軽車両
軽車両(けいしゃりょう)とは、日本の法令の用語で、原則として原動機を持たない車両の総称である。
運転にあたり運転免許は不要だが、自動車などと同様の交通規則が定められており、違反を取り締まられた場合には交通切符(赤切符)が交付される。なお、軽車両と軽自動車は無関係である。
定義
- 道路交通法第2条第1項第11号
- 次に掲げるものであって身体障害者用の車椅子及び歩行補助車等以外のものをいう[注 1]
- イ 自転車、荷車その他人若しくは動物の力により、又は他の車両に牽引され、かつレールによらないで運転する車(そり及び牛馬を含む。)
- ロ 原動機を用い、かつ、レール又は架線によらないで運転する車であって、車体の大きさ及び構造を勘案してイに準ずるものとして内閣府令で定めるもの (「原動機を用いる軽車両」参照)
- 道路運送車両法第2条第4項
- 人力若しくは畜力により陸上を移動させることを目的として製作した用具で軌条若しくは架線を用いないもの又はこれにより牽引して陸上を移動させることを目的として製作した用具であつて、政令で定めるもの
- 道路運送車両法施行令第1条(道路運送車両法第2条第4項にいう政令)
- 馬車、牛車、馬そり、荷車、人力車、三輪自転車(側車付の二輪自転車を含む。)及びリヤカー
すなわち、道路運送車両法(道路運送車両の保安基準を含む)においては、二輪の自転車(側車付きを除く)、四輪自転車(四輪以上含む)に対する規制は存在しない。牛そり、犬ぞり、牛馬も同様。(つまり、道路運送車両法令についてはこれらは規制対象外)。
一方、道路法とその法令においては「自転車」の定義文言は無いが、同法令内における「軽車両」は道路交通法に規定する軽車両とされている。よって、道路法と道路標識等における軽車両、自転車の扱いは道路交通法に準ずる。
原動機を用いる軽車両
軽車両は従来原動機を用いないものである事が大前提であったが、道路交通法の一部を改正する法律(令和元年法律第20号)改正施行により、下記の一定の条件を全て満たすものに限り軽車両とみなすこととなった[2][3]。
- 車長 4.0m以下
- 車幅 2.0m以下
- 高さ 3.0m以下
- 原動機は、電動機(モーター)であること
- 運転者が歩行しながら運転するものであること(運転者が乗車等をしない、荷台のような態様と想定される。また、貨物用および乗用の両方が想定される)
- 運転者が車から離れた場合原動機が停止すること
ある程度大型の電動荷車・電動リヤカー、電動(アシスト)人力車等を想定しており、また速度は人間の歩行を大きく超えないものと想定される[4]。軽車両扱いであるため、後述のとおり歩道は原則として通行禁止である。
なお、一定の基準を満たす電動ショッピングカートや電動トロリーケースなどは、これとは異なり歩行補助車扱いとなるため、上記改正および上記規定には依らず歩行者扱いである。
道路交通法上の扱い
軽車両の例
具体的には道路交通法上、以下のようなもののことをいう。なお、本章において道路運送車両法上の軽車両の定義に該当するものは太字とする(道路運送車両法上は特に法令上明確な規定がある訳ではなく、前掲参照)。
- 自転車 (定義も参照のこと)
- タンデム自転車(全長190センチメートルを超え、成年者二人乗りができるため普通自転車ではない[5])
- 荷車(定義、および定義上曖昧なもの参照)
- 人力車
- そり(定義も参照。なお、牛そり、馬そり、犬ぞりなど使役動物に牽引されるものを含む)
- 牛および馬(人が引いており、または騎乗しているもの)
- 祭りの山車(車輪を備えるもの)[6]
- 牛車、馬車、その他動物に牽引される車両
- 他の車両に牽引される「被牽引車(トレーラー)」(※)
軽車両でないもの
以下は道路交通法にて歩行者の扱いとなる。
- 車いす
- シニアカー - 大型の電動式車椅子のうち法令を満たす規格のもの
- 歩行補助車等
- 歩行補助車
- ショッピング・カート、またはこれに類するもの
- 小児用の車
- 乳幼児用の手押し車 - 荷物運搬用と言うよりは、乳幼児の玩具的性格の方が強いもの
- 輿 (みこし) - 山車(だし)は軽車両扱い。祭礼時は、一般的に行列(法第11条)または歩行者天国等による歩行者規制の適用除外となる。
二輪若しくは三輪の自転車(これらの車両で側車付きのもの及び他の車両を牽引しているものを除く)を押して歩いている場合は、道路交通法上歩行者の扱いとなる[8]。ただし、これ以外のもの、例えば人が牛馬を引いている場合や、人力車、荷車などは、歩行者の扱いにはならない[8]。
以上の歩行者扱いになる場合であっても、「行列」(道路交通法第11条)を形成する場合は別の扱いになる。詳細は歩行者参照。
定義上曖昧なもの
次は、本項目における分類に関し、どの種別に該当するかが曖昧であるため法令上の扱いは一意に定まらない。
軽車両ではなく遊具とされるもの
下記に該当するものは「ローラー・スケートをし、又はこれらに類する行為」として、「交通のひんぱんな道路」における使用が禁止されている(道路交通法76条4項3号)。違反すると5万円の罰金に処される[9]。「ひんぱん」の基準に関しては明確な基準はないが、凡そ他の歩行者や車両等との交通の危険が生じうる程度の交通量がある場所と解される。
但し、以上に限定されない。また、これらのうち電動機や内燃機関付きのものは、原則として原動機付自転車または自動車扱いとなる(「原動機付自転車#電動の小型車両等に対する規制」を参照)。ただし、前述「原動機を用いる軽車両」を満たす電動のものは軽車両扱いとなる[注 2]。
道路運送車両法に基づく規制
車両法上の軽車両(前述「軽車両の例」に列挙した太字のもの)に対する同法の規制は以下のとおりである。ただし、車両法における定義は厳密ではない。
寸法
いずれも空車状態[14]。
- 人力によるもの(自転車も含む)は、長さ4.0m以下、幅2.0m、高さ3.0m
- 畜力によるものは、長さ12.0m以下、幅2.5m、高さ3.5m
その他
- 上の二者以外のもの(例として、貨物用の軽車両全般や、構造や形態が一輪トレーラー、一輪自転車、一輪車、二輪自転車(側車付きを除く)、四輪以上の自転車であるもの)
通行方法など
通行車線
軽車両は、自動車、原動機付自転車、トロリーバスとともに、道路交通法では「車両」に含まれ[16]、車両通行帯の設けられていない道路(歩道や路側帯と車道の区別のある道路においては、車道)ではその左側端に寄って[17][18]、車両通行帯の設けられた道路では最も左の車両通行帯(第一通行帯)を通行しなければならない[17][19]。
路線バス等優先通行帯、路線バス専用通行帯、普通自転車専用通行帯その他の専用通行帯がある場合にも、全ての形態の自転車を含む全ての軽車両は最も左の車両通行帯(第一通行帯)を通行する[20]。なお、最も左の車両通行帯(第一通行帯)が「普通自転車専用通行帯」の場合も、全自転車を含め全軽車両はそこを通行する事になる[20]。なお「車両通行区分」「特定の種類の車両の通行区分」の場合はその分類に従う[20]。
歩道通行
軽車両のうち二輪若しくは三輪の普通自転車(サイドカー付きのもの及びサイクルトレーラーを除く)については歩道通行の例外が適用される。
- 歩道通行の例外とは、普通自転車(サイドカー付きのもの及びサイクルトレーラーを除く)が、歩道上の自転車レーンを通行する場合や、運転者が12歳以下の子供、高齢者・障害者であったり、「車道等の状況に照らして自転車の通行の安全を確保するため、歩道を通行することがやむを得ないと認められる」場合に、歩道を徐行ないし通行することである。
- 例外により歩道を通行する場合、次を遵守しなければいけない。[21]
これら以外の軽車両(普通自転車以外の自転車、四輪以上の自転車、自転車以外の軽車両、サイドカー付きの自転車またはサイクルトレーラー)、普通自転車で他の車両(リヤカーなど)を牽引した場合は、自動車等と同様に、道路外出入り等のための横断等の例外を除いては、歩道を通行できない。 その為、運送会社や酒屋などが配達などのため、自転車でリヤカーを牽引して歩道を通行するのは交通違反になる。
自転車道
自転車道がある場合には、二輪若しくは三輪の普通自転車(サイドカー付きのもの及びサイクルトレーラーを除く)は原則としてそこを通行しなければならない[23]。
普通自転車以外の二輪若しくは三輪の自転車(サイドカー付きのもの及びサイクルトレーラーを除く)は、自転車道を通行できる[24]。
上記以外の軽車両(四輪以上の自転車、自転車以外の軽車両、サイドカー付きの自転車またはサイクルトレーラー)は自動車等と同様に、道路外出入り等のための横断等の例外を除いては自転車道を通行できない[24]。
路側帯
路側帯がある場合には、軽車両は道路左側部分にある路側帯[25](ただし二重白線で区画される歩行者専用路側帯は通行できない)も通行することができるが、歩行者の通行を妨げないような速度と方法で進行しなければならない[26]。(自転車を含めて軽車両は、逆走になるので、道路右側部分にある路側帯は通行できない[25][27])
右左折
交差点を右折する場合及び道路外へ出入りするために右折する場合は道路交通法第34条第3項に「あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り、かつ、交差点の側端に沿つて徐行しなければならない」と規定されており、二段階右折をしなければならない。
同じく二段階右折が規定されている原動機付自転車では交通整理の有無等の一定の条件下において義務付けられているが、軽車両は右折する場合には常に二段階右折をしなければならない。また進行方向別通行区分が指定されている交差点を左折、直進又は右折する場合にも、道路交通法第35条第1項の但し書きにより軽車両は除外されており、最も左側の車両通行帯をあらかじめ通行しなければならない[注 3]。
その他
自転車も含めて軽車両は並進してはならない(追越しなどの一時的並進を除く)[28]
道路標識
-
歩行者を含めた全交通が通行止め。
-
車両通行止め。(「軽車両を除く」と書かれていない限り、軽車両にも適用される。)
-
自転車通行止め
-
自動車以外の軽車両通行止め
乗車、積載および牽引の制限
(以下すべて東京都の場合)[29]
乗車
軽車両のうち二輪または三輪の自転車に該当するものについては、詳細は「日本の自転車#公道を走る際の必要装備」参照のこと。
- 二輪または三輪の自転車以外の軽車両(トレーラーを含む)については、乗車装置に応じた人員を超えて乗車させないこと(16歳以上の運転者が幼児1人を子守バンド等で確実に背負つている場合の当該幼児は当該16歳以上の運転者の一部とみなす)
積載
重量は、車両重量を含まない。
- 4輪の牛車、馬車(他の動物種による場合は不明、以下同じ)は、重量2,000kg以下、2輪の牛馬車は1,500kg以下。
- 大車(荷台の面積が1.65平米以上の荷車)は、750kg以下。
- 牛馬車および大車以外の荷車は、450kg以下。
- 軽車両でリヤカーをけん引する場合のリヤカーは、120kg以下。
- 荷台等のある自転車は、30kg以下。
寸法制限
- 荷台等のある自転車の場合、長さは荷台等の長さに0.3mを加えたもの以下。幅は、荷台等の幅に0.3mを加えたもの以下。高さは、積載した状態で2.0m以下。
- 牛馬車の場合、長さは荷台等の長さに0.6mを加えたもの以下。幅は、荷台等の幅に0.3mを加えたもの以下。高さは、積載した状態で3.0m以下。
- 大車の場合、長さは荷台等の長さに0.6mを加えたもの以下。幅は、荷台等の幅に0.3mを加えたもの以下。高さは、積載した状態で2.0m以下。
- 牛馬車および大車以外の荷車の場合、幅は、荷台等の幅に0.3mを加えたもの以下。高さは、積載した状態で2.0m以下。
方法制限
- 荷台等のある自転車の場合、荷台等から前後にはみ出した部分の合計が0.3m以下のこと、左右にはみ出した部分が0.15m以下のこと。
- 牛馬車の場合、荷台および座席から前後にはみ出した部分の合計が0.6m以下のこと、左右にはみ出した部分が0.15m以下のこと。
- 大車および荷車の場合、荷台等から左右にはみ出した部分が0.15m以下のこと。
牽引
軽車両は、交通の頻繁な道路においては、他の車両を牽引してはならない(サイクルトレーラーもこれに含まれる)
ただし、堅ろうで運行に十分耐える牽引装置で自転車がリヤカーをけん引する場合はこの限りでない。
灯火・安全装備
安全装備
「道路運送車両法に基づく規制」も参照。
自転車に該当する軽車両は、制動装置(ブレーキ)、警音器などにつき交通法の規制が掛かる。詳細は「日本の自転車#公道を走る際の必要装備」参照。
灯火
前照灯、尾灯、反射器材についての規制は、自転車と同様であり次の通り。(東京都の場合[29])
- 前照灯 … 白色又は淡黄色で、前方10mの距離にある障害物を確認できる光度のあるもの
- 尾灯 … 赤色で、夜間に後方100mの距離から点灯を容易に確認できる光度にあるもの
尾灯は、次の反射器材を備える場合には不要である。
- 赤色又は橙色で、夜間に後方100mの距離から前照灯の反射光が容易に確認できるもの
- 後面の幅が0.5メートル以上の自転車・軽車両にあつては、両側にそれぞれ1個以上(計2個以上)備えること
前述のとおり、尾灯と反射器材は、どちらか一方があれば良い(両方あっても良い)。なお、他の車両に牽引される場合には前照灯が、他の車両を牽引する場合には尾灯が不要となる。
荷車(ショッピングカート等の軽車両でないものを除く)、人力車、そり、牛車、馬車なども夜間は灯火や反射器財類が必要である。ただし牛および馬(人が引いており、または騎乗しているもの)は夜間でも不要。
有料道路における「軽車両等」の車種の扱いについて
有料道路の通行料金において、「軽車両等」の車種には、自転車などの軽車両のほかに、普通自動二輪車に該当する車両のうち総排気量125cc以下の二輪車[注 4](道路運送車両法における「原動機付自転車」に該当する車両)と、原動機付自転車(総排気量50cc以下の二輪車等)も含まれている。なお、道路交通法においては普通自動車に該当するミニカーも、道路運送車両法においては「原動機付自転車」に該当する。
高速道路、有料道路に関わらず、当該道路を通行できるかどうかは「自動車専用」の道路標識(この場合、車両法において原動機付自転車扱いとなる50cc以下の二輪等とミニカーは通行できない)や、個別の通行止めの道路標識により規制されるのが通例である。
よって、通行料金に「軽車両等」が表示されているからと言って、軽車両(または車両法上の原動機付自転車)が通行できることを示すことにはならない。
脚注
注釈
- ^ 道路交通法の一部を改正する法律(令和元年法律第20号)改正施行以前は『自転車、荷車その他人若しくは動物の力により、又は他の車両に牽引され、かつレールによらないで運転する車(そり及び牛馬を含む。)であつて、身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車以外のもの』の旨の定義であった[1]。
- ^ これら遊具とされるもののほか、従前までの例に列挙した軽車両についても、同様である。
- ^ 信号機等は遵守しなければならない。また、軽車両と二段階右折をする原動機付自転車は、右折しようとする時、青色の右矢印の信号機では交差点に進入できない(停止しなければならない)。
- ^ ただし、普通自動二輪車に該当する車両のうち総排気量125cc以下であっても、側車(サイドカー)を備えた車両は軽自動車に該当するので、当然、通行料金区別は「軽自動車等」に該当する。
出典
- ^ “法律|警察庁Webサイト”. 警察庁Webサイト. 2020年1月29日閲覧。
- ^ “法律|警察庁Webサイト”. 警察庁Webサイト. 2020年1月29日閲覧。
- ^ 改正道路交通法施行規則第1条の2の2
- ^ 令和元年9月19日庁内各局部課長警察庁交通局長・道路交通法の一部を改正する法律の施行に伴う交通警察の運営について(通達) https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/kouki/291030/7.pdf
- ^ 道路交通法施行規則第9条の2
- ^ 福島県市民交通災害共済組合. “事故に関する疑問”. 2019年7月14日閲覧。
- ^ “道路交通法(昭和三十五年法律第百五号)第二条十一項 軽車両”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局 (2019年6月19日). 2020年1月21日閲覧。 “令和元年政令第三十一号改正、2019年7月1日施行分”
- ^ a b 道路交通法2条3項1号
- ^ 道路交通法第百二十条第一項第九号
- ^ 朝日新聞デジタル:繁華街でスケボー、4人検挙 道交法違反容疑 大阪 – 社会 ソース アーカイブ
- ^ 「車道でスケートボード 道交法違反で摘発 | レスポンス(Response.jp)」『レスポンス(Response.jp)』。2018年11月11日閲覧。
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- ^ 「車道をスケートボードで走行していた男性、ひき逃げされて重傷 | レスポンス(Response.jp)」『レスポンス(Response.jp)』。2018年11月11日閲覧。
- ^ 道路運送車両の保安基準68条
- ^ a b c 道路運送車両の保安基準第七十条から第七十二条まで
- ^ 道路交通法2条1項8号
- ^ a b 道路交通法17条1項
- ^ 道路交通法18条
- ^ 道路交通法20条1項本文
- ^ a b c 道路標識、区画線及び道路標示に関する命令各条
- ^ “自転車も歩道を走っていいの? 通行が認められる4つのケースとは”. 乗りものニュース. 2020年1月26日閲覧。
- ^ 道路交通法第63条の4第2項
- ^ 道路交通法63条の3
- ^ a b 道路交通法17条3項
- ^ a b 改正道路交通法(平成25年12月1日施行)17条の2第1項
- ^ 道路交通法17条の2第2項
- ^ 道路交通法17条4項
- ^ 道路交通法19条
- ^ a b 東京都道路交通規則