NHK教育テレビの「こだわり人物伝」で、漫才師の花菱アチャコが紹介されている。 貴重な写真や映像の資料が見られるので、それなりにありがたいけれど、いまひとつ踏み込みが足りないというか、上っ面しか描いていないように思えて、不満が残る。 たとえば吉本興業がアチャコにやってのけた、数々の酷い仕打ちについては、ほとんど触れられてなかったりする。吉本興業が全面協力しているだけにNHK側が配慮したのだと思う。 アチャコが歩んできた道は平坦ではない。結果としてスターになったが、若い頃はドサ回りの旅役者として苦労を重ねたし、漫才師に転じて以降は、所属していた吉本興業に振り回されっぱなしだった。 明治30年(1897)に大阪の仏壇屋の息子として生まれた花菱アチャコは、新派の役者を目ざして山田九州男(山田五十鈴の父親)に弟子入りしたものの、一年で挫折して、旅回り専門の芝居一座を転々とする生活を送った。 大正1
