DOHCの仕組みと歴史
出典:wikipedia.org Author:Stahlkocher CC BY-SA 3.0
DOHCとは「ダブル・オーバー・ヘッド・カムシャフト」の略称です。直訳すれば、カムシャフトをエンジンヘッドに2本備えているという、エンジンヘッドのレイアウトを表現しています。
一般的な自動車が採用するレシプロ4サイクルエンジンでは、DOHC、SOHC、OHVなど、カムシャフトの位置をはじめとするエンジン部品のレイアウトに分類されます。
そのエンジン部品であるカムシャフトの役割は、吸い込んだ空気をシリンダー内部に入れるためのバルブを開け閉めすることと、燃焼が終わり不要になった排気ガスをシリンダー外へ出すためのバルブを開け閉めすることの2つを目的としています。
日本ではじめてこのDOHCエンジンを搭載したのは、東京オリンピックの開催を翌年に控えた1963年でした。
その年に販売されたホンダ初の四輪車であるホンダ T360という360ccエンジンを搭載した軽トラックに搭載されたDOHCエンジンは、30PS/8,500rpmというスペックを誇りました(当時の軽自動車の制限は360cc)。
当時の標準的な出力はスバル 360が16PS/4,500rpmを発揮だったので、およそ倍のパワーが出ている比較的パワフルなエンジンだったのです。そのエンジンは水冷式で、オールアルミ製の4気筒DOHCエンジンでした。
当時の軽自動車の定番だったカムやバルブを持たない2ストロークエンジンと比較すると、チェーンソーや原動機付自転車と同じ仕組みの空冷2ストロークエンジンでは、比較することが間違いとも思える程に別物といえる高性能エンジンでした。
当時は首都高や、東海道や甲州街道、中山道などの五街道や、オリンピック道路の設置など、道路網がやっと本格的な整備を迎えたころであり、東京、横浜エリアでは、まだ道路インフラは需要に対し未発達で、国道は渋滞に次ぐ渋滞があり、環境問題が強く叫ばれるようになったそうです。
例えば、1965年に大気汚染気象ハンドブックが出版されて、1966年に大気汚染研究という学術誌まで創刊されるような状態で、1968年に環境に対する世論が高まった結果、「公害国会」が開かれ、1970年には大幅な法改正がおこなわれました。
その結果、自動車のエンジンは空冷2ストロークエンジンは少なくなっていき、水冷4ストロークエンジンが中心になってきます。
1970年代までにはそのスペック競争による進歩、盛んだったモータースポーツ活動によって、名機と呼ばれるエンジンが多くありました。
当時、最先端技術の一端を担う技術のDOHCでしたが、1970年はトヨタ・日産の日本グランプリの撤退、そして中止、1973年の第1次オイルショックが起こるなど「冬の時代」と呼ばれています。
とはいえ、1971年に富士グランチャンピオンレースが行われ、そのサポートレースだったシルエットフォーミュラでは、フロントバンパーに「4VALVE DOHC RS-TURBO」と書かれた赤黒でのTOMICAカラーDR30型スカイラインが印象深い方も多いのではないでしょうか。
そして、1989年に世界初の可変バルブシステムのVTECがホンダ インテグラに搭載されます。バルブの開閉量(リフト量)を、切り替えるこの仕組みは吸気側に搭載され、DOHCのエンジンのハイパワーを求めていた効率化がされていきます。
ホンダ以外のトヨタや三菱なども、追いかけるように可変バルブシステムをVVT-iやMIVECと呼び、エンジンの燃焼効率向上をめざしていきました。
この頃にはもうDOHCは当たり前になっていき、より効率化を求めるために4気筒で16バルブ(吸気2:排気2が4燃焼室分)が通常であったエンジンが、20バルブ化されたエンジンなどが発売されます。
これは、カムシャフトが吸気側、排気側に分かれていたことで、燃焼室に対しもう一つバルブが付けられるスペースを作ることができたためと言い換えることもできます。
例えば、AE101型カローラ系の4A-GEUや、H22A型のミニカダンガンの3G83などが代表的な車種といえるでしょう。
DOHCは、2020年現在ほとんどの車種、グレードで採用される一般的なエンジンレイアウトとなりましたが、かつては高性能エンジンレイアウトとして、レーシングカー、高級車に採用されるエンジンだったのです。
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レースから省燃費走行までこなす万能エンジン
DOHCエンジンは1960年代に登場したホンダ S360や日産 スカイライン2000GT-R、トヨタ 2000GTなどに搭載されるものの、出力性能のみに着目したスポーツエンジンやレーシングエンジンとしての用途に限定されていました。
例えば、スカイライン2000GT-Rや、フェアレディZ432Rなどに搭載されていたのがDOHCのS20で、R380という当時FIAグループ6カテゴリのレーシングカーに搭載されたGR8というエンジンを、市販化するためにパワーを抑えたDOHCクロスフロー仕様のエンジンです。
そのS20のスペックは、最大出力160ps/7000rpm、最大トルク18.6kgf・m/5600rpmを誇ります。当時、日産では一般的な排気量のエンジンであったL20と比較すると、初期型のUSツインキャブ仕様(ハイオク)で、最大出力115ps/5000rpm、最大トルク16.5kgf・mとなっており、トルクで112%、パワーに至っては139%の性能がありました。
しかし、1970年の大気浄化法(マスキー法)の制定以降、年々厳しくなる排出ガス規制への適合手段としてDOHCエンジンの燃費性能に着目し始めたのはトヨタでした。
燃費性能と高出力の両立と、設計自由度の高さに着目し、実用DOHCエンジンを多くのトヨタ車に搭載します。
例えば、2Tをベースにヤマハ発動機がDOHC化した2T-Gエンジンは、TA22型セリカGT(ダルマ)や、TE27型レビン・トレノ(ニーナナ)に搭載されました。
このエンジンは、最大出力115ps/6400rpm、最大トルク15.0kgf・mという70年代を通して30万機以上作られたエンジンです。
1970年代の日産の主力はL20で、610ブルバード(サメブル)や130ローレル(ブタケツ)、に搭載されていたエンジンがSOHCだったため、「DOHCといえばトヨタ」というイメージを定着させたエンジンでもあります。
パワーやトルクに大きな特徴があるエンジンではありませんが、その素材の良さから、レースフィールドでも活躍し、1972年のRACラリーにワークス参戦し、セリカ1600GTで優勝。
翌年の世界ラリー選手権では、カローラ1600でプレスオンリガードレスラリーに参戦、トヨタ初のWRC優勝、スパ24時間レースにセリカ1600GTで参戦、総合9位、クラス優勝など、オンロード、オフロード問わず、実績のあるエンジンです。
このことから、まさに2T-Gは万能エンジンといえます。
ところで、1600ccの4気筒エンジンでヤマハといえば、某漫画でも有名なAE86や、国産初のミッドシップであるMR-2に搭載される、4A-GEが有名です。その祖先にあたるのがこの2T-Gでもあることは知っておきたいところで、まさに名機の生まれる背景には、名機ありといった具合です。
また、他メーカーでもDOHCを搭載した車は、いずれも高性能を意識したモデルが多くありました。時がたつにつれ、こういったエンジンで蓄積したノウハウはドロップダウンしていき、DOHCは一般化していきます。
例えば、80年代になればホンダは、量産車であるAG型シビック(ワンダー)にDOHCのZCエンジンや、DR30型スカイライン(鉄仮面)に搭載されたFJ20などがその代表例といえるでしょう。
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DOHCとSOHCとの違い
冒頭の通りDOHCは、ダブル・オーバー・ヘッド・カムのことで、エンジン本体の上部(ヘッド)に吸気用カム、排気用カムの計2本が搭載されるレイアウトのエンジンをさします。
その点SOHCは、シングル・オーバー・ヘッド・カムのことで、エンジン本体の上部にカムが搭載されているのは同様ですが、吸気用と排気用が並んで1本にまとめられており、2個並ぶバルブを、適宜1本のカムで開閉させます。
こういった構造の違いにより、部品の形状や、特性が異なります。
SOHCは、カムが1本しかないので、見た目のエンジン上部のサイズが小さく、車体に対してエンジンの見た目が貧弱かなと思うような場合もあります。
しかし現在では技術が進歩し、ノウハウもたまり、SOHCで4バルブとか高回転域でもDOHCに近い性能を出すことができるようになったといえます。
そのため部品数が少なく、安価に製造でき、設計が比較的容易なSOHCは、量産型のエコノミーなエンジンとして、DOHCは緻密な制御が必要なスポーティーなエンジンとしての立ち位置を確立していったという違いもあります。
また、コンパクトなエンジンでも効率化できるDOHCは、ホットハッチや、ボーイズレーサーと呼ばれた自動車文化を形成していきます。
現代的にいえば、スイフトスポーツや、アルトワークスなどが該当しますが、90年代でいえば、VTECのEF型シビックSiRや、EP型スターレットターボ、N14型パルサーGTi-Rなどには、ハイパワーエンジンとしてDOHCのエンジンが搭載されていました。
SOHCと比較、DOHCのメリットは
DOHCの最大のメリットは、吸気側のカム、排気側のカムがそれぞれのバルブを制御すればよいという点です。
過去には、DOHCがSOHCに対し圧倒的なスペック勝ちをしていた時代がありましたが、近年ではそこまでのものはありません。
例えば、VETCに代表される可変バルブタイミングシステムも研究が進んで、DOHCであろうがSOHCであろうが関係なく搭載されて、特別区別されることはありません。
特に、一般道を走行してお買い物や軽いドライブに行く程度であればDOHCの恩恵にあずかることはほとんどありません。SOHCでも十分に事足りる性能を発揮するエンジンも多いといえます。
また、高速回転するカムが1本で済むSOHCは、高額な部品が1つ少ないエンジンともいえ、製造コストが安く、販売価格を下げることができるというメリットは、ドライブサポートのセンサーや、付加価値の増大に伴う、販売価格の高騰においてわずかな差の決定打になったり、ディーラーオプションがちょっと付けられたりといった差になるのではないでしょうか。
では、DOHCが無駄に凝った仕組みを持った、自己満足の塊のようなエンジンかといえばそうではありません。DOHCにすることでカム1本あたりの重量が軽くできます。
何Gもかかる超高速回転部品にとって、数グラムの軽量化は、何十kgものモーメントを抑えることができるのです。
そのためそこが少し軽いだけで、キビキビとしたレスポンスをするエンジンを作るための助けになります。助けになるとしたのは、キビキビしたレスポンスを実現するためにはカム1カ所だけでなく、エンジントータルで回転部品を意識しなければならないためです。
例えば、クランクシャフト、クランク、ピストン、バルブ、コンロッド、MT車であればフライホイールといった、全体でバランスをとることが重要です。
DOHCがスポーツエンジン向きといわれる理由でもあると考えられますが、こういった部分のひとつであるカムシャフトは、自動車を煮詰めて煮詰めて完成されるスポーツカーにとっては重要なもののひとつで、メリットでもあります。
DOHCもSOHCも、高圧縮・希薄燃焼の時代
近代の燃費競争では、国内外問わずエンジンスペックの圧縮比を見る限り、希薄燃焼を各メーカー共通して開発がすすんでいると考えられます。
具体的な数値ですが、2019年発売の シトロエンC5エアクロスで圧縮比16.7、街中でよく見かける2015年発売のC220dも16.2という数値で、ヨーロッパ車の多くが軒並み高い印象です。
日本車では、2020年発売のCX-30が15.0で、街中で見ない日は無い2014年発売のフィットでは13.5といった具合です。
圧縮比は、平均的なエンジンであれば10前後が一般的だったこれまでに対し、急激な上昇を見せています。高圧縮エンジンは、かつてはハイコンプエンジンといわれ、チューニングカーの超高回転型エンジンのイメージとは大きく異なります。
また希薄燃焼というのは、少ない燃料、空気が多い状態での燃焼を意味しています。この状態では通常、ノッキングが起きやすいというデメリットがあります。
しかし、圧縮比を高くしてノッキング対策を行うことで、低燃費を目指す考え方です。ガソリンエンジンの理想空燃比が14.7(燃料1:空気14.7)に対し、1996年に発売した三菱 パジェロの直噴GDIエンジンは、空燃比が18から20という比率です。
空燃比を高くする手法としては、可変バルブタイミングによって、吸気側バルブを制御するカムのリフト量を増やし、空気をたくさんエンジンに送り込んだり、エンジン自体の排気量を小さくして、コンパクトなタービンで低回転から空気を押し込んだりする、ダウンサイジングターボなどさまざまです。
かつてはハイパワーの代名詞だったターボや、高性能の代名詞だった可変バルブタイミング、他には5バルブといったバルブそのものを増やすなど、クルマの歴史と共に、30%から40%といわれる燃焼効率の向上を目指し、進歩してきた結果でもあります。
2020年4月の東工大と慶応大学の共同研究発表では、高圧縮エンジンと、超希薄燃焼において熱効率を52.6%まで向上させることに成功したという発表があります。
今後もこういった高圧縮、希薄燃焼のエンジンが増えてくると予想されます。DOHC、SOHCに限らず、こういった数値にも注目です。
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