さよならダイノサウルス
『さよならダイノサウルス』(原題:End of an Era)は、カナダの作家ロバート・J・ソウヤーが書いた長編SF小説である。恐竜があれほどに巨大化した理由と、短期間に絶滅した原因がSFのアイデアで描かれている。
あらすじ
未来へは行けないが、過去に逆行できるタイムマシンが完成した。無人探査機は、白亜紀に4時間滞在して無事に戻ってきた。持ち帰ったデータでは危険なものは無かった。次に2人の考古学者が、直径5メートルの円盤状の探査船に乗って、6千5百万年前の地球に送り込まれた。およそ87時間が経過したら、探査船は自動で元の世界へ帰還するようになっている。そこには見慣れた星座が無い代わりに、月が大小2個あり、緑に近い色に輝く惑星があった。2人はここの重力が、元の地球の半分程度しかないことに驚き、恐竜が巨大化した理由を突き止めたことに興奮する。船外に出て調査しているうちに、人間ほどの大きさの恐竜の群れに捕まった2人の考古学者は、身体を押さえつけられた。恐竜の鼻孔から青いゼリーが出てきて、2人の鼻孔から体内に侵入し記憶をいじくる。ゼリーが恐竜の身体へ戻ったとたんに、恐竜は片言の英語を話すではないか。それとの会話から、青いゼリーは1億3千万年前に火星からきた知的生物であることが分かった。ゼリーたちは恐竜の体内にいて、それらを操っていたのである。2人はゼリーたちを「ヘット」と呼ぶことにした。ヘットは重力制御技術に優れていたが、時間逆行のことを知らずタイムマシンに興味を持った。だが考古学者たちはその原理を知らず、探査船自体にもその機構は無く、元の世界からコントロールされていた。
ヘットは遺伝子工学にも優れており、大きな生物を宇宙船のように改変して使っていた。探検に出かけた先で、戦車のような物体と恐竜が模擬戦闘しているところと、恐竜が生んだ卵を宇宙船に積んで運んでいるのを目撃し、ヘットが第五惑星(火星と木星の間にある惑星)の知的生物たちと戦争をしていることを知った。ヘットは恐竜を遺伝子改変して、強力な戦闘マシンにしようとしていたのだ。やがてヘットたちは群体生物で、大きな集団から分離しても生きていられることと、リボ核酸から成るウイルスであることが分かった。未来の火星が不毛の惑星となっていることを知ったヘットは、2人とともに未来の世界へ帰還しようとするのだが、危険を察知した考古学者たちはそれを断った。ヘットたちは2人の記憶からタイムマシンの原理を探ろうとして、1人の体内に侵入することに成功した。もう1人がそれに気が付き、AIDS用の抗ウイルス薬をヘットに取り付かれた男の腕に注射する。それによってヘットは死んだ。そして2人とも時間逆行の原理を知らないために、ヘットの計画は失敗した。
未来への帰還の時間が迫る中、ヘットたちは探査船に強引に乗り込もうとして、恐竜たちに上空と地上から襲撃させた。考古学者たちはライフル銃で応戦するものの、大型恐竜には歯が立たず、ハッチからの小型恐竜の侵入を許してしまう。万事窮したところで、ヘットに取り付かれて抗ウイルス薬を打たれた男が「重力抑制衛星」のことを思い出した。ヘットと記憶の交換があったのだ。その衛星の機能を止めればここの重力が2倍になって、恐竜たちは動けなくなるはずだ。記憶を頼りに無線周波数や制御コードを割り出してコンピューターに入力し、自動送信で繰り返し電波を出す。すぐに2人は急に身体が重くなった。恐竜たちも脚の骨が折れ、内臓が潰れて次々に倒れていく。空を舞っていた翼竜はまっさかさまに落ちてきた。やがて帰還のときが来て、探査船は元の時代に戻った。あの時代に恐竜が絶滅した理由が判明した。そしてヘットたちがどうなったのかも。それらは個々に生き延びたやつがいて、知性は失われたものの生物に取り付くという習性は残していた。現代のインフルエンザ、風邪、ポリオなどの病原体として…。
主な登場人物
- ブランドン・サッカレー - 古生物学者。恐竜研究家。
- マイルズ・ジョーダン - 古生物学者。
- チン=メイ・ファン - 時間逆行の原理を発見した物理学者。
書誌情報
『さよならダイノサウルス』 内田昌之訳 ハヤカワ文庫 SF1164 1996年10月