電気自動車(EV)用電池の需要は増大する一方だ。電池材料の精製を中国が独占している点が懸念される。第1世代EVの寿命が近づき、大量の使用済み電池が出現すると予想される。素材回収技術の開発が急がれる。2040年には欧州の電池材料の6割がリサイクル素材になり、50年には鉱山採掘は不要になるとの予測がある。

 一部の国で電気自動車(EV)販売に陰りが見えるとはいえ、EV用電池の世界需要は2023年に約40%増加。今後もこのペースで増え続けそうだ。そのため、ほとんどのEVで使われるリチウムイオン電池の主要材料であるリチウムの需要は、30年には現在の2倍以上に増え、240万トンを超えると見込まれる。

 問題はリチウムの供給源だ。世界のリチウム埋蔵量は、炭酸リチウム(この形で回収される)換算で70%がアルゼンチン、オーストラリア、チリにある。

 ただし、それを電池向けに精製する事業は現在、ほぼすべてを中国が独占する。中国はマンガン、コバルト、黒鉛など電池に欠かせない他の原料の精製も掌握している。電池向け品質の黒鉛は、全量近くが中国製だ。それゆえ、中国が一部の原材料の供給を制限した場合、供給網が脆弱となることが懸念される。実際、過去にそうしたことがあった。

 そこで、欧米の立法機関や自動車会社は、地域内で電池供給網を構築すべく努力を重ねてきた。

 その努力が大きく前進しようとしている。電池リサイクルにおける最近の進展と一連の技術革新により、あと10年ほどで、世界の電池製造に必要な原材料は、リサイクルされた使用済み電池でほぼ賄えるようになるかもしれない。

革新続く回収技術

 リチウムイオン電池で最も高価なのは正極の部分で、一般にリチウム、マンガン、コバルトが使われる。充電時には正極のリチウム原子から電子が奪われ、リチウムイオンとなる。このイオンは電解液を通して逆側にある黒鉛(純粋な炭素の固まり)でできた負極に移動する。一方、正極で生じた電子は、充電回路を通じて負極に流れ、そこで再びイオンと合体して蓄えられる。

 放電時にはこれが逆転し、電子が回路を流れて機器(EVの場合モーター)を動かす。

 リチウムイオン電池の性能を安定、向上させる化学的方法はいくつかあるが、マンガンとコバルトが特に役に立つ。

 現在、電池のリサイクルは、大規模工場で出たスクラップから素材を回収する程度にしか行われていない。だが、第1世代のEVの寿命が近づいているため、遠からず、電池材料の豊富な「鉱脈」が出現する。コンサルティング大手PwCによれば、素材回収技術の革新が進み、欧州で生産される電池の最大60%の材料が40年までにリサイクル品になる可能性がある。

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