ここしばらくシニア社員の状況が気になっている。

 ちょっと前までは、新聞や雑誌を開けば、シニア社員問題の記事だらけだった。

 「働かないおじさん」「妖精さん」「しがみつくバブル世代」「捨てられる50代」といった不名誉なネーミングで呼ばれ、「どうすればシニア社員のモチベーションを高められるか?」「シニア社員のモチベーションアップのコツ」など、シニア社員のトリセツが紙面・誌面を陣取っていた。

 なのに、その「座」は若い世代に奪われ、今や、若い社員のトリセツだらけだ。

 話題になっていた頃は、シニア社員をなんとかしなきゃ! 労働人口が減っていくのだから、シニア社員をうまく使わないと企業に未来はない! という空気をたびたび感じた。

 が、今はどうだろう。

 仕事でお世話になった人たちから、「地方で起業します」「思い切って会社を辞めました」「左遷されたので暇しています」などなど、会社に見切りをつけた報告が相次いでいる。彼らはみな、「会社の顔」であり、現場のエースだった。なのに、散々尽くしてきた会社に居場所がない。あの人と仕事をしたい!と誰もが慕うプロたちが、「もういらない」と背中をたたかれ続けている。

 シニア社員を使わなきゃ的空気感は幻だった? 

 あるいは、とりあえずシニア社員のモチベーションアップに取り組んでは見たものの、「やっぱダメだね」と諦めてしまったのか。

 東京商工リサーチの最新調査によると、2024年上半期(1~6月)の上場企業における「早期・希望退職」の募集は36社、対象者数5364人に達し、前年同期比で1.5倍に増加。この数字はすでに23年の年間実績(3161人)を大きく上回り、年間1万人を超えるペースで進行している。

 しかも、6割がいわゆる「もうかっているうちに切っちゃえ~」の黒字リストラだ。

 つまり、黒字リストラがスタンダードになってしまったのだ。

 かつて行われていた希望退職は、リーマン・ショックや東日本大震災、新型コロナウイルスの拡大など、それなりの大義名分があったが、今はどんな大義名分があるのだろう。

 若手や高度人材をゲットするコストを得るためなのか? 若手に辞めてほしくないから、若手の賃金を上げるためにシニアを追い出すのか? あるいは大企業で必要なのは、階層最上階の椅子をゲットできるかもしれないエリート社員だけで、現場での実績やら蓄積されたスキルやらはいらん! ということなのか。

 まさか「みんなやってるから、うちも!」と長いものに巻かれた? とか。

 なんてことを思いながら、ある会合で「シニア社員どう?」的な話題を振ったところ、「これ知ってます? 差別ですよね」と、ある団体の報告書を教えてもらった。

 そのタイトルは「高齢社員のさらなる活躍推進に向けて」。日本経済団体連合会が作成し、24年4月に公開した。

「高齢社員って、ひどくないですか? いっそのこと『高齢経営者』版も出してほしいですよ!」(情報提供者)

 高齢社員……、なるほど、いったい何歳からこう呼ばれてしまうのだろう。

 高齢社員。この4文字が醸し出す、終末観といったら半端ないぞ。

 先に断っておくが、くだんの89ページにわたる報告書は、タイトルこそ「ん?」だが、内容はめちゃくちゃ目新しいものではなかったものの、経団連ならではの視点と分析もあり、1人でも多くの人に知っておいてほしい内容だった。

 というわけで今回は、シニア社員、あらため「高齢社員」について、あれこれ考えてみる。はい、しつこいですが、「高齢社員」についてです。

超高齢社会なのに「バリバリ元気」が基準

 まずは「高齢社員のさらなる活躍推進に向けて」の内容から、私の一言コメント(→)と共に紹介する(一部抜粋・要約)。

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