「オジサン、何を教えてくれるの?」
「オジサン、名前は?」
「オジサン、ゼンコーさんの友達?」
わぁわぁとたちまち、良人の周りを取り囲んだ。
「おい!」
善行に助けを求める。
「おい!」
幸次郎の方を見る。
「おい!」
寧子は黙ったままだ。
(ちょっと、どうなっているんだ?)
「いや、友達じゃない。
ワシは、何も教えないぞ。
ここには、もう来ない!」
そうがんばっているけれど…
「なんで?」
「どうして?」
「オジサンも一緒に、オヤツを食べようよ」
グイグイと子供たちのうちの1人が、小走りで車椅子を押す。
「おい!乱暴はやめろ!」
あわてて良人は、ブレーキに手をかけようとする。
するとその時、
「あら、いいじゃありませんか!」
先程まで、黙って見ていた寧子が、いきなり声を出した。
「なんだって?」
これは聞き間違えか…と、彼は一瞬、虚をつかれる。
驚いた顔を、妻に向ける。
こんな寧子の顔を見るのは、おそらく初めてなのではないか…
彼はそう思った。
「みんな、乱暴はやめなさい!」
その時、善行の声が、子供たちのざわめきをかき消した。
子供をかき分けて、良人に近付くと…
「すまなかったな、大丈夫だったか?」
いきなり人の良さそうな目で、心配そうに良人を見た。
「まぁ…考えておいてくれ。
でも…手分けをしてくれると、こちらとしては、助かる」
先程まで、腕組みをしていた手をほどき、善行は良人に向かって微笑む。
良人はため息をつくと
「無駄足かもしれないぞ」
ボソリとつぶやくけれど、ウンとは言わなかった。
「かまわないさ!」
善行はなぜだか、自信たっぷりな顔で、ニヤリと笑う。
「食事つきだけじゃないぞ!
ボクの特製のコーヒーを、ただで飲ませてやろう」
まっすぐに、良人を見て笑う。
「ま、前向きに考えてくれ」