親しみやすい町の洋食屋さんと自由な多国籍料理店のブレンド : エムス キッチン

ディナーセットで山椒カレーを頼みました。ドリンクはラッシー。料理の味とお店の様子は、親しみやすい町の洋食屋さんという感じですが、それに収まらないこだわりのようなものも見え隠れしてそこが面白かったです。

ラッシーとサラダが先に到着。ラッシーは甘く味付けされたもの。飲みやすい。

前菜盛り合わせは、なぜこれを？と思わせるとりあわせ。エスニック、中華、フレンチなどが並びます。味は一つ一つ違っていて、ゴマ油が香るもの、トマトベースのもの、などいろいろ。ただ、カポナータかラタトゥイユっぽいものが2つありました。。この二つは味が同じではないけど似てました。ラッシーと同じく、前菜はどれも食べやすい味でした。量がどれも少しづつで、丸い大皿に配置されています。中心にあるご飯も量は少な目（お代わり可、ナンも同じ）。ホテルの食べ放題で和洋中華エスニック何でもあります、みたいなものを食べた時のよう。あるいは、多国籍幕ノ内弁当というのがあったらこんな感じではないか、というとりあわせ。ナンはちょっと焼けすぎてしまってごめんなさい、と店員さんが謝っていましたが、きっと2か所ほど黒く焦げているところがあったせいでしょう。焦げのあるピザなんかと同じ感じで自分は全く気にならずおいしくいただきました。ナンも甘さがあって食べやすかったです。パパダムもパリパリ、香りよく仕上がっていておいしかったです。前菜の中では、キッシュが生クリームを多めに使っているせいもあってかとても香りよく仕上がっていて自分好みでした。前に「ここのキッシュはおいしいな」、と思ったことのあるフレンチのお店を思い出したぐらいでした。小さなコロッケは、具は日本のコロッケに似ているけれど緑色も入っていて香りはスパイスが効いていて、全体としてはおいしい、という新鮮な体験でした。春雨と野菜の中華風炒め物のように、おいしいけど特に目新しい味ではないものもいろいろ。

メインの山椒カレーもあまり間をおかずに到着。ネパールの山椒が入っていますと書いてありましたが、山椒がかなり効いていて、自分には嬉しい一皿です。ただ、香りには違和感を感じました。食べログのレビューアーさんが誰も言及してないのでたまたま何かのミスでこうなったのでしょうか。（他のサイトも含めると香りが苦手だったと書いている方は一人だけいましたが。）食べ物っぽくない香りだったので、「入り口でつけたアルコール消毒液の匂いが手に残ってたか？」「今トイレから出てきた人がまとってきた空気？」などと一瞬考えてしまうほどでした。ですが、一口もう一口と食べるたびに同じ匂いがして、カレー自体が、ちょっと奇妙な匂いをまとっているようだ、と思いました。その匂い以外はおいしく、ご飯のおかわりも頂いて完食しました。小さくさいの目切りにしたニンジンや、細く切ったタケノコ、プリっとしたひき肉など食感が結構面白かったです。

最後にデザートまで。しっとりとしたチョコレートのパウンドケーキのようなもの。香りがよかったです。カレーの後だったので少し冷えているのもよかったです。

これで山椒カレーを頼まずにもう少し当たり前のカレーを頼んでいたら、きっと全体的に食べやすく感じる程度になっていたかなと思います。インド風と欧風の良いところを取り入れた、と説明されているお店のスタイルも、広く日本人の口に合う形に仕上げるためなのかな、という印象に落ち着いたと思います。山椒カレーはそこに収まらないもので、そこに面白さを感じました。

お客さんも、春休みが終わる前に実家にでも行ってきたのかな、という話が聞こえた小さい子ども二人とお母さんのグループ、60前後のおばあさん、などディープなカレー店にはあまりいないタイプの人がいます。

店員さんは他のレビューアーさんもほめていましたが、扉を開けてお客様が帰るのを見送りながら挨拶したり、常連客らしい高齢の女性のお客さんにいつもありがとうございますとさりげなくお礼をしていたりして、親しみやすさと丁寧さの配合比がいい感じでした。お客さんの中にも、美味しくいただきました、と店員さんに挨拶している高齢のご婦人がいました。襟付きの白いシャツを着て黒いエプロンをつけて、まじめに、心を込めて仕事にあたっているような印象がありました。お皿を持ってきた時に「どうぞ」ではなく「お願いします」とおっしゃっていたのも真面目さの現れのように感じました。シェフの方も髪を整えて、シェフらしい格好をして、やっぱり真面目に仕事にあたっているような印象。

店内の雰囲気も親しみやすい感じで、厨房には子どもが描いたと思われる絵が2枚ほど貼ってあったり、隅には段ボールが積んであったりして肩がこらない、気取らない場所だと感じました。でも、壁には以前ヨーロッパのネパール料理屋さんでもこういう絵を見たな、と思い出させるような絵が2-3枚飾ってありました。高い山脈、山の中を行く人、荷物を運ぶヤクのような動物、などを色彩豊かに描いたようなものとか。音楽は60年代のアメリカのフォーク・ミュージックみたいなのがずっとかかっていて、お店をやっていらっしゃるお二人はこの音楽が流行していた当時には、音楽に夢中になるような年齢ではなかっただろうし、お客様向けなのかな、ちょっと変わったチョイスだな、と思わされました。こういうちょっと変わったところがこのお店にはあって、面白いな、もしかしたらわざわざネパールの山椒をよく効かせたカレーを作ることや、そもそも普通に誰にでもわかりやすい中華や洋食だけを出すお店にしなかったことともつながっていたりするのかな、と思わされました。