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平方剰余の相互法則

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ガウスは『整数論』(1801年)で平方剰余の相互法則の最初の証明を公開した。

平方剰余英語版(へいほうじょうよ、: quadratic residue)とは、ある自然数を法としたときの平方数のことであり、平方剰余の相互法則(へいほうじょうよのそうごほうそく、: law of quadratic reciprocity)は、ある整数 a が別の整数 p の平方剰余であるか否かを判定する法則である。

定義

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整数 ap とが互いに素であるとする。合同式

が解を持つとき、ap を法として平方剰余であるといい、そうでないとき平方非剰余であるという。

平方剰余記号

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奇素数 p と、p と互いに素な整数 a に対して、記号

を定める。

奇素数 p で割り切れるような整数 a に対しても

と定めておくことがある。

記号 を、平方剰余記号、またはアドリアン=マリ・ルジャンドルにちなんでルジャンドル記号と呼ぶ。

相互法則

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平方剰余の相互法則整数 a奇素数 p を法として平方剰余であるか否かを判定する法則である。

p, q を相異なる奇素数とするときに、
が成り立つ。

また、このほかに以下の第1補充法則、第2補充法則が知られている。

第1補充法則:

第2補充法則:

また、p と互いに素な整数 a, b に対して

が成立する。一般に素数 p に対して Fp× = {1, 2, ..., p − 1}p を法とする乗法に関してをなすが、この式はルジャンドル記号が Fp× から{−1, 1} への群準同型を与えることを示している。この写像のは位数 (p − 1)/2 の部分群であり、Fp× の元のちょうど半分が平方剰余、残り半分が平方非剰余となる。

この法則は、レオンハルト・オイラーによって予想され、カール・フリードリッヒ・ガウスによって証明された(ガウス日誌によれば、1796年4月8日。発表されたのは1801年の『整数論』において)。ガウスはこの法則に対して生涯で7つ(または8つ)の異なる証明を与えた[1]。その一つの動機は、三次や四次の相互法則を証明することにあった。現在では240以上もの証明が知られている[1]

三次や四次の相互法則は、ヤコビアイゼンシュタインによって独立に証明された(1844年にアイゼンシュタインが証明を公表)。より高次のまた一般的な代数的整数における一般的な相互法則の証明は(ヒルベルトの第9問題)、高木貞治エミール・アルティンによってなされた。(アルティン相互法則を参照)

平方剰余の相互法則の応用

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フェルマーの二平方和の定理

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4k + 1 型の素数は二個の平方数の和で表すことができる。また逆にある奇素数が二つの平方数の和で表すことができるならば、4k + 1 型の素数である。そして、二つの平方数の順序を別にすればこの分解は一意的である。

証明は、ある素数 p に対して A2 + B2 = rp と表せたならば r より真に小さい r′ ≥ 1 を選んで A2 + B2 = r′p とできるアルゴリズムの存在を示すことで行うことができる。

4k + 1 型の素数は第1補充法則より、A2 + 12 = rp と表すことができるため、このアルゴリズムを適用すればいつかは r1 にすることができる。

平方剰余の計算

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25 以下の自然数 n, 50 以下の素数 p について、n2 (mod p) を計算してみると次の表になる。

n2 (mod p) の計算表
n 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
n2 1 4 9 16 25 36 49 64 81 100 121 144 169 196 225 256 289 324 361 400 441 484 529 576 625
mod 3 1 1 0 1 1 0 1 1 0 1 1 0 1 1 0 1 1 0 1 1 0 1 1 0 1
mod 5 1 4 4 1 0 1 4 4 1 0 1 4 4 1 0 1 4 4 1 0 1 4 4 1 0
mod 7 1 4 2 2 4 1 0 1 4 2 2 4 1 0 1 4 2 2 4 1 0 1 4 2 2
mod 11 1 4 9 5 3 3 5 9 4 1 0 1 4 9 5 3 3 5 9 4 1 0 1 4 9
mod 13 1 4 9 3 12 10 10 12 3 9 4 1 0 1 4 9 3 12 10 10 12 3 9 4 1
mod 17 1 4 9 16 8 2 15 13 13 15 2 8 16 9 4 1 0 1 4 9 16 8 2 15 13
mod 19 1 4 9 16 6 17 11 7 5 5 7 11 17 6 16 9 4 1 0 1 4 9 16 6 17
mod 23 1 4 9 16 2 13 3 18 12 8 6 6 8 12 18 3 13 2 16 9 4 1 0 1 4
mod 29 1 4 9 16 25 7 20 6 23 13 5 28 24 22 22 24 28 5 13 23 6 20 7 25 16
mod 31 1 4 9 16 25 5 18 2 19 7 28 20 14 10 8 8 10 14 20 28 7 19 2 18 5
mod 37 1 4 9 16 25 36 12 27 7 26 10 33 21 11 3 34 30 28 28 30 34 3 11 21 33
mod 41 1 4 9 16 25 36 8 23 40 18 39 21 5 32 20 10 2 37 33 31 31 33 37 2 10
mod 43 1 4 9 16 25 36 6 21 38 14 35 15 40 24 10 41 31 23 17 13 11 11 13 17 23
mod 47 1 4 9 16 25 36 2 17 34 6 27 3 28 8 37 21 7 42 32 24 18 14 12 12 14

p = 3 の場合

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となる。q3 と異なる奇素数ならば、

と表せる。ここで、平方剰余の相互法則を使うと、

となり、

と求められる。今 q3 とも −1 とも互いに素であり、このことと第1補充法則より

と求められる。即ち、3 と異なる奇素数 q に対して、qx2 + 3 を割り切るような整数 x が存在することと、q6 を法として 1 に合同であることは同値である。

p = 5 の場合

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同様にして、q5 と異なる奇素数とすると、

ゆえに平方剰余の相互法則から

となり、よって

と求められる。

脚注

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  1. ^ a b Lemmermeyer, Franz. “Proofs of and Bibliography on the Quadratic Reciprocity Law”. 2017年8月30日閲覧。

参考文献

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  • C・F・ガウス『ガウス整数論』高瀬正仁 訳、朝倉書店〈数学史叢書〉、1995年6月20日。ISBN 4-254-11457-5 
  • J・C・F・ガウス『ガウス 数論論文集』高瀬正仁 訳、筑摩書房〈ちくま学芸文庫 カ-33-1〉、2012年7月10日。ISBN 978-4-480-09474-2 
  • C・F・ガウス『ガウスの《数学日記》』高瀬正仁 訳・解説、日本評論社、2013年8月30日。ISBN 978-4-535-78584-7 
  • 倉田令二朗『平方剰余の相互法則 ガウスの全証明』日本評論社、1992年10月。ISBN 978-4-535-78192-4 
  • 栗原将人『ガウスの数論世界をゆく 正多角形の作図から相互法則・数論幾何へ』数学書房〈数学書房選書 6〉、2017年5月。ISBN 978-4-903342-26-9 
  • 栗原将人「ガウスと相互法則(1)ガウスは平方剰余の相互法則に何通りの証明を与えたか」『数学セミナー』第56巻第7号、日本評論社、2017年7月1日、42-49頁、NAID 40021239196 
  • 栗原将人「ガウスと相互法則(2)4乗剰余の世界へ」『数学セミナー』第56巻第8号、日本評論社、2017年8月1日、40-45頁、NAID 40021266627 
  • 高木貞治『初等整数論講義』(第2版)共立出版、1971年10月。ISBN 978-4-320-01001-7 
  • G・H・ハーディE・M・ライト『数論入門I』示野信一矢神毅 訳、丸善出版シュプリンガー数学クラシックス8〉、2001年7月。ISBN 978-4-621-06226-5 
  • A・M・ルジャンドル『数の理論』高瀬正仁 訳、海鳴社、2007年12月。ISBN 978-4-87525-245-0 
  • Lemmermeyer, Franz (2000), Reciprocity Laws: From Euler to Eisenstein, Springer Monographs in Mathematics, Berlin: Springer-Verlag, doi:10.1007/978-3-662-12893-0, ISBN 3-540-66957-4, MR1761696 

関連項目

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外部リンク

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