まるでゲームのような体験! ニンテンドーミュージアムに行ってきた感想

緻密に設計された箱庭

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優れたオープンワールドゲームには、初めて世界を一望できる感動の瞬間が用意されている。例えば、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』で最初の洞窟を出て、始まりの台地から世界を見渡すあの場面だ。ニンテンドーミュージアムは『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』と比べれば小さな箱庭だが、エスカレーターを登ると聞こえてくる音や見えてくる光景がプレイヤーを別世界へと誘う。「マリオ」における土管からワープしたようなインパクトがあると言ってもいいだろう。

上を見れば巨大なコントローラやゲーム機、前を見れば様々な展示物が360度に広がっている。そこに順路と呼ばれるものはなく、好きな順番で見回ることができる。膨大な数の展示物なのに、不思議と圧倒されることはないし、迷子になることもない。展示フロアを探索していると、まるで任天堂の優れたレベルデザインを味わっているような感動がそこにあった。

展示されているアイテムのほとんどは任天堂の過去の商品だ。開発資料・原画・試作品といった、商品開発の過程とその舞台裏が見えてくるようなものはほとんどない。博物館や美術館にあるような説明文もごくわずかで、ほとんど見るだけで誰にもわかるようになっている。任天堂のファンとして、もう少し珍しいアイテムに期待している自分がいたことは事実だし、展示物により深い文脈を与えるような説明があってもいい気がした。だが、それは少し野暮な考えなのかもしれない。所詮はチュートリアルの説明文を最小限にとどめ、老若男女が手に取ってすぐに遊べるようなゲーム作りを手掛けてきた任天堂だ。その135年の歴史を「見て」、「体験」するだけで伝わるミュージアムは、彼らのゲームデザインがそのまま反映された施設と言えそうだ。

ファミコンからNintendo Switchまで、ゲームボーイから3DSまで、任天堂が手掛けてきたすべてのゲーム機がまず目に入る。任天堂のファーストパーティータイトルはもちろん、代表的なサードパーティータイトルや懐かしい周辺機器も展示されている。

それぞれのゲーム機の地域ごとの販売台数の割り合い、そのハードでスタートしたシリーズや革新的だった要素もわかりやすく展示されている。

ほとんどのソフトは日本、米国、欧州のパッケージが用意されている。ざっと見ていくだけでも、グローバル化していくゲームの流れを感じ取れるだろう。ファミコンであればパッケージアートは地域ごとにまるっきり違い、タイトルが異なる場合も多い。しかし、Nintendo Switchはパッケージアートもタイトルもほとんど地域ごとの変化がなくなっている。古参のゲーマーであれば最初から知っているようなことだが、そうでない人にもそうした時代の変化が能動的にわかる。

外国からの来場者にとっては、旅行先である日本のパッケージを見ることができると共に、自分にとって懐かしいあのソフトともちゃんと出会えるようになっている。当時のCMや雑誌なども、複数の地域のものが展示されており、映像や表紙を見るだけでなんとなく時代を感じる。

展示されているゲームが実際に動いている画面は、展示物の上にあるモニターで見られるようになっている。

中古ゲームショップやGoogleにYouTubeがあれば、ほとんどの展示物が見られてしまうことは事実だ。しかし、そんなすべてが同じ空間に集合していることによって、不思議なシナジーが起き、興味深い再発見もある。

例えば、Wii Uは任天堂の歴史においてふるわないイメージがある。しかし、Wii Uのハードやソフトを任天堂の他のゲーム機と同じ空間に置いてみると、その存在の大きさにハッと気づかされる。『スプラトゥーン』に『スーパーマリオメーカー』といった重要なフランチャイズが生まれているし、テレビとWii U Gamepadの両方で遊べるというNintendo Switchに繋がる発想が誕生し、Amiiboという新商品もここでスタートしているのだ。

もちろん、135年の歴史を誇る任天堂はずっとテレビゲームだけを作ってきたわけではない。花札から始まり、北米向けにトランプカードを展開していき、ディズニーとコラボするようになる流れも、数多くの商品を通してわかるようになっている。マリオやカービィに会いに行くと思って、『ミッキーマウス』や『わんわん物語』に『バンビ』の商品と出会って驚く来場者もいるかもしれない。その商品たちを辿っていくと、任天堂がいちはやく「新しい遊び」を作り出す会社であったことも明白になっていく。花札やトランプカードから始まり、次第に多種多様なボードゲームやすごろくに繋がっていく。その間にはベビーカーや光線電話といった不思議な商品も見かける。後者はゲームボーイの生みの親として知られる横井軍平による商品で、同氏の独創的なアイディアが任天堂をさらにユニークな会社へと昇華させた。

60年代後半を代表する「ウルトラハンド」、「ウルトラマシン」、「ラブテスター」といった商品の独特な遊び心が、徐々にゲームメーカーとしての任天堂のアイデンティティを形成していく。そうした展示物の上の一部に当時のCMも流れている。「任天堂の〇〇」といったCMのナレーションから、任天堂が当時から一目おかれる企業であったことがわかる。

任天堂のロゴが時代と共にどう変化したのか、「マリオ」の「ハテナブロック」がどのように進化したのか、音楽を取り入れた商品の歩み、身体を動かす商品のこれまでなど、任天堂とそのIPたちの長い歴史が様々なテーマにあわせて紹介されていた。

任天堂のファンとして、まったく新しい発見こそ少なかったが、そんなすべてが一同に会するミュージアムは誰が見ても楽しめるようにデザインされていた。

強いて言えば、Nintendo Dolphin(ゲームキューブのコードネーム)やWiiリモコンにバランスWiiボードの試作品は初めて肉眼で見られた。これらはなぜか展示フロアの奥まったところに、あまり目立たず地味に配置されていた。いわゆるサイドクエストのような扱い、といったところか?

1階に降りると、インタラクティブな体験が来場者を待っている。任天堂の過去をモチーフに作り出されたこれら体験は、任天堂らしい遊び心が光っていた。一部は、マリオやゼルダの生みの親である宮本茂が「ニンテンドーミュージアム Direct」の映像ですでに披露していた。映像で光線銃によるシューティングギャラリーやウルトラマシンを使ったバッティングセンターのような遊びを見て、私は正直あまり感心しなかった。しかし、実際に遊んでみると、シンプルでありながら任天堂らしい作り込みが際立っていた。

シューティングギャラリーは横に広く、かなり遠くにいるターゲットでも正確に狙える。最後は運動会の玉入れのように、それぞれのプレイヤーのスコアが同時進行で数えられ、楽し気な雰囲気が作り出されている。ウルトラマシンも本格的なバッティングセンターと比べればハードルが低く、小さな子供でも楽しめる。レトロなインテリアの部屋に玉をぶつけて、その可愛らしい反応に思わずほっこりする。リビングからトイレまで、部屋ごとに異なるテーマが楽しめる。遊園地のような壮大さはないが、地味だが抜かりのない作り込みがいかにも任天堂らしく思えた。

ファミコン、スーパーファミコン、N64の巨大コントローラによる協力プレイは思ったよりもずっと難しく、そして思わず爆笑したくなるような体験だった。うまくいかないことの方が多いけれども、一緒にその失敗を楽しむ経験にはパーティーゲームのようなフィールがあった。

特に面白かったのは、巨大なWiiリモコンをふたりで持ち上げて、『Wii Sports Resort』に登場したウーフーアイランドの上空を水上飛行機で飛び回るものだった。Wiiリモコンを飛行機に見立て、上下左右に傾けることでそれぞれスコアの異なる風船を割っていく。身体全体を使った遊びで、Wiiリモコンの発想をフルスケールで体現しているように思えた。ここでしか体験できないものなので、任天堂ファンにとっては展示物以上に、体験エリアこそ外せないだろう。

ふたりのプレイヤーの恋愛度が測られる「ラブテスター」はデート相手と打ち解けるにはもってこいの内容だった。いきなり手を繋ぐように、あるいは見つめ合うような指示され、そこからネズミを追い払ったり、頭上の風船が割らないように障害物をよけたりしなければならない。マイクロソフトのKinectを彷彿とさせるような遊びでシンプルな体験だが、一緒に遊んでいる人との絆を深める不思議な効果がある。

ウルトラハンドでレールを流れるボールをつかまえ、土管に落とす遊びも任天堂の過去の商品をクリエイティブに活用したものだ。手が遠くまで伸びて、ものをつかまえることのできるウルトラハンドは滑稽なアイテムで、それを不慣れな格好で操ろうとする来場者を見ているだけでも微笑ましい。私自身も最初はボールがなかなかつかめず、やっとつかめたと思うと今度は地面に落としてしまった。操作性の難しさが、むしろユーモラスなカオスを作り出しているWii初期のミニゲーム集を想起させるような体験だ。

巨大なモニターの上を歩きながらスマートフォン端末を手に持ち、「百人一首」を遊ぶ体験も新鮮だった。普段であればちゃぶ台に並べられたかるたを指で探すわけだが、ここでは歩き回って探すことになる「等身大かるた」とでも呼びたくなる体験ができる。

こうした体験をいくつか遊んでみると、私はまるで「マリオパーティ」のようなミニゲーム集を等身大で味わっているような感覚になった。しかし、それらはマリオやピーチといったキャラクターではなく、かるた、ウルトラハンド、ウルトラマシン、ラブテスターといった、任天堂の歴史にちなんだものだった。様々なゲームを通して、来場者は知らず知らず任天堂のビデオゲーム以前の歴史を経験している。常に「遊び」にこだわってきた会社らしく、ニンテンドーミュージアムはくどいことなしに、インタラクティブな体験を通してその歩みを私たちに見せてくれていた。

任天堂の原点である花札の歴史も存分に感じられる。展示エリアはもちろん、花札を作るワークショップ(2000円)や、画像認識とプロジェクション技術を活用した花札体験(500円)も用意されている。ワークショップは好きな絵柄のキットを選んで、絵具や糊でじっくりと工作していく。任天堂の原点に触れている感覚は得られるのかもしれないが、少し色気が足りないような気もした。例えば、任天堂のキャラクターの絵柄があれば多くの人は体験したくなるはずだが、今のところ花札の伝統的な絵柄しかない。

「ちょっと、花札であそぼう」と題された花札体験は「花合わせ」のルールをベースに進めることになる。画像認識とプロジェクション技術のおかげで、まるで「龍が如く」のゲーム内ゲームを遊んでいるかと思うほど未来的な体験だった。そのおかげでルールを知らなくても遊べるようになっているが、逆に言えば指示に従うだけになってしまいがちだ。

私は様々な体験を通して、展示物を見ているときよりもニンテンドーミュージアムに対する満足度が上がっていった。しかし、一般来場者は1日ですべての体験ができるわけではない。入館証には10コインが付与されており、これを消費して気になった体験を選べる。必要なコインは展示によって異なるが、1回の来場で4、5種類程度の体験ができればいい方かもしれない。オープン後は混雑も予想されるだろうし、体験展示は並ぶ時間も避けられないだろう。

遊園地の壮大な装飾と比べれば地味なのかもしれないが、ミュージアム内に仕掛けられたイースターエッグや隠し要素の数々にもぜひ目を向けてほしい。『スーパーマリオ オデッセイ』の箱庭のように、館内は様々な発見があるのだ。「ここに『エキサイトバイク』のバイクがある!」、「魚や虫のリアルな図鑑があるけど、よく見てみると『どうぶつの森』じゃん!」、「建物の屋上にはピクミンが!?」という具合に、来場者の好奇心は常に報われる。並んでいる間に周りをよく見れば、待ち時間も少しは短く感じるのかもしれない。

館内では任天堂のゲームの音楽も流れている。花札を作っているときは「どうぶつの森」の曲が私をリラックスした気分にさせ、ショッピングしていると「ゼルダの伝説」のセーブ選択画面のときに流れる「大妖精の泉」が聴こえてきた。列に並びながら、流れている曲が呼び起こすゲームの記憶について語り合うのもいいだろう。

BONUS STAGEというショップもある。特に印象深いのが各ゲーム機のグッズだ。WiiのTシャツやNintendo Switchのペンを持っていても誰も驚かないが、Virtual BoyのTシャツやディスクシステムのマグカップはどうだろう? もちろん、ミュージアムのTシャツやクッキーといったオリジナルアイテムも揃っている。個人的に興奮したのは「ウルトラハンド」そのものが販売予定であることだが、残念ながらまだ「COMING SOON」となっていた。ニンテンドーミュージアムならではのマストバイアイテムになりそうだ。

カフェ「HATENA BURGER」では「すきやきバーガー」や「西京焼きバーガー」といったオリジナルメニューに加え、バンズから具やトッピングまで、スマートフォンで簡単に自分だけのハンバーガーが作れるシステムも搭載されていた。そう、食事までもがインタラクティブなのだ!

展示物の珍しさや説明の少なさを思えば、ニンテンドーミュージアムは「博物館」としてやや物足りなさも否めない。しかし、緻密にデザインされた展示フロア、遊び心満載の体験の数々、そして細かい作り込みは、来場者をまるで任天堂のゲームをプレイしているような気持ちにさせる。「見て」、「遊んで」、「探索」する過程で、来場者はいつのまにか任天堂の歩んできた135年の歴史を肌で体感している。任天堂に詳しい人にとっては新しい発見こそ少ないが、この会社を愛している理由を十分に再確認できるはずだ。ゲームにそんなに詳しくない人でも、気難しいことなしにすぐに楽しめる体験型ミュージアムとなっている。

ニンテンドーミュージアムは10月2日にオープン予定だ。

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