ポン酢
ポン酢(椪酢、ポンず)とは、柑橘類の果汁を用いた和食の調味料である。狭義のポン酢(ポンス)は、レモン・ライム・ダイダイ・ユズ・スダチ・カボスなど柑橘類の果汁に酢酸を加えて味をととのえ、保存性を高めたものである。酢酸を加えない柑橘類の果汁を特に生ポン酢と呼ぶこともある。
ポンスに醤油を混ぜた「ポン酢醤油」も一般的に「ポン酢」と略して呼ばれる。ミツカンで発売している商品では、「ぽん酢調味料」というのが正式名称となっている。2019年現在、醤油を混ぜたポン酢醤油が国内の広義のポン酢消費量のほとんどを占めており、単にポン酢として話をする場合、言い手と受け手の間で混乱を招くことがある[1]。
起源
ポン酢は外来語の「ポンス」が転訛し、さらに「酢」の漢字を充てた言葉である[2]。「ポンス」はオランダ語の "pons" に由来するが、これは蒸留酒に柑橘類の果汁や砂糖、スパイスを混ぜたカクテルの一種「ポンチ・パンチ」のことであった[3](現代オランダでは廃語)。『楢林雑話』(1799年)に「和蘭の酒をポンスと云、これを製するには、焼酎一杯、水二杯沙糖宜きほどに入、肉豆蔲、香気あるために入」とある[3]。タイのスイートチリソース・ベトナムのヌクチャムは、ナンプラー(魚醤と呼ばれる、魚由来の醤油)に柑橘類・砂糖・酢や唐辛子・ニンニクを加えたもので、唐辛子・ニンニク以外は共通点がある。また日本の三杯酢・これに出汁を加えた土佐酢とも似ているが、これらには柑橘類は入っていない。
これが次に橙をはじめとする柑橘系果実の絞り汁を指すようになり、『日本国語大辞典』によれば、この意味での文献への初出は1884年で「又その売品は一切安売にて、其中橙は例のポンスに製することも出来るより気強く」(東京横浜毎日新聞)とある[3]。
19世紀末から20世紀初頭には、薬用として「ポンス」や「ポンスシロップ」が売られていた[4]。やがて、ポンスはポン酢と解されるようになった。
ポン酢醤油
ポン酢醤油(味付きポン酢)は、柑橘類の絞り汁に醤油を加えた調味料のことで、酢や味醂、鰹節や昆布などの出汁を加えることもある。単に「ポン酢」と呼ぶことも多く、さまざまな既製品も市販されている。
ポン酢醤油は、和食の調味料として醤油と同様に幅広い料理に活用できる。ちり鍋、水炊き、しゃぶしゃぶなどの鍋料理を食べる際に手元の小鉢にとる付けタレとして用いられるほか、刺身やたたき、冷しゃぶ、あん肝などに紅葉おろしと一緒にかけたり、豆腐料理、秋刀魚などの焼き魚、蒸し物、酢の物などの酸味の適した料理の付けタレ、かけタレとしても用いられる。また、冷やし中華や餃子の付けダレとしたり、マヨネーズと合わせて和風のドレッシングとしてサラダにかけたりもする。炒め物などにも使える。
ジュレポン酢
2011年から、調味料メーカー各社から相次いで「ジュレタイプ」のポン酢醤油が発売され、一時的なブームを起こした[5][6]が、2019年現在ではほとんどの商品がすでに販売中止している。当時は2011年2月にヤマサ醤油の「昆布ぽん酢ジュレ」、ハウス食品の「のっけてジュレぽん酢」が発売され、8月にはミツカンから「ぽんジュレ香りゆず」が発売された。
脚注
- ^ “あなたならポン酢はどっち? 黄色かしょうゆ入りの黒”. style nikkei (2019年11月10日). 2019年11月17日閲覧。
- ^ 小学館国語辞典編集部編「ポン酢」『日本国語大辞典』第2版、小学館、2000-2002年[要ページ番号]。
- ^ a b c 小学館国語辞典編集部編「ポンス」『日本国語大辞典』第2版、小学館、2000-2002年[要ページ番号]。
- ^ 「ポンス橙菓汁 インフルエンザ予防」(両国米沢町・万珠堂薬舗広告)『読売新聞』1891年1月27日朝刊、「暑中の飲料」(万珠堂広告、コレラ等伝染病の予防として)『朝日新聞』1895年8月8日東京朝刊、「薬用滋養飲料ポンス」(両国米沢町・万珠堂広告)『読売新聞』1899年1月8日朝刊、「橙果汁ポンス ポンスシロップ」(滝沢商店広告)「朝日新聞』1923年6月7日東京夕刊など。
- ^ 調味料トレンド「ぽん酢ジュレ」の売れ行き 日経ウーマンオンライン 2011年9月27日
- ^ 犬養裕美子「ジュレポン酢」(フードトレンド)『イミダス』2012年3月
参考文献
- 東和男『発酵と醸造 3』(光琳、2004年、ISBN 4-7712-0026-2)