コラム:FRBのインフレ退治を労働市場が支援、持続性にはリスク

コラム:FRBのインフレ退治を労働市場が支援、持続性にはリスク
 10月10日、 米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、セントラルバンカーとして最大の難題に直面している。写真はFRBのパウエル議長。ワシントンで9月撮影(2024年 ロイター/Tom Brenner)
[ワシントン 10日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、セントラルバンカーとして最大の難題に直面している。タガが外れた物価上昇を抑え込みながら、労働市場の活力を失わせないようにすることだ。
経験則に照らせば、物価安定と雇用最大化という2つの目標には、決して解消されない緊張関係がある。しかし今、雇用情勢の側が物価に歩み寄る形で「和解」が成立しようとしている。着実な新しい労働力の参入と、生産性向上のおかげで、なお高水準の賃金と雇用の伸びがインフレをもたらさないという構図は、10日に公表されたデータでも示された。
ただFRBが追加利下げを視野に入れる中で、移民に強く反対する政権の誕生や、労働生産増加の流れが止まることにより、せっかく維持されている雇用と物価の好ましいバランスが崩れる展開がリスクとして挙げられる。
9月米消費者物価指数(CPI)は3年ぶりの低い伸びだった。前年比2.4上昇というのは予想をやや上回ったとはいえ、FRBの目標をわずかに超える程度に過ぎない。パウエル氏が8月に政策運営の軸足を物価から雇用に移したことが正当化されたと言える。先週発表された9月雇用統計で、非農業雇用が前月比25万4000人増え、失業率が8月の4.2%から4.1%に低下したのも良い流れだ。
A line chart showing a spike in job openings per available worker after the pandemic falling back to normal levels by 2024.
このような事態は、エコノミストの一般的な警告とは矛盾するように見える。2つの指標が、こうしたことが実現した理由を知る手掛かりを与えてくれる。
通常の景気回復序盤では、求人件数と求職者数(失業者数)の比率は約2対1と、働く側にとってかなりの買い手市場であるため、転職が促進され、大幅な賃上げを確保できる。現在この比率が1対1に近づいている理由は、求人が埋まってきただけでなく、新規参入によって労働者の供給が拡大したことにある。
労働力人口に占める25歳から54歳の割合は83.8%と、2001年以来の水準に達した。その原動力は移民で、19年は14%だった労働力人口における移民の割合は昨年ほぼ16%になった。
生産性の高まりも状況を改善させている。賃金上昇率は年4%前後と引き続き高いが、労働生産は10─19年の平均を上回っている。労働コストが上がりながら、雇用主もメリットを享受し、経済の潜在成長力が増大しているのが今の動きだ。
A line chart showing recent growth in labor productivity among US workers
新型コロナウイルスのパンデミックを契機に生まれた新たなビジネスや働き方が、競争や技術革新を通じて生産性を押し上げているという証拠が幾つか存在する。
しかし落とし穴は、この潮流が続く保証がないというところにある。コロナ禍後の雇用情勢で特徴の1つだった転職も、既に勢いがなくなっている。
一方、移民に対してより敵意を向ける政策が打ち出されれば労働者の供給が脅かされる。11月5日の大統領選で共和党候補のトランプ前大統領が当選すれば、そのそれが現実のものとなる可能性が高まる。
とはいえ、今のところ労働市場はFRBのインフレ退治を手助けし、パウエル氏は労働市場にそのお返しをしようとしている。
●背景となるニュース
*米労働省が10日発表した9月消費者物価指数(CPI)前年比上昇率は2.4%と3年ぶりの低い伸びだった。4日発表の9月失業率は4.1%に低下した。 もっと見る
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。