
リズ・ウィルコックス(Liz Wilcox)氏は、自分は人に何かを教えるのが好きだと思っていた。彼女は教育学の学士と教育リーダーシップの修士の学位を持っている。
2016年に教師からブロガーに転向したとき、「私は『起業家(entrepreneur)』という言葉をグーグル(Google)で検索しなければなりませんでした。それほど無知だったのです」と、36歳のシングルマザーのウィルコックス氏はBusiness Insiderに語った。
私は間違いなく、心の底から起業家なのです。ただ、それを表す言葉が自分の中になかっただけです。
彼女のキャリアの転機は、娘が生まれた直後に訪れた。
伝統的な公立学校の教師を続けることは、私には向いていないことに気づきました。ブログを書くことでお金を稼げると聞いて、RVの旅行ブログを始めたのです。
ウィルコックス氏はそう語る。彼女は当時、RV(キャンピングカー)で暮らしていたのだ。
ウィルコックス氏はブログを書くことで生活費を稼いでいたが、もっと重要なことに、彼女は自分にニッチな才能があることに気づいた。彼女は多くの人にメールを読んでもらうのが本当に得意で、そのプロセスを楽しんでいたのである。
私はメールマーケティングが大好きです。これはいつも言っているのですが、私ほどメールに情熱を傾けている人は他にはいないでしょう。
その3年半後、ウィルコックス氏は自身のブログを3万ドル(約480万円、1ドル=160円換算)で売却し、そのお金を新たなメールマーケティングビジネスの立ち上げ資金に充てたのだった。
それほど大きな金額ではないので、かなり慎重に進めましたが、それでもソフトウェアや外部の請負業者に依頼する小さな仕事の代金の支払いなど、ビジネスの立ち上げに必要なあらゆることに間違いなく役立ちました。
サブスクリプションビジネスを立ち上げ、登録者数を4500人にまで増やす
ウィルコックス氏には自分がターゲットとする顧客がどのような層か、最初からわかっていた。「初心者」だ。
私には教育に関するバックグラウンドがあります。初心者と一緒に仕事をすることに慣れているのです。実際のところ、私は初心者の人が大好きで、メールに関することを説明するのが大好きです。
さらに当時、ウィルコックス氏はこの市場にはギャップがあることに気付いた。
「オンラインビジネスが本当に急激に成長したのは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの期間です」とウィルコックス氏は話す。その結果、メーリングリストの作成、登録者の維持、最終的には製品の販売などの彼女の専門知識に対する需要も急増し、「10または20のモジュールに分かれた22時間のコンテンツといった高額で大規模なオンラインコースが多数」生まれたのだった。
ウィルコックス氏はその逆を行くことにした。
私は『毎週これだけのコンテンツしか提供しません。これ以外は何も必要ありません。料金はたった9ドルです』としたのです。これはほとんど聞いたことのないようなビジネスモデルでしたが、料金はネットフリックス(Netflix)を参考にしました。昔、ネットフリックスの料金はたった9ドルだったのです。

しかし、コーチングサブスクリプションを開始してから最初の6カ月から9カ月は「かなり低調だった」とウィルコックス氏は語る。彼女は自分のコンテンツには自信があったが、最初に販売面で確信を得たのは、2021年、具体的にはその年のブラックフライデーの週末だった。
『年間パス』を販売しました。1年分の料金を払うと、さまざまな特典がもらえるというものです。『この年間パスを100個だけ販売します』という件名のメールを送信しました。どうなるかわかりませんでしたが、今すぐ購入しなければという何らかの動機づけにしたかったのです。
彼女はこの年間パスの販売を48時間続けるつもりだったのだが、わずか2時間で完売した。
2時間で1万3000ドル(約208万円)くらいを稼ぐことができました。この時、私は『よし、これはいけるぞ 』と思ったのです。
そしてウィルコックス氏は2週間後に年間パスの販売を再開し、さらに225人の登録者を集めた。
「わずか2週間で、ほとんどの人が1年間に稼ぐ金額よりも多くのお金を稼げました」と彼女は言う。
それまでウィルコックス氏は、このサブスクリプションビジネスの他に、個人クライアントからの仕事によって収入を補っていた。しかし2回目の年間パスの販売の後、「もうクライアントからの仕事を引き受けることはありませんでした」と話している。
2024年6月現在、ウィルコックス氏のサブスクリプションビジネスには4500人の登録者がいる。月額9ドルなのでサブスクリプション収入だけは月に4万500ドル(約648万円)、年間で50万ドル(約8000万円)近くを稼いでいるのだ。また彼女はアフィリエイトマーケティング、ライブワークショップ、パートナーシップからも収入を得ている。Business Insiderは、11月のブラックフライデーなど特に好調な月には、彼女の月間売上が10万ドル(約1600万円)に達しているのを確認している。
ビジネスは可能な限り受動的に。「この30日間で働いたのは10時間」
ウィルコックス氏の収入は極めて受動的だ。彼女は「この30日間で働いたのは10時間」と見積もっており、6月の時点で2024年内のコンテンツはすでに作成済みだ。しかし、このような状態にするには何年もの作業が必要だったという。
このビジネスの最初の2年間は大きな苦労はありませんでしたが、受動的ではなかったことは確かです。私は毎週、コンテンツの作成やアイデアの考案、登録者の獲得に取り組みました。以前はこうしたことにかなりの時間がかかっていました。
またウィルコックス氏はポッドキャストなどで「エバーグリーン・マーケティング」を行うために時間を費やした。
ポッドキャストは永遠に残ります。録音したのは今日だとしても、1年後に誰かが聞いて、登録してくれるかもしれません。
そして長期的な視点を持つことが成功の鍵だったとウィルコックス氏は付け加えた。
ある人が私に5000ドルの仕事をオファーしたとします。『今すぐ必要なのはこの5000ドルなんだから、ポッドキャストは後回しにしよう』と言うのは簡単だったでしょう。でも、私には、数年後にポッドキャストが5000ドル以上の価値になることはわかっていたのです。
またウィルコックス氏の低価格モデルと、「一口サイズ」のコンテンツを提供する戦略も、彼女のビジネスの受動性に貢献している。
「いま、受動的な収入は非常に話題になっていますが、多くの場合はコンテンツも料金もどんどん増えていきます。多くの人は『このコンテンツを追加して料金を上げよう。このコンテンツも追加して料金を上げよう』となっていきます。でも私は、決して料金を上げることはしたくないのです」とウィルコックス氏は話す。
私のビジネスは非常に責任の少ないタイプのサブスクリプションビジネスなので、受動的であることに適しているのです。

そしてこのようにして受動的な収入を生み出したことで、ウィルコックス氏はテレビの人気リアリティ番組の「サバイバー(SURVIVOR)」に参加するという長年の夢を叶えることができた。
「ロサンゼルス国際空港に行くと、すぐにスマートフォンを没収されます」とサバイバーのシーズン46の参加者だったウィルコックス氏は言う。
5週間、スマートフォンもノートPCもなく、外部の世界とのつながりは一切ありませんでした。『もしもこの間にビジネスがダメになってしまったら、私の人生も終わってしまう。どうしよう』と思っていましたが、実際にはそんなことはありませんでした。ビジネスは順調そのものだったのです。丸5週間も仕事から離れることができたというのは、ビジネスオーナーとして本当に素晴らしいことだと感じます。
番組が終了した今、ウィルコックス氏はサブスクリプションプログラムを改善して現在の登録者を満足させ続ける「メンテナンスモード」から「成長モード」へとシフトした。現在の彼女の主な目標の1つは、今後12カ月から24カ月で登録者数を1万人に増やすことで、そうなればサブスクリプション収入は年間で100万ドル(約1億6000万円)以上になる。
「私がこのビジネスを継続する本当の理由は、お金を稼ぐことではなく、どんなことが可能かを多くの人に見せたいからです。1万ドルも請求することなく、100万ドル規模の商品を提供することができると示したいのです」とウィルコックス氏は言う。
私にとっての成功の定義は、どんな車に乗るかとか、娘をどんな学校に通わせるかではありません。どんなことが可能かを多くの人に示すことなのです。
※この記事は2024年7月1日初出です