「なんだ、人がいたのかぁ~」
ガラガラ…と引き戸を開けると、しわがれた男の声がした。
「なんだよ」
失礼なヤツだな。
善行は思わず、ムッとする。
だがその声の主は、まったく戸惑うことなく、中へ侵入しようとする。
「ちょっと、お父さん…失礼よ」
小声でささやく女性の声がする。
(やれやれ…どうやら1人ではなさそうだな)
どんな人が来たのか…
善行は、とても気になっていた。
「来たようだな」
いつの間にか、幸次郎が善行の背後に来て、ニヤニヤしながらささやく。
「別に…来なくても、よかったんだがな」
ボソッと言う。
「また、そんなことを言って!」
冗談だよな、と楽しそうに幸次郎が笑う。
だが…善行はまだ、声の主が誰か、知らないのだ。
まもなくして…
「お邪魔します」
女性の声がして、最初に目に入ったのが、車椅子の男だった。
(あっ、この人だったかぁ)
すぐに、善行は納得した。
知り合いというほどではない。
顔見知り…というか、噂で聞いたことのある…という程度だ。
「別に…アンタと話がしたくて、来たわけはない」
善行たちに気が付くと、男はにらみつけるようにして、善行を見上げた。
「ちょっと、お父さん!
また、そんなことを言って!」
車椅子を押している女性は…奥さんなのだろうか。
慌てたように、ささやく。
「やぁ、どうも!いらっしゃい」
その場に固まっている善行とは裏腹に、やけに愛想のいい顔をして、
幸次郎が出迎える。
「わざわざ来てもらって、悪いねぇ、リョウさん」
旧知の仲のような態度で、ずいぶんフレンドリーな調子で、幸次郎が話しかける。
リョウさん、と呼ばれた男は、やや迷惑そうに
「ワシは別に…何も話すことなど、ないがな」
一向に不機嫌な態度を隠すことなく、ブスリと答えた。
「お父さん!」
女性があわてて、彼をたしなめるけれど…
「あっ、いいんですよ、ヤスコさん!
我々に一切、気を使わなくて」
終始にこやかな対応をする幸次郎を見て、善行はブスッとした顔のまま
「ここじゃなくて、幸次郎の店に、来てもらった方が、よかったんじゃないのか?」
嫌味っぽく、善行が口を開いた。
こちらは、待たされたというのに…
何だ、その態度は。
瞬間湯沸かし器のように、イラついていたのだ。