自分を得て、自分を喪う話。謎と伏線とドンデンと「えっ?」「えっえっ?」てんこ盛りで、読むときっと読み返すこと請合う。 現実の居心地のわるさに辟易しているが、行動するのは難しい。もっとも単純な解は逃走だ。少女は家を出て、記憶を失い、別の人格を得る。本当の自分を確かめるため、「自分を知っている人」から聞きだそうとするが、同時に忌まわしい過去と向き合うことになる。 このドラマは「自分とは何か」というテーマも隠しているので、答えを確かめる読みをしても愉しい。例えば、「自分とは(一貫した)記憶だ」「自分とは他者の目に映るキャラクターだ」と信じる人には、記憶喪失のヒロインが揺さぶりをかける。読者は、冒頭数ページを除き、物語の大部分を喪失後のヒロインとつきあうことになる。つまり偽の人格だ。だが、そのニセモノのほうが素直で愛らしい(かわいく描いているようにも見える)。彼女がそのキャラを喪い、本来の千寿(彼