書名
しろがねの葉 [ 千早 茜 ]
引用
「隼人には野心もある。あいつには見返そうという意地が見え隠れしとる。悪いことじゃないが、躍起になれば目は曇る」
喜兵衛の喋り方が変わる。土や岩肌に目を凝らす時のような顔をしている。
「目が曇れば山に呑まれる。銀に目が眩んでも同じことじゃ。おまえはちゃんと眼(まなこ)をひらいておれ」
感想
2023年128冊目
★★★
第168回直木賞受賞作。
表紙の感じから現代サスペンスかミステリだと思っていたら、まさかの江戸時代の石見銀山の話でした。
上橋菜穂子さんの『精霊の守り人』が好きな人は好きな感じ。
貧しい農村に生まれついたウメ。
幼い頃から夜目がきくことを気味悪がられてきた。
ある日、村を抜け出した父母とはぐれ、ウメは一人流れ着いた河原で光る葉を見つける。
そこは、しろがね(銀)が算出される石見の山。
鉱脈を見つける山師・喜兵衛はウメを自らの養い子とし、ウメは鉱山で働き始める。
タイトルは、鉱脈を葉脈にたとえた内容から。
私はてっきり、女であることを隠してとか、女であるのに鉱夫として働いて…という話なのかと思った。違った。
銀山の話がメインではあるのだけど、私はそれよりも「女として生きること」の物語だなと思った。
女になんて、なりたくない。
いろんな物語で、日本の、外国の、過去の、未来の、現在の、物語で。
何度も何度も何度も、その言葉を聞いた。
初潮が始まる。血が流れる。汚れていると言われる。遠ざけられる。
胸が膨らむ。身体が丸みを帯びる。男たちの視線を集める。
危険だと言われる。誘惑していると言われる。
選択の余地なんてない、不可逆の肉体的変化。
女になんて、なりたくない。
どうしてその逆はないんだろう、と子供の頃からずっと思ってた。
男になんてなりたくないと、泣き叫ぶ男はいないのか。
育ちゆく自らの身を呪いながら生きなければならない男は。
この小説には、女形として踊る「菊」という少年が登場する。
私はこの存在があることが、いいなと思った。
男になんてなりたくない、と願っていた少年。
銀山というこれまで読んだことのない舞台設定で、「ほおおおお」と感嘆の息を漏らしながら読んだのだけど、どうしてもウメのことがどうにも好きになれなくて、それは周りに隼人とかヨキとか龍とか菊とか、イケメンがみんなウメを好きという少女漫画もびっくりのハーレム状態だからだと思った…。(そういう読み方するのどうかと思うんだけどさ)