教員の不足人数 年度当初と比べて9月時点では1.3倍にまで拡大

「ある日突然、2つのクラス合同の授業が始まった」

「ふだんは授業をしない教頭先生が教壇に立つ」

こうしたことがいま、全国の教育現場で起きています。

NHKが取材を進めたところ、不足している教員の人数は、ことし5月の時点と比べて9月の時点では1.3倍にまで拡大したことがわかりました。

ライフスタイルや社会の仕組みが変わる中で、子どもたちの学びを守るために、学校はどう変わっていけばいいのでしょうか。

時間割りを変更、2クラス合同授業も…

年度途中でさらに拡大する教員不足。子どもの学びに影響が出ている所もある一方、解消に向けた“特効薬”はなく、自治体では頭を悩ませています。

このうち政令指定都市の千葉市を除いた千葉県内の小中学校と高校などでは、ことし5月の時点で定数に対して不足している教員の数は196人でしたが、8月には1.5倍近い290人にまで増えました。

なぜ、年度途中で教員不足が拡大したのか。

千葉県教育委員会によりますと、病気や精神的な面での療養などに加えて、育休や産休を取得する教員が増えていることが大きいといいます。

千葉市を除いた県内の小中学校と高校などではおよそ2万9000人の教員が働いていますが、20代と30代が全体の6割を占めているということです。

さらに近年、男性教諭が育休などを取得するケースが増えていることも理由の1つだといいます。

千葉県教育庁小中学校人事室 金親秀樹室長
「団塊の世代の教員が多く退職したあと、それを補う形で若い世代の採用を増やした。女性教諭の育休取得者は、予定日が分かるので、代わりの講師を見つける時間を比較的、確保できるが、男性教諭については育休を取るのかなど個々の考えにもよるので、予測が難しい。今後もこうした産休や育休を取得する人が減ることはないだろうと見込んでいる」

一方で、教員の選考試験の志願者が2年連続で減っているため、教員不足を補うための非正規の講師を確保することも難しくなっているといいます。

このため学校現場ではほかの教員が授業やクラス担任を担うなどしていますが、負担は大きく、急きょ時間割を変えたり、2クラス合同で授業を行ったりするなどしている学校もあるということです。

千葉県教育庁小中学校人事室 金親秀樹室長
「子どもたちや先生たちが困らないよう、速やかに講師を現場に配置できるよう努めたい。教員になりたい人の数を増やしていくことが教員不足に対処する唯一の方法だと思うので、教員を増やす施策を今後も検討していきたい」

教員の不足人数 年度の途中で1.3倍にまで拡大

NHKでは都道府県や政令指定都市など全国68の自治体の教育委員会に対して、小中学校と高校、特別支援学校の教員不足の状況について聞き取りを行いました。

このうち、最新の状況を把握している43の自治体について年度当初のことし5月と9月時点の教員の不足状況を比べました。

その結果、不足している教員の人数はことし5月の時点であわせて1808人だったのに対し、9月の時点ではあわせて2397人と589人増え、年度の途中で1.3倍にまで拡大したことがわかりました。

最も多かったのは▽千葉市を除く千葉県で94人、次いで▽茨城県が89人、▽さいたま市を除く埼玉県が88人、▽大阪市など除く大阪府が87人などとなっています。

学校ごとにみると▽小学校(38%)と▽中学校(41%)がおよそ1.4倍、▽高校(19%)がおよそ1.2倍にそれぞれ教員不足が拡大していました。

主な理由としては、育休や産休を取得したり、病気で療養したりする教員の代わりの確保が難しいためで、自治体からは「教頭などの管理職が穴埋めをしている」とか「いざという場合の教員の欠員を補うための非正規雇用の講師の登録を希望する人が減っている」などの意見が聞かれ、子どもたちの学びへの影響が懸念されています。

文部科学省 3つの柱で働き方改革と処遇の改善

深刻な教員不足が続く中、待ったなしの状況となっている教員の働き方改革と処遇の改善。文部科学省は、3つの柱で総合的に進める方針です。

1つ目:「教科担任制」の拡充など教員の定数の改善

小学校の教科担任制を現在の5、6年生から3、4年生にも広げることや、新規に採用された教員が学級担任となった際、負担を減らすため、教科ごとの担任を配置すること、それに不登校やいじめの対応に専門にあたる教員を全国に配置することにしています。

こうした施策によって来年度、教員を7600人余り増やすとしています。

2つ目:給与の引き上げ

もともと公立学校の教員の給与は、「給特法」という法律で教員の仕事は特殊性があり勤務時間の線引きができないとして、残業代を支払わない代わりに一律で月給の4%が上乗せされています。

さらに、優れた人材を確保するため「人材確保法」と呼ばれる法律で一般の公務員より優遇措置を取ることが定められました。

しかし、一般の公務員の処遇改善が進む一方、上乗せ分の4%は半世紀にわたって据え置かれたままとなっていて、業務の負担が増える中、引き上げを求める声が相次いでいました。

このため、文部科学省は、▽上乗せ分を13%に引き上げるほか▽学級担任への手当を月額3000円、▽管理職の手当を月額5000円から1万円増額する方針です。

3つ目:学校での働き方改革のさらなる推進

▽校長と中堅の教員が一緒に参加する新たな研修を実施し、勤務時間の適切な管理や業務分担の見直しに生かしてもらうほか▽学校のインターネット環境を改善し、業務に使うクラウドシステムを各都道府県で統一化して学校でのペーパーレス化やクラウドの活用を進め、働きやすい職場作りを後押しすることにしています。

「教科担任制」その効果は?

小学校では、2年前から5年生と6年生に、中学校や高校のように教科ごとに専門の教員が授業をする「教科担任制」が導入されています。

文部科学省は、「教科担任制」を3、4年生にも拡充する方針で、その場合、担任の教員が一手に受け持っていた授業数を週3.5コマ減らすことができ、その分、負担を軽減できるとしています。

教科担任制が導入された小学校の現場はどんな効果が出ているのでしょうか。

山形県東根市では、5年生の算数と6年生の理科で、教科担任制を取り入れています。

その一つ、東根小学校では5年生の教科担任には、経験豊富で指導力が高い教員をあてています。

5年2組の学級担任の千葉千晶先生は、去年、採用された先生2年目です。算数の時間になって教室に入ってきたのは、教員歴29年のベテランの先生。千葉先生に代わって授業を行っていました。

このあいだ、千葉先生は何をしているかというと、職員室の自分の席で、次の授業に向けた準備や子どもたちが提出した宿題の採点作業などに時間を使っていました。

学校によりますと、教科担任制の導入でさまざまなメリットが出ているといいます。

まず、専門性をもつ1人の先生が教科を受け持つことで、5年生の3クラスで授業の進め方をあわせやすくなり、授業の準備も効率化できるようになりました。

さらに、必要な場合は学級担任もサポートとして授業に参加することで、子どもたち全員に目が行き届きやすくなったといいます。

一方で、よりケアが必要なのが“情報の共有”です。

放課後、教科担任と学級担任の先生どうしで、授業に追いつけていない子や様子が気になる子がいないかなどを密に共有し、授業の進め方など、意見を交わす時間を積極的に作っています。

子どもたちにも好評で、小学5年生の女子児童は「たまにほかの先生の授業も受けられて楽しいし、勉強を嫌だと思わずにできています。2人の先生からたくさんのことを教えてもらっています」と話していました。

学級担任の千葉千晶先生
「放課後にやっていた仕事を日中にできることで教材研究の時間も確保できています。教科担任制で、私の授業では見えなかった子どもたちの良さを知ることができていますし、子どもたちが抱える不安などにも気がつけると思います」

笹原良子校長
「教科担任制の導入によって若手の教員も時間や心に余裕が持ちながら指導力や学級経営力を高めることができていて、教職の魅力にもつながっています。教員不足の打開のためにはこうした環境作りと、教員のなり手を増やす施策を両立して進めていくことが大事だと思います」

専門家「学校の運営は本当にぎりぎりの状態」

文部科学省が教員の処遇改善策などを概算要求でまとめたことについて教員の働き方改革に詳しい東京大学の小川正人名誉教授は教科担任制の拡充などを評価する一方、引き続き、深刻な教員不足への対応を進めるよう指摘しています。

東京大学 小川正人名誉教授
「教員の授業力向上に加えて教員の負担が軽減されるため、新規採用の教員の離職率を下げることにもつながるなど、学校現場でも評価の高い施策だ」

小川名誉教授は、教科担任制の拡充について評価した一方で、教員の給与の上乗せ分を引き上げることについては、次のように指摘しています。

東京大学 小川正人名誉教授
「遅きに失した感があると思う。13%への引き上げは、月の時間外勤務の20時間分に相当する額に過ぎない。引き続き時間外勤務自体を減らす取組みを進め、月20時間を超えた場合は休暇を与えるなど、措置を検討する必要がある」

また、全国の学校現場での教員不足の深刻さを強調した上で次のように指摘しました。

東京大学 小川正人名誉教授
「育休や産休などによる欠員を補充するための非正規教員も不足していて、学校の運営は本当にぎりぎりの状態だ。国は、正規の教員と教員を目指す人を増やすための施策を積極的に図る必要がある。そのためには時間外勤務の削減の状況など毎年度検証し、施策の見直しやさらなる施策の充実を図るなど柔軟で大胆な取組みを進めていくべきだ」