中小企業の未来を考える 経営者セミナー

 鹿児島県内の中小企業経営者や個人事業主らが事業承継について学ぶ「中小企業の未来を考える経営者セミナー」が11月6~14日、県内7会場で開かれました。地域に根差した会社の存続は、地域の未来に大きく影響します。参加した経営者らは、事業承継の注意点や支援制度、企業の合併・買収(M&A)などについて、専門家らのアドバイスに耳を傾けました。

講演① 税理士法人MSパートナーズ代表社員 牧 真之介 氏

講演② 株式会社 M&A Biz代表 辻󠄀松 律男 氏

私たちが教えます 事業承継のエトセトラ

 各会場のゲストスピーカーとして、各業界でご活躍される経営者・専門家をお招きし、事業承継にまつわるエピソードや思いをご講演いただきました。

温泉ソムリエ 師範 六三四氏
温泉ソムリエ 師範
六三四氏
軸屋酒造(株)代表取締役社長 軸屋麻衣子氏
軸屋酒造(株)代表取締役社長
軸屋麻衣子氏
伊達醸造 富澤英里子氏
伊達醸造
富澤英里子氏

 県内の税理士を対象に、顧問先の支援にご活用いただけるよう、事業の継続・発展の可能性を広げる第三者承継(M&A)の概要や事例について紹介したセミナーを開催しました。

“地域の宝” 次代につなぐ

 今、企業や個人事業主が培ってきたさまざまな経営資源(人・資産・知的財産など) を後継者に引き継ぐ「事業承継」が注目を集めています。
 経営者の子や親族が継ぐ「親族内」や社内の「役員・従業員」のほか、近年は企業の合併・買収 (M&A)といった「第三者」によるケースも増えています。鹿児島県内の現状や第三者による事例を交えながら、事業承継を円滑に行うポイントなどを紹介します。
上園さん
栫さん
 雅商会はエンジンオイル専門の卸売業として1987年に鹿児島市で開業。前代表の栫雅哉さん(65)が時代のニーズに合わせて、中古車仕上げのボディー磨きやコーティングなどと事業を拡大。自動車ディーラーから高い評価を得てきた。
 しかし、6年前から、視力が低下するなど栫さんが体調面に不安を感じ始めた。息子たちは定職に就いていたため、後継者を外部から探すことにした。
 商工会議所を通じ県事業承継・引継ぎ支援センターを紹介され、第三者承継の買い手探しの支援を受けることに。買い手候補はなかなか見つからなかったが、2年ほどたった2023年5月頃、センターから「雅商会に興味を持っている人がいる」と連絡があり、面会することになった。

ビジョン決め手 第三者へ

 事業承継を申し出たのは上園文也さん(36)。当時、実家が営む自動車販売・整備工場に勤務していた上園さんは、自動車関連事業での独立を目指しており、顧客を引き継げるM&Aをネットで知った。当初は自分で売り手を探したがうまくいかず、金融機関の担当者から紹介されたセンターに連絡。雅商会の車両のコーティングやボディー磨きといった、これまでやったことのない事業に興味を持ち、面談を依頼した。
 面談を始めた当初、栫さんは上園さんの優しい性格が厳しい職人の世界で通用するか不安を感じたという。面会を重ねるうちに、ペットの飼い主向けのドッグランや車内清掃サービスなど、明確なビジョンを持っていたことが決め手となり、事業承継を決めた。
 栫さんは顧客との関係性を重視。引き継ぎ中は取引先訪問に同行するなど、事業承継が円滑に進むようサポートを続けてきた。

独自性加え事業拡大

 上園さんは社名はそのままに、店名を「マメシバガレージ」とし、承継した事業をべースにレッカー業を始めるなど、事業拡大を目指す。「栫さんが積み上げてきた手法に、自分なりのやり方を組み合わせ、時代に合った事業を展開したい」と意欲的だ。
 栫さんも事業承継から半年がたち「面談を重ねて上園さんの人となりを知ることができたので、安心して会社を渡すことができた。これから成長していくのが楽しみ。事業承継をしてよかった」と振り返る。一方、自身も趣味の和太鼓を生かし、イベント出演などのエンターテインメント事業や、幼稚園や福祉施設での演奏指導による起業を模索する。「幾つになっても好奇心は尽きない。これまでの経験を生かし『生涯現役』を貫きたい」と前向きだ。
県内企業“後継不在”半数近く
 地域の経済や雇用を支える中小企業も、近年は後継者が見つからず、事業が黒字でも廃業を選択するケースが後を絶たない。信用調査の帝国データバンク鹿児島支店の調べによると、2023年の鹿児島県内企業の「後継者不在率」は43.8%と、半数近くが後継者を確保できずにいる。
県内企業の後継者不在率
 一方、近年は国や鹿児島県、自治体などが事業承継を推進。コロナ禍の20年をピークに改善の傾向を見せている。また、M&Aによる事業承継が認知されるようになり、外部から後継者を招くケースも増えている。
 一方、コロナ禍が収束して再び人の動きが活発になり、事業承継に積極的な金融機関が県を超えて連携する事例や、外食産業が地元の味を広げようと、県を超えてM&Aに乗り出す傾向も目立つという。
 半面、2023年時点の、鹿児島県の社長の平均年齢は60.9歳と全国平均(60.5歳)を上回っており、今後は事業承継が加速するとみられる。同社鹿児島支店の日比生秀一支店長(44)は「特定の事業部門を切り離して承継するなど、M&Aのバリエーションも広がっている。時間的余裕を持って事業承継を進めるとともに、後継者が継ぎやすい、魅力ある事業展開がさらに求められる」と分析した。
早めの着手肝心
県事業承継・引継ぎ支援センター統括責任者
満澤 美智雄氏

鹿児島県内の中小事業者の事業承継をサポートする県事業承継・引継ぎ支援センター。満澤美智雄統括責任者(69)に、相談状況や円滑な事業承継について聞いた。

満澤さん
 2023年度にセンターが受け付けた、企業や個人事業主からの相談件数は243件、成約件数は40件と、いずれも過去最多となった(うち親族間の事業承継は29件、第三者間の承継は11件)。経営者の高齢化や後継者不足を背景に、第三者承継は年々増えている。
 一方、東京商工リサーチ鹿児島支店の調べでは、23年に休廃業・解散した県内企業は 516件と前年に比べ47件増え、その経営者の60.77%が70歳以上だ。
 経営者の高齢化は待ったなしだが、実際に事業承継となると、引き継ぐための取り組みや教育などが必要で、最低でも3年かかり、10年要する場合もある。健康面で明日何が起こるかも分からない。先延ばしせず、早めに取り組むことが肝心だ。
 センターでは後継者候補の紹介のほか、譲渡契約書作成のアドバイスや弁護士による契約書のリーガルチェックなど幅広く支援している。中小企業活性化協議会やよろず支援拠点と連携しており、相談内容によっては他の機関を紹介することも。経営改善に専門的な知識が必要な場合は専門家派遣制度を案内している。
 中小事業者は地域の財産。産業や雇用、顧客を守るためにも事業を後世につなぐことは重要だ。まずは相談してほしい。
鹿児島県事業承継・引継ぎ支援センター
TEL:099-225-9550 (9:00~17:00)
公式ホームページからメールでの相談も受け付けています。
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