 2007). 衆議院議員逢坂誠二君提出食肉加工会社「ミートホープ(株)」の加工用食肉偽装問題に関する質問に対する答弁書 (Report).
- ドキュメンタリー番組
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- NHK総合テレビ『たったひとりの反乱・“食品偽装”を告発した男』(2009年12月1日 22:00 - 22:45)
- 日本テレビ系列『ザ!世界仰天ニュース エコ&偽装3時間スペシャル』(2011年6月1日 19:00 - 21:54)