tear drop

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一粒の物語

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見ていられない。

今期の月9も映画も、アニメもバラエティも歌番組も、何もかも!

オフィスの自動ドアを一歩出ただけで、ツンと突き刺すような外気が全身を締め付ける。この季節とは相反するように、最早、どこへ出かけても病的なまでのお祭り具合だ。幸せに満ち溢れている現実から逃げ出したい人間が、テレビに逃げ込もうとしても、カウンターを喰らうのがオチだろう。

ましてや、今の翼は、約束されたハッピーエンドまでの工程を描いた作品など観る気にもなれず、最近はどのチャンネルを選んでも面白くないのだ。そんなもの見せつけられるくらいなら、無慈悲な連続殺人事件の速報をぼうっと眺めている方が心地が良いくらいだった。

なんて女だろう。心の内側が酷く濁っていることを思い知らされて自己嫌悪すると共に、こんな思考ではいかんと思い直そうとするが、すれ違う微笑みを絶やさない人々を目の前に、自分に対して説教するのも馬鹿らしくなってしまう。

お堅いニュースまでもが寒空のイルミネーションを特集し、ケーキだサンタだプレゼントだと、煌びやかに飾られた世界で、人々は浮き足立っている。

冷たい空気を大きく吸い込んで、吐き出す。白い息がふわりと黒い空へ消えた。

いいじゃないか、別に。一人で何を思おうが、感じていようが、誰かに見つかることもなければ咎められるわけでもない。

どうせ、すれ違う人間には、例え前科があろうが、例え万引き常習犯だろうが……例え、失恋で、心が。深く傷ついていることなど、知る由もないのだ。

こんな時こそ、自分に正直になることは一つの薬なのだ、と、この醜い感情を肯定してしまうことにした。

 

翼は、瞼に焼き付きそうな程輝く電光装飾に目を向けることもなく、一段と輝く繁華街を後にする。少し歩いた先の路地を曲がれば、すぐにマンションが見える。そのエレベーターへ滑り込めば、ここからは翼のテリトリーだ。

職場から徒歩15分圏内を重視して選んだこの物件は、デザイナーズマンションということもあり家賃は少々予算オーバーだった。希望通りの立地、綺麗な内装、設備も万全であることを考えれば、良い出会いではあったのだが、如何せん、繁華街に住むということは、自分以外のイベントに巻き込まれる覚悟がないといけないことについては盲点だった。

 

部屋の灯りを点けると、テレビの電源を入れる。画面が表示されるのも待たずに、すぐにゲームに切り替える。

コントローラーを器用に操作して、「いつものあの場所」で約束している仲間に会いに行く。

人間が作り上げた幸せなフィクションを拒絶し、人間が作り上げた恋人たちのイベントに目を背け、人間が作り上げた第二の世界を楽しむ。

幸せとは、「誰か」が作り上げた「何か」を通して感じる物なのだろうか…。

翼はそんなことを考えながら、今日もまた、第二の世界の住人に「おまたせ」とメッセージを送るのだ。

現実を忘れる一時の為に、そして、その現実さえも幻に変えてしまう為に。