〈回顧2010・論壇〉ネットの公論空間 産声あげる2010年12月18日 政治でも外交でも経済でも浮かない話の続く2010年だった。そんな中、文化の領域では、どのような営みが積み重ねられたのだろう。分野ごとに、今年を振り返ってみる。 ◇ 論壇の景色が変わったと感じさせられる一年だった。 象徴的なシーンの一つは、マイケル・サンデル著『これからの「正義」の話をしよう』の大ヒットだ。正義や善について考察する政治哲学の本が60万部も売れた。 千葉雅也は、1990年代に起きたもう一つの哲学書ブームと比較しつつ、こう述べた。『ソフィーの世界』ブームが「自分探し」現象だったとすれば、今回の底流にあるのは「社会探し」を求める気分だ、と(文芸・冬号)。 身近に貧困が広がり、国内総生産で中国に追い抜かれることも確実視される2010年。経済成長という戦後日本人の共通目標は、効力を失った。「私たち」を互いにつなぐ