**お話の演出上、汚い言葉が出ます…**

 

 すると……

「あぁ、やっぱり」とアイツはつぶやき

「母さん、ダメよ!

 ここであきらめたら!

 こんなクソオヤジ…放っときましょうよ!」

誰のおかげで、大人になれた、と思うのだ。

娘は小憎たらしい顔をして、サッサと彼を車椅子に乗せた。

「やめてくれ。

 行かんと言ったら、行かん!」

大きく手を振り、どうにかして逃れようと、精一杯阻止しようとするけれど…

「ダメよ、もう先方さんは、お待ちかねよ」

冷ややかな声で、あの女はそう言った。

 

 ここはどこにでもある、小さな田舎町だ。

人口も10万人にも満たない、小さな町だが、人情味のあふれる海の近くの

街だ。

ここには昔ながらの商店街がある。

それはこの近所の人たちが、日常的に利用する憩いの場だ。

一時はシャッター商店街と化していたのだけれど…

奇跡的に、持ち直したのだ。

その立役者が、地元でもちょっと人気者の人たちで、商店街の人たちに 

愛されている。

 パッと見は、さえない還暦を迎えたばかりのオヤジたちなのだが、

ここの人たちは愛情をもって、こう呼んでいる。

「シニアオヤジーズ」と。

 だがそうはいっても、高齢化の波は、例外なくこの街にも押し寄せた。

目下の悩みは、平均年齢が年々高くなっていることだ。

だが自分たちはまだ、若者たちには負けない、という気がいだけはある。

 近くに若者の通う大学が、あるわけでもなく、

観光名所があうわけでもない。

しかも駅の近くには、それなりに立派なショッピングセンターも立っている。

オシャレなカフェがあるわけでも、

奇抜なカリスマがいるわけでもない。

どちらかというと、レトロな昭和の風情が漂う街だ。

だけどなぜか、ここに来ると、懐かしい気持ちになる…と、

1部の人たちに人気のある商店街なのだ。

 

 さらにはここに、想い出屋という、一風変わった店がある。

ホームページを見て、わざわざ訪ねてくる人も、少なくない。

何が人を引き付けるのか?

特に話題のスイーツがあるわけでもなく、

素敵なサービスが、売りなのでもないのだが、

ここのコーヒーを飲むと、幸せになる…と、口コミで高校生中心に

広まった話題の店だ。

だが不思議なことに、そこは喫茶店でもなければ、食べ物屋でもない。

あくまでも

「あなたの思い出の品を預かります」

という、珍しい店なのだ。

 

 

 

 

 

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