なぜハリケーン 「ミルトン 」はフロリダの空を紫色に染めたのか?

フロリダ州を襲った大型ハリケーン。上陸直前から通過するまでの間に、空が紫色に染まるという奇妙な現象が観測された。この空の色は、大気中に通常とは異なる量の水蒸気やちりなどが含まれているときの光の振る舞いを示している。
A brilliant sky after Hurricane Milton passes by Fort Myers Florida on Wednesday Oct. 9 2024.
ハリケーン「ミルトン」が通過後、フロリダ州フォートマイヤーズで観測された紫色の空。Photograph: Andrew West/Reuters

ハリケーン「ミルトン」が10月9日(米国時間)に、5段階で上から3番目の勢力「カテゴリー3」の暴風雨となってフロリダ州に上陸した。ハリケーンが接近する直前、上空が不吉な紫色に変わったと、多くの人が報告した。なにかの警告なのだろうか? そうとも言える。気候変動による大惨事は私たち人間の行動が引き起こしたのだから。それでも科学的に説明ができる自然現象であることに変わりはない。どういうことなのか、順を追って説明してみよう。

光と色

可視光線は、電磁スペクトルの狭い帯域で、約700~380ナノメートル(nm。1nmは1mの10億分の1)の範囲にある。この範囲内で、人間の目は異なる波長を色として解釈する。波長の長いものから順に並べると、赤、オレンジ、黄、緑、青、藍、紫(つまり虹の色)となる。

人間の目が色を認識するセンサーは3種類しかなく、それぞれが赤、緑、青の光を感知する。各センサーが感知する光の強さと、3つの色の組み合わせによって、ほかのすべての色が生まれる。目がすべての色を同じ量だけ感知していれば、白色と認識される。紫色は380nmに近い単一波長で、人間の視覚がとらえることができる光の限界の範囲内に位置するものだ。

なぜ空に色があるのか?

太陽の光は白色だ。それなら、なぜ空には色があるのだろうか?その理由は、電磁波が大気中の微粒子にぶつかると、その一部が散乱するからだ。どう散乱するかは、粒子の大きさと光の波長によって異なる。酸素分子や窒素分子のような非常に小さい物体の場合、波長の短い光(青や紫)は、波長の長い光(赤やオレンジなど)よりも散乱されやすい。

つまり、太陽光が大気を通過するとき、赤や黄はほとんどそのまま通過し、青や紫は散乱する。地表に立って見上げると、青や紫の光が散乱しているのが見えるだろう。晴れた日の空が青く見えるのはそのためだ。

これは、日没や日の出のときに太陽がより赤く見える理由の説明にもなる。太陽が空の低い位置にあると、白色光は大気の中を通る距離が長くなり、青色は早い時点で散乱してしまう。そのために、より多くの赤色光が通過して、きれいな赤い夕焼けを生むことになる。

なぜ空はいつも紫色ではないのか?

さて、ここで問題だ。わたしは短い波長のほうが長い波長よりも光が散乱すると説明した。それは紫が青以上に散乱されることを意味する。ではなぜ、空はいつも紫に見えないのか?その理由はふたつある。

第一に、太陽が光を発するとき、光の強さはすべての色で均等ではない。実際、太陽はより波長の短い光(青と紫)よりも、より波長の長い光(赤と緑)で、より強い光を生成する。そのため、太陽光が大気に当たると、単純に紫色よりも青色光のほうが多くなるのだ。

第二の理由は人間の目に関係している。人間が感じられる色は赤、緑、青の3色だけなので、波長がより短い紫には青ほど敏感ではない。そのため、空が青と紫の両方の波長を散乱する場合、人間の目は青を好む。実際には空はおそらくわたしたちが想像しているよりも紫色なのかもしれない。

ここでもうひとつ自分たちで確認できる重要な観察ポイントがある。空の色はひとつではない。確かにクレヨンには「そらいろ」と呼ばれる色が存在するかもしれない。しかし実際の空の色には、さまざまな色が混ざり合っている。だからこそ空は美しいのだ。

ハリケーンで空が紫に見えた理由

ハリケーンは紫色ではない。そのことを誰しもが知っている。それでも(色について語る)のは楽しい。しかし、ハリケーンによってなぜ空が紫色に見えたのだろう? 通常これは太陽が空の低い位置にあるとき、つまり光が大気中をより長い距離で通過する時に起きる。夕方や夜明けのバラ色が、散乱した青や紫の光に重ね合わされ、紫色の混合色をつくり出すのだ。

大気中に存在するのは純粋な空気だけではない。水蒸気、ほこりやちりなど、散乱を引き起こすほかの物質が常にたくさん存在している。熱帯低気圧の発生時には、さらに多くの物質が上空に舞い上がる。最後の要因としては、頭上の雲が青空を遮ってしまうこともあげられる。これらすべてが誘因となり、空に多種多様な色を生み出すことになる。そのひとつが紫なのだ。

(Originally published on wired.com, translated by Miki Anzai, edited by Mamiko Nakano)

※『WIRED』によるハリケーンの関連記事はこちら気候の関連記事はこちら。


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